031_カラオケ店にて 【綾目線】
私はいつの間にかカラオケ店の個室にいた。きっと人前に出られる顔ではないのだろう。
駿はやはり気が利く人なんだね。
「大丈夫?」
泣きじゃくる私をそっと優しく撫でてくれた。
傷ついているせいか、それだけでキュンとしてしまう自分がいた。
道徳とかそういうのは考えられなくて、とにかく自分を癒やしたかった。
「抱きついちゃダメ?」
こんな態度すれば駿にからめ取られてしまうのは分かっていた。自分から落とされようとしているようなものだ。
「いいよ、何してもいいよ」
想像よりも厚くて硬い体にドキッとした。
それから、いっぱいいっぱい、翔の話をした。出会った頃の話から今まで。
また目から滝のように涙が出そうだった。今まで体験したことがないほどに胸が痛い。
「俺がいるよ」
やっぱり駿は優しい。別に私だから優しいって訳じゃないことなんて知っているのに、騙されそうになってしまう。
そういえば駿に抱きついていたのに今更ながら気づいた。
「ごめん!」
慌てて離れた。
「いいよ、綾だから」
「そんなこと言うと惚れちゃうよ」
「綾に惚れられたら本望だよ」
そういうこと軽く言えるあたり慣れてるなと思う。
「そういうことばっか言ってると……自分は優しいと思ってるのかもしれないけど、女の子傷つけるよ」
「どういうこと?」
「誰にでも思わせぶりな態度はとらないほうがいいよ」
「ぶっちゃけ言うけどその辺の女の子みーんなにお悩み相談なんかのってたら時間足りないよ?」
こっちが聞き返さないといけない番だった。
「だから、他の女のコたちとはただ遊ぶだけだって。失恋だとか暗い話なんてキリないし興味なければめんどいだけじゃん?」
そんなの私が特別みたいに聞こえちゃうじゃん。
これ以上繰り返しても不毛だと思った。崩れに崩れたメイクをメイク落としシートでさっと拭いた。
「ここカラオケでしょ!?もう歌ってストレス発散してやる!!!」
お気に入りの曲を入れた。残念なことにその曲は失恋の曲だった。歌詞の良さがいつもに増して心に沁みいる。
「駿~~~っ」
別に私は駿にとって数多い女の一人なのだとは知っている。
それでも優しくしてくれる彼に今日だけは甘えようと思った。
「また綾が元気な時に遊ぼう?あとさ、いつでもLINEとか電話とかしてくれればさ、話何時間でも聞くから」
実際、駿は私のために何時間も話を聞いてくれた。愚痴も昔の話もできてスッキリした。LINEの電話の記録を辿れば夏休みだけで10時間はゆうに越すだろう。
そして他の女の子とも忙しいはずなのに私が会いたいと言ったら予定を(何件もキャンセルしたらしいけれど)空けてくれた。
そうして遊ぶうちに、少しずつ忘れさせてくれた。
駿の手にまんまとひっかかっているだけかもしれない。それでも今の私には駿しかいなかった。
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次回予告☞新学期。




