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20年後に会った元カノ、昨日別れた元彼。  作者: 逢坂 遥
第二章 十月 秋ですね。
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038_港橋を案内 【綾目線】

 「で、未羽ちゃんと上手くいってんの?」

「まあな。日曜日港橋行くんだぜ」

「そうなんだー!」

 

 ある日の放課後、私は翔とファストフード店に来ていた。

 限定味のフルーリーを飲み(食べ?)に行こう、というのが表向きの理由。

 翔もかつてより人付き合いが格段と良くなったので、すんなりOKしてくれた。

 

 本来の目的は、未羽ちゃんとどんな感じか訊きたかったためだ。

 訊いたからってどうにかなる話ではないけど、うまくいってるなら私は大人しく身を引くつもり。

 

 「てかー、港橋って私の最寄りじゃん」

 

 港橋とは、この県内で最も栄えている地域。

 港橋は国内最大の港にほど近い所に位置する。駅前には若者からお年寄りまで様々な客層向けのビルが立ち並ぶ。ちなみに近くには入園無料の遊園地もある。(回数券を買ってアトラクションに乗る、というシステム)

 

 「マジ?オススメとかある?下見に行く予定だったんだけど……」

「いーよ!てか、案内してもいーよ」

「おなしゃーーっす!!」

 

 という訳で私は港橋駅西口前のスタバの前に立っていた。

 出口がありすぎて「駅前」だとどこを指すのか分からないから。

 

 服も何日も前から考えたし、おしゃれしてきたつもりだった。

 しかしこうやってひとりで待っていると、あっちの服の方が良かったかな、とか考えてしまう。

 別に、デートじゃないから服なんてどうでも良いはずなのに。

 

 翔が来た。翔の私服を見るのは6月以来。やっぱり翔は何着ててもかっこいい。

 

 「じゃ、行こっか」

 以前の私ならここで手を繋いだり腕を組んだりしてしまうだろう。

 

 でも、ダメ。

 そんなことしたら――前みたいに、未羽ちゃんを悲しませて、翔に迷惑かけてしまうから。

 

 駅前の――一日では回りきれないような数の――ビルの中のショップからオススメの所だけ紹介していく。

 ティーンズ向けの服屋さんや、女子に人気の雑貨屋さんにインスタ映えスイーツの店。

 翔一人じゃ分からなそうな所を主に案(・)内(・)していく。

 

 『案内係』が私で良かった、と思ってくれるように。

 

 港橋は本当に広い。私は地元民だからザッと回れるけれど、初めて来た人には迷路のように思うだろう。

 オススメスポットを早足で回るだけで何時間も経ってしまうんだから、それをイチャイチャしながら回るとなれば、私がかなり厳選したはずのスポットですら回りきれないだろう。

 

 綺麗な夕日が見えた。明日は晴れかな。良かったね、翔、未羽ちゃん。

 

 「ぢゃあ……こんな感じで全部かな?」

 「まだ遊園地行ってない」

 どうだ、忘れてた。遊園地は、少し駅前から離れたところにある。

 

 「結構歩くんだな」

 遊園地に着いた。

 1キロ強歩いて、そのままUターンするのもなぁ……。

 とは思うけれど、私はあくまで案内するだけなんだから。ワガママは言えない。

 

 「戻る?」

 翔は少し考えるような素振りを見せた。

 

 「いや、なんか乗ってこうぜ」

 

 ジェットコースターの隣の席に翔かいる。

 夢にも思わなかったことだ。

 

 「翔は……絶叫モノ平気な人?」

「あんまり得意じゃないから……今日乗って慣れておこうかと……」

 

 ああ、そういうことなのね。

 少しだけ落胆した自分がいた。

 

 翔の顔を見ると、かなり青ざめている。

 

 「大丈夫だよー、これそんなに怖くないから」

「どう見ても高いし一回転する奴じゃねーか」

「バン○ット乗れれば楽勝だから」

「お前あんな殺人兵器に乗れるのか……!?」

 

