015_体育祭 3
体育祭、今回で終了。
スタートを告げるピストルの音がグラウンド中に響く。
最後の種目、リレーが始まった。
一走。さすがテニス部のエースやってるだけある。鈴谷。速い。
最初から他の団の走者を引き離していく。周りの女子が割れんばかりの歓声をあげている。
二走。二谷。こちら女子トップクラスの運動神経の持ち主だ。
後ろから赤団の、陸部の短距離やってる奴が追い上げてくるが、なんとか抜かされないままバトンパス。
三走。下倉。こいつが足なかなか速いのはなかなか意外だ。でも。
抜かされた。
さっき競っていた赤団がトップに躍り出す。
赤団のアンカーは野球部の奴。うわ絶対速い。でも……負けたくない。
下倉の手からバトンが渡る。バトンパスでスピードを殺さないように飛び出した。赤団の奴の背中まで3メートル。
大丈夫。俺だって速い。
今まで高校入ってから基本無気力省エネモードでやってきたけれど。
たまには出来るんだぜ?
スイッチが一段階動いた。高校入って以来動かしていなかったあたりの。
ぐんぐん前の奴に近づいていく。ゴールまであと5メートル。
抜かせるか?いや、抜かさねーといけない!!!
最後の力。ゴールは倒れ込むように。
「ただいまの勝負――――」
アナウンスがかかる。俺ですらどちらが上回ったのか分からない。
「審議中となっておりますので暫くお待ち下さい」
そんなに僅差だったんだ。やべぇな。
すると放送委員ではなく体育教師が出てきた。咳払いをしてから
「えー、目視では判断できないほどの僅差だったため同率1位とします」
うーん。
これで良かったかな?分かんねえ。
「翔おつかれっ……!!」
「うわ、ちょっ…やめろっ」
下倉が前から抱きついてくる。柔らかい胸も押し付けられる。
周りがざわざわしているのが分かる。本当にやめてくれ。
「はーなーれーろっ」
「やだ」
やだ、じゃねーよ、なんなんだよこのクソアマ。
「かっこよかったよ、翔~~」
「なんでもいいから離れろ」
やっと離れてくれた。また佐藤になんか言われるだろうな。
「俺には抱きついてくんないの??」
「駿には抱きついてくれる女の子いっぱいいるでしょ?」
無邪気そうに笑いながら言う。ごもっともな気がする。ただ、さっきのことを聞いた後だと少し可哀想にも思えてくる。
総合成績は2位だった。まあまあだな。嬉しくも悲しくも無い順位。
閉会式で、また長ったらしい話を聞かされた。ただでさえ疲れてるのにだるいよなぁ。
鈴谷や下倉に打ち上げに誘われたけどパス。早く帰りたかった。
鈴谷に話きくのはまた今度でいいや。
一足先に帰っていた櫻がリビングのソファでくつろいでいた。
「ただいま」
「……おかえり」
「見てた?」
「まあ。おつかれ」
昔の櫻を知っているこちらとしてはなんともそっけない対応だが、口をきいてくれるだけ最近はマシだ。
「夕飯」
「はい?」
「食べに行くかって聞いてんだっつーの!!!」
え?櫻が?クソキモシスコンもどき従兄と食事に行ってくれるの!?
「死んでも行きます櫻あああああああ」
「キモ。行く気なくしたわ」
「は???ひどくないっすか?」
溜め息をついても様になる櫻は
「……さっきは格好良かったよ」
いつぶりにそんなこと言ってくれたかな!?!?って脳内はカーニバルだけど表に出したら本当に罵倒される。やめておこう。
「……ありがと」
「ふん」
櫻は自室に戻ってしまった。俺はカーペットに転がりうたた寝をしてしまった。
「食事行く気あるんだったら起きろっつーの!」
櫻に勢いよく踏んづけられて起きた。いや、櫻だったらいくら踏まれても本望?
んん、やばい。また変な方向へと思考が傾いていく。
「ご、ごめ……」
俺が起きて見てみたら、いつもも可愛い櫻がより一層可愛く……大人っぽくなっていた。
化粧ってのも、節度を弁えればいいものなのかもしれない。下倉レベルは論外な。
「いやあー、女って彼氏が出来ると変わるもんですね」
「何言ってんの?」
何言ってんの、と言われましても、俺が知っていた頃の櫻はそんな肩が透けて見えるような服持っていなかったし、ファンデーションすら塗ったことがないような人だった。いや、すっぴんでめちゃくちゃ可愛いから化粧などする必要ないんだけど。
「私と一緒に出掛けるんだからそれなりの服装しなさいよ、私が恥ずかしくないようにね」
櫻ってこういうキャラになっちゃったんだな。まあいいけど。櫻のツンデレ最高。
「見くびんなよ、俺そこそこイケメンだから」
ドヤ顔で言い放ってみた。『は?』とか『キモ』とか言われるだけだと思っていた。
「……知ってるよそんなこと」
意外な反応だった。逆に俺が面食らってしまった。
「ほら!早く着替えなさいっ!あと30秒!」
「はあああああ!?!?」
「ったく遅いんだから。2分17秒」
「いやかなり頑張っただろ!」
「その辺で寝腐ってるからいけないんだよ……ほら」
玄関を開けると、櫻は俺の手を掴んだ。いつぶりだろう、こうして櫻の手を握る感覚は。
「ねえ早く!」
風にたなびく櫻の長い黒髪から、俺と同じシャンプーを使っているはずなのにとてもとても甘い匂いがした。
お読みいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
次回予告☞駿と翔の話。彼らの話題は、前(話で保留にした)綾のことです。




