第17話 強敵が誕生しているらしかった
「ロイゼン、神剣ハウスに行くのは、急いだ方がいいのか?」
神剣で飛行しながら、俺はそう尋ねてみた。
「……そうですね。バヨエインの街は、神剣ハウスからは割と遠い方なので……このペースで行くと、他のSランク冒険者を待たせることになってしまうでしょう」
「そうか……」
それを聞いて、俺は連鎖を組み始めた。
……俺は魔力で身体能力を高めることで、大規模な魔物の群れをたったの二十秒で殲滅することに成功した。
もし、その力を移動にも使えば、他のSランク冒険者たちを待たせることなく神剣ハウスに集合できるのではないか。
俺はそう考えたのだ。
だが……仮に俺が一気に加速できたとしても、ロイゼンがそれに付いて来られなければ意味がない。
なぜなら、俺は神剣ハウスの位置を知らないからだ。
となると……やることは一つ。
指定した範囲内の人間全員の身体能力を上昇させる魔法を発動するのだ。
どうやら、俺の身体能力強化魔法は脳の処理速度まで上げるらしいからな。
あまりの速さにロイゼンが神剣ハウスを見失うなんてことは無いだろう。
……などと考えていると、10連鎖分のスライムを積み上げられた。
いつもほどがっつり組み上げてはいないが……まあ今回は移動だし、これで魔力不足だったとしても、再度連鎖数を上げて積み直せば良いだけの話だ。
とりあえず、これで連鎖開始してみよう。
ポンポンポンと小気味よい音を立てながら、積み上げたスライムが消えてゆく。
そして、10連鎖が完成すると──俺は自分の位置から半径二十メートル以内にいる人間を対象に、身体能力を強化した。
……あんまり速くなった気がしないな。
俺はそう思いかけたが、そうでないらしいことはすぐに判明した。
「わあー、いつもよりはやいねー」
プヨンがそんな感想を漏らしたからだ。
感覚的なもの以上に、加速できてるみたいだな。
杞憂だと気づき、俺はとりあえず一安心した。
「ロイゼン、神剣ハウスって、この方向で合ってるのか?」
「はい。見間違えることはありません」
一応、ロイゼンが急加速でパニックになってないかと思い、そう質問してみたが……こちらも問題なさそうだ。
後は何も心配せず、ロイゼンについていくとしよう。
◇
「ユカタさん、ここです」
そう言って、ロイゼンが指差したのは……急斜面の一箇所に取り付けられた、地面に擬態するかのような色のドアだった。
……神剣ハウス、到着か。
にしても、とんでもない立地だな。
神剣使いには「神剣飛行」があるから、難なく来れるだろうが……飛行手段を持たない一般人にとっては、たどり着くのも一苦労だろう。
まあ、だからこそのSランクの秘密集会基地として役に立っているのだろうが。
……ちなみに、身体能力強化の魔力が切れたのはちょうど十秒前。
我ながらに、上手い調整だったんじゃないかと思う。
「入っていいのか?」
「ええ。もう皆さん待ってるでしょうし……早速入りましょう」
そう言って、ロイゼンは神剣ハウスのドアを開けた。
そして、中を見ると……
「……あれ、誰もいませんね」
何と、我々が一番乗りだった。
「……ユカタさん、飛行中、何かしましたか?」
ロイゼンは俺の方を振り返り、そう聞いてきた。
「ああ。急いだ方が良いみたいに言うから、範囲型の身体能力強化でロイゼンもろとも強化してたぞ」
「そんなことを……。俺、全く加速してるのがわかりませんでした。他人を超集中状態に突入させるなんて、ユカタさんはやはり、計り知れませんね」
そんな会話をしつつ、俺は室内を見回した。
……意外と広いし、綺麗なんだな。
ドアの設置場所が設置場所だったので、洞窟みたいなところなんじゃないかと予想していたが。
なんというか……日本にいた頃の、大会議室みたいな雰囲気がある。
「わぁー、ふかふかだー!」
そんな中……どうやらプヨンは部屋にある大きめのソファを気に入ったようで、その上でポンポンと跳ねていた。
「座り心地、いいのか?」
「さいこうだよー」
俺もそこに腰掛け、ふうと大きく息をついて気を休めた。
その時……神剣ハウスのドアが開き、別のSランク冒険者が入ってきた。
「ま、距離的に俺が一番……て、あれぇ?」
そのSランク冒険者は独り言を途中でやめ……目を丸くした。
そしてその男は、ロイゼンの方を指差す
「お、お前、アチャアの街のロイゼンだろ? なんでこんなに早いんだ?」
「それは、ユカタさん……こちらの、バヨエイン出身のSランク冒険者が、俺に身体能力強化をかけてくれたからですよ」
「はじめまして、ユカタです」
俺はそう言って、軽く会釈した。
ちなみに、この世界に慣れてからは、苗字は省略して自己紹介するようにしている。
「バヨエイン……? もしかして、新入りか。他人の身体能力を魔法で上げるのは、かなりの上級技術のはずなんだが……即戦力に期待できるのは、ありがたい事だ。よろしく」
その男はそう言って、となりのソファに腰掛けた。
◇
それから約十分。
俺含め八人のSランク冒険者が集まったあたりで、会議が始まることになった。
司会進行は、六番目に来た冒険者がやるらしい。
「これより、神剣ハウスでの会議を始める。司会は私、青髪のモトだ。そして議題は……『二千年物の、流星魔獣の卵の孵化疑惑について』だ」