 いつも無表情(or嫌悪感丸出しみたいな顔)である翔の、弱そうな表情を見るのはなかなかレアだった。

 

 最初の急降下。

 「ひえええええええええええええええっっっ」


 こんな声出すんだ。意外意外。

 

 一回転。

 「うわああああああああああああああああ!!!落ちる落ちる落ちるウウウ」

 翔ったらマジでビビってる。いや落ちないから。

 

 浮遊感MAXの、最後の急降下。

 「ぎぃやぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」

 

 不覚にも、たかがジェットコースターに全力で悲鳴をあげる翔に吹き出してしまいそうだった。

 

 「絶対明日ジェットコースター乗らない……」

 

 ベンチに翔は倒れ込んでいた。

 「そんなにジェットコースター苦手だったの?」

「なんでお前は涼しい顔していられるんだよ……」

「楽しいぢゃん」

「どこがだよ……」

 

 翔の回復までに十数分を要した。

 太陽は山の奥へと隠れ、空が藍色に染まっていく。

 

 「翔、高所恐怖症?」

「いや高いのは平気……ジェットコースターが無理なだけ……」

「観覧車は?」

 

 翔は固まった。高所恐怖症じゃん。

 デートなら彼女と観覧車くらい乗れよ……。

 

 という訳で観覧車も練習。

 

 ゴンドラ。密室。キャー。

 とか思ってるのは私だけ。悲しいかな。

 

 「未羽ちゃんと乗ったらイチャイチャするの?」

「さあな~~」

 翔はにやけている。絶対あんなことやこんなこと考えているんだろうな。

 

 「なあ、下倉」

 にやけた顔から、真面目な顔へ翔は切り替えた。

 

 「なに?」

「変なこと聞いて……いいか?」

 

 なんだろう。


 「まだ、俺のこと好き?」

 

 さすがにこれを聞かれるとは思っていなかった。

 

 「何年片思いしてたと思ってんの」

 

 そんな相手、彼女が出来たくらいで簡単に冷められるはずがない。

 

 「ごめん」

「なんで謝……」

「昔ずっと無視してたし、気持ちに応えられないってことをこうやって真面目に伝えたこと無かったし、今でも惚気てばっかでいるの。下倉に辛い思いしかさせてない」

 

 つい数ヶ月前まで口をきいてくれなかったような相手なのに。

 謝られたのは想定外すぎた。少しだけ、嬉しさすら覚えた。

 

 「翔がそんな風に変わったのは、未羽ちゃんと付き合えたからだね」

 

 以前の翔よりも棘の先が丸くなっていることは明らかに分かる。

 

 「私は……辛くないって言えば嘘だけど、翔のこと好きになって良かったと思ってるよ」

 

 翔に、振り向かれなくても馬鹿みたいに一生懸命になれたことは悪いことだとは思っていない。何らかの糧にはなると思う。

 

 ただ、悪いことではなくても、つい最近まで翔しか見えていないウザくてイタい奴だったのは事実だ。

 でもそれは、翔に恋人が出来てから私も少し変わることができた。

 

 「港橋の夜景って良いな」

 私には見慣れた夜景ではあるけれど、観覧車の中で、翔の前で見れば特別な景色に思える。

 

 翔は、優しく微笑んでくれた。

 


 駅前で、翔と別れた。

 翔は改札を通ってすぐに、人混みに紛れて見えなくなる。

 

 視界が霞み、頬を濡らし、一滴一滴と床に落ちていくのに、しばらくの間私は気づいていなかった。

お読みいただきありがとうございました。

次回も読んでいただけると幸いです。


次回予告☞修学旅行!数話に分けます。


ちなみに港橋は横浜から中華街を引いたものをイメージしました。

あくまでイメージであり架空の都市です。


バン○ットは神奈川県内の某遊園地のジェットコースターです。まあまあ怖いです。

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