063_バレンタイン 2
「櫻ー、ただいまぁ」
「おかえり……あれ、佐藤くんとコースケくんじゃん、どうしたの?櫻、あんたたちにはチョコ作ってないわ。ごめん」
年上に対してあんた呼ばわりってどうなんだよ。
とは言っても、佐藤とコースケは櫻の美貌に惚れ惚れしていて全く気にしている様子もないので、俺もスルーすることにした。
「いやぁさー、翔が一人じゃ持って帰れない量のチョコレート貰ってたから手伝ってあげてたわけさ」
「俺も佐藤も0個なのによぉ……世の中平等じゃないよぉ……」
櫻は首を傾げて俺に尋ねた。
「一人で持って帰れない?翔、何個貰ったの?」
「えーと、百何個だっけ」
「142個だよ」
「はぁぁぁぁ~~~~?142個ぉ?顔だけのバカアホキモウザ変態クソ野郎に142人もチョコあげるの~~?翔の学校の女どうにかしてるよ」
こらこら、俺がバカアホキモウザ変態クソ野郎なのかもしれないけど俺にチョコくれた奴は悪くないぞ?それに俺の性格知ってて渡すやつ、そこまでいないと思うし。
「櫻ちゃん、『顔だけ』なんて言うけれど、顔って大切なんだよ」
佐藤は何かを悟ったような顔で櫻に言い聞かせる。佐藤は顔が悪いんじゃなくてメガネが悪いんだと思うけどな。中学時代から何百回も言っているのに未だに牛乳瓶の底みたいなメガネかけてるし。
これだけお菓子貰うとさ、もし俺が腹壊しても誰が原因か分からねぇな。
もっと言えば、誰かが俺の暗殺を企てていてチョコの中に毒が入っていても、犯人分かんねぇな。
3人で手分けしてチョコを食べるという、3分の2の女子には申し訳ないことを今年もする。
去年もしたし、一昨年より前だってメンバーこそ違うが似たようなことはやった。
ただ今年、3人で割っても一人当たり47個か48個食べなきゃいけないなんてな。
とりあえず佐藤とコースケにお菓子だけ50個ずつ持って帰ってもらった。
一応、手紙類は抜き取って。その程度のデリカシーはあるぜ?
「櫻、お菓子ちょーだい!!!」
「ったく~、はい」
櫻から手渡されたのは、家族用だとは思えないほど丁寧にラッピングされたもの。
わざわざ箱になんか入れてくれなくてもな。
「ありがとう、今食べるわ」
「…………」
「あのさ!!翔!!」
櫻はいきなり大きな声を出した。ちょっとビビった。
「どうした?」
「そ、そのぉ……」
櫻は顔を赤く染めて口をもごもごとしている。
「義理じゃないから!!」
櫻はリビングから逃げるように階段を駆け上った。
義理じゃない?
良くわかんねーな。まあ、家族だし義理もなにも無いよな。
ほろほろとしたチョコチップクッキー。幸せ。櫻の手作り。最高。
こんな美少女イトコの手作りクッキーが食べられるなんて知ったら、男性誰もが俺のことを羨むだろうな。ぐへへへへへへ。
俺がリビングでテレビを見ながら他の残り42個のチョコをちまちまと消費しつつゴロゴロしていると、櫻は風呂に入るために再び一階に降りてきた。
櫻は俺を見るや否や顔を背ける。
ちょ、ひどくない?
「そうだ櫻ぁ~」
「な、な、なにぃ!?」
櫻の声が裏返っている。
「え、や、どうでもいいことだけどさ。今年チョコ何人にあげたの?」
「女子含めれば十何個か」
「男子は?」
「……す、」
す?
「好きな人にしか、あげて、ないからっ」
そう言って櫻はまたリビングからいなくなった。風呂だ。
えっ?
俺は二つの可能性を思い浮かべた。
①俺は櫻の中で男認定されていない
少なくとも女じゃないよなぁ、俺。
②好きとはいっても、恋じゃない好き
確かに文字通りの「好きな人」なら、俺は下倉や櫻はもちろん、広義には佐藤やコースケのことも好きだからなぁ。
もしかして櫻は俺と仲直りしようとしているのか?
三つ目も思いつかないことはなかったが、思いついていないことにしておきたかった。
今日はチョコ食べるのこれくらいでやめておこう。
そうだ、最後に下倉から貰ったものを食べよう。
トリュフだ。女子力高そう。
トリュフの入る袋の中に、何やら手紙というかメモが入っていた。
〈義理だからね!〉
こっちは義理なのかよ……。俺に対して散々な扱いをする櫻ですら義理じゃないって言ってくれてたのに。
トリュフは、ほろ苦かった。
俺の気持ちみたいに。
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次回予告☞櫻目線の話。




