033_文化祭準備
テスト前に衣装の採寸を済ませ、今回は下倉とは何も約束のないテストを適当にこなし、学年93位というまあまあな成績を残し、そんなテスト後には既にフリフリな衣装が出来上がっていた。
余談だがもう下倉とは普通に話せるようになっていた。
あくまでも、『普通』だ。席が近いから話す、みたいな程度。
今までよりは格段に会話回数が減った。
そして下倉はなんとなく鈴谷とさらに仲良くなっているような気がした。
今まで散々下倉を敬遠してきたのだ。俺に嫉妬する権利はない。
出来上がった衣装を見た。衣装班が既製品を組み合わせてリメイクしたらしい。
あまりにも完成度が高いのだが、衣装班の方々はまともにテスト勉強していたのか?
「こんなの安い服をリメイクしただけだからー」
と言ってはいるが、短期間で制作した割にはしっかりしている。
素材のチープ感には目を瞑るとして。
トップスは女物の服にならありそうな、襟にフリル、パフスリーブの先にもフリルをつけたような感じの紺色の半袖シャツ。
その上に純白のエプロンドレス。わざとヒラヒラするように作られていて、後ろにはでっかいリボンがあしらわれている。
メイド服、男がやればネタかもしれないが……。
このクラスの女の顔面偏差値はさほど高いとは思えない。
痛いコスプレになりそうだよなー。
と思う一方、下倉が着れば様になりそうだと考えてしまった。
衣装合わせのある日の放課後、部活のウェアに着替え途中の駿をとっつかまえた。
「お前のメイド楽しみにしとくわ」
「え?オレ、メイド嫌だから仕入れとかの裏方やるよ?」
ぶっ殺そうかと思った。なんで!!
教室に向かうと、メイド服姿の佐藤やコースケもいた。
『冴えないメガネ』を外した佐藤は結構普通な顔になる。
だからメガネはやめた方がいい、と何十回も口を酸っぱくして言っているのだ。
まあ、顔はいつもよりまともになっても、メイド服が似合っている訳ではないが。
コースケは論外だ。衣装班もコースケの服を作るのは大変だっただろう。胸囲100センチを越える男のメイド服など見苦しすぎて笑ってしまう。
念のため(?)言っておくが、バスト100センチではない。筋肉オンリーで100センチなのだ。ある意味大胸筋で谷間が出来ちゃうような。
着替えの遅い女子も、チラホラと教室に入り始めた。
うん。顔面偏差値微妙な方々がメイド服を着るとやはりうーむ……という感じだ。
女子同士で「○○ちゃんか~わい~」とか言い合ってるけど正直お世辞の言い合いか傷の舐め合いにしか見えない。
人数を数えたところ、メイドもどきになるはずの女子があと3人足りない。
下倉がいないのは雰囲気だけで分かる。
というと、残る2人も下倉の取り巻きの……名前忘れたけど、あの辺の奴らだろう。
まず下倉の取り巻き2人が入ってきた。
放課前より明らかにケバくなっている。
下倉ならメイド服似合うかもとか思っちゃった俺、思考を全力で撤回したい。
いつもよりさらにメイクの濃い下倉の姿を想像してげんなりした。
「ごめん、お待たせ」
聞き慣れた声で入ってきたのは。
「お前誰?」
「さすがに対応酷すぎない?綾だよー、下倉だよー!!」
頬を膨らます、下倉……と名乗る天使さん。
「いや嘘だろ」
「嘘じゃないよー?なんなら今まで翔にしてきた大好きエピソード1から言えるよー?まず幼稚園の頃ね~」
「マジやめてくれ」
天使さんがいた。目の錯覚かな。
さっきまで(お世辞で)可愛い~とか言い合ってた女子も黙る。
男子諸君は色目で天使さんを見る。
さすがに髪の色はいつものミルクティー色だが、ストレートになっている。
いつもならアイラインを目尻から1センチくらい伸ばしてつけまつげバッチリみたいなメイクなのだが、今は――男の目にはしてるかしていないか分からない程度の――最小限に抑えられている。
透明な肌が紺色のシャツとのコントラストでさらに際立つ。
第二ボタンまで開いた胸から見えてしまいそうで、かつて海に行ったときの下倉の水着姿を無意識に思い出してしまった。
エプロンドレスの、胸の下でのキツめの切り替えが下倉の胸をさらに際立たせる。
衣装班は罪深い。
白いハイソックスは膨張色だから足が太く見えるはずなのに、それを履きこなすあたり、常日頃から努力しているために叶ったスタイルの良さが窺える。
いつもはチャラそうな髪色だと思うのに、今ならこれが地毛だと言われても納得できてしまう。
「似合う?」
上目遣いで聞いてくる。良い意味でやめてくれ。
「3秒以内に答えないと抱きついちゃうぞ~っ」
なかなかに魅力的な提案だった。未羽の存在を忘れかけてしまった瞬間だ。
「うえーっと、あーっと」
似合うと一言で言い表せるレベルではないために答えられないのか、謎のプライドで言えないでいるのか、はたまた天使さんに抱きつかれたかったのか、どれか分からないが3秒が過ぎてしまった。
「とりゃー」
抱きつかれた瞬間、本能的な感情を全力で理性で抑え込んだ。ただし下半身には理性が負けている。そんなことに俺は全く気づいていなかった。
「待ておい、あの、俺には彼女がいるんですこんなことされてるの知られたらやばいんです、てかもう俺にまとわりつかないって言わなかったっけ」
つい早口になってしまった。
「それ不倫みたいに聞こえるよ」
外から佐藤の冷静なツッコミが降ってきた。佐藤は妙に不機嫌そうだった。
「……ちぇっ。似合うとか一言くらい言ってほしかっただけなのに」
くるっと背を向け下倉は女子たちの輪に入っていった。
悪いが、一言で伝えられるレベルではない。
茫然と立ち尽くす俺。
「お前なぁ…」とつっこむ佐藤。
「気づかれる前にトイレ行った方がいいぞ」と小声で忠告するコースケ。
トイレ?
その時俺が陥っている事態に男子のほぼ全員+下倉+その取り巻きあたりは気づいていたらしく俺はダッシュでトイレに逃げ込んだ。
男子トイレの中、メイド服の野郎が入ってきたことに対する衝撃がデカくめちゃくちゃ引かれた。
よく考えてみよう。
メイド服で体の一部を強ばらせて茫然と立ち尽くす野郎とは。
俺のビジュアルに自分で泣きたくなった。
全部下倉のせいだ……!!!
翌日、男子生徒の半数は羨望の目、半数は憎悪の目で俺を見てきた。
「ざまあみろ」
と佐藤は意地の悪そうな顔で言ってくる。
「いいよな、下倉に好かれてるから構ってくれてさ、俺らなんか眼中にすらないのによ」
コースケの地響きのような声はチビりそうになる。冗談じゃない。
見かねた下倉が、
「昨日、ノリで抱きついたりしちゃって、その…翔、ほんと、ごめん」
さて俺はどう答えるのが正解なのか。
いいよ、と許せば男子諸君は「また抱きついて!」とでも言っているかのように脳内変換するためジト目で見てくるだろう。
気にしていない、などと言えばあれだけのことされて気にしないとかありえないと爆発するだろう。もしかしたらあの後の俺の生理的現象も暴露されるかもしれない。
一番一般的な答えなら、彼女いるからやめろ、ということだが、今更いい子ぶってんじゃねーよと蔑まれる。かといって無視したり適当な答えにし過ぎると下倉が悲しんでしまうかもしれない。
果たしてどれが正解なのだろう。
「ま、まあ昨日はいいけど?気にしてないし?でも、あの、彼女いるから、今後は控えてくれると」
なんで俺はミックスさせて答えちゃうんだ!
俺、少なくとも文化祭までは人権無いな。長くて冬休みまでとみた。
「気にしてないって言ってるけどさー!昨日綾が抱きついた後の篠宮思いっきりさー」
「う゛あああああああああ!!!」
結局男子にではなく下倉の取り巻きに暴露され、女子にもしばらくの間口を利いてくれそうになかった。
お読みいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
誰ですか評価入れてくださった方!!感謝感激雨あられ!!ありがとうございますヾ(❀╹◡╹)ノ゛
次回予告☞サイドストーリー的な感じになりますが。綾と駿のお話。短い。




