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日曜日、隣に悪魔が来ました

 その後、話はどんどんとそれていき、そして襟亜さんは夕食の支度をすると言って席を離れたので、俺もお暇する事にした。

 ラビエルさんは人間を巻き込むなと言ったし、俺自身もただの人間で、何も出来ないと思っていたが、縫香さんは俺の魔法耐性能力を利用するつもりらしいから、結局は巻き込まれる事になるだろう。命の危険に晒される事が無いよう願う事しか俺には出来なさそうだった。


「大丈夫、ひろくんは私が守る!」


「うん、ありがとう……」


 自分の交際相手から力強い言葉を貰いつつ、俺は改めて自分の凡人具合を噛みしめながら自宅へと戻った。せめておれに町田の様な天才的な頭脳があれば、何かしら役にも立てるだろうし、来島さんの様に幅広い知識があればそれも素敵な才能なのだが……。


(でも、魔法を無力化出来るというのが、俺に与えられた力なんだと思えば……)


 日常では全く役に立たない能力だが、非日常では役に立つ事もあるだろう。縫香さんやコイルさんの隠蔽魔法を無効化してしまう様に、相手の魔法を無効化する事が出来るはずだ。それ以上は何も出来ないのだけれど。


 頬白家をあとにした俺は、自宅に帰ると家族と共に平凡な夕食をとり、風呂に入り、そして平凡な日曜日を迎える為に、布団の中に潜り込んで目を閉じた。




「んーん、久しぶりのこの匂い……くんかくんか……」


「うっ? くすぐったい! な、なんだ!?」


「おっはよー、ダーリーン! 長い間一人にしてごめんね、寂しかった?」


「うわあリザリィが帰ってきたぁ!」


「そんなに喜んでくれるなんて、うれしーい。隣に引っ越してきた甲斐があったわぁ」


「は? 隣に引っ越し?」


 隣は元老人の家で、今は頬白家だ。リザリィの言っている言葉の意味が分からず、窓を開けてみると、なんと隣の家は三階建てになっていた。


「勝手に建て増ししてる?! 日曜日、隣に悪魔が来ましたって感じ!?」


「ちょ、ちょっと、なんなのこれ!? リザリィちゃん、今すぐ降りてきてくれるぅ? それとも私の方から捕まえにいきましょうか?」


「べーだ! 捕まえられる物なら捕まえて見なさいってー」


「あらやだこの子、私の喧嘩を買うなんて上等だわ、今すぐ首根っこ捕まえてあげる」


 というや否や、その顔から笑顔が消え、襟亜さんは隣の玄関先から隣の二階の俺の部屋の窓枠に飛び乗ってきた。


「っ!」


「久しぶりだな、クロービス」


「あらリシアさん? どうしてあなたがここにいるのかしら?」


 腰に日本刀を携えたエプロン女が、二階の窓枠で刀の柄に手を添えている。そしてその手を紺色の髪の女性が上から押さえていた。出で立ちはノースリーブの白い襟付きシャツに黒いミニスカートと網タイツという若者風だが、髪には4、5本のかんざしをさして髪の毛を纏めていて、どことなく和風スタイルだった。

 リシアと呼ばれたその女性の手には忍者の持つクナイが握られていて、その柄で襟亜さんの抜刀を押さえ込んでいる様だった。


「コイルの代わりにリザリィの護衛を務める事になったリシア=フィアルちゃんよ。お前達、知らぬ仲では無いんでしょ?」


 そう言いながら、リザリィは今がチャンスとばかりに俺に抱きついて、顔をこすりつけて甘えてきていた。勿論、男としては、悪い気はしないのだが……相手は闇の令嬢であり、地獄界の悪魔で、誘惑に負けたら最後、真結と共に下僕にされてしまう以上、気を許す訳にはいかなかった。


「どうして魔界の名家の一つ、フィアル家のお嬢様が、ライザリなんて悪魔のお付きになりさがっているのかしら?」


「クロービス、お前、あのコイルを倒したそうだな?」


「何の話かしら? 彼を倒したのはラビエルよ?」


「コイルは身を呈してリザリィを庇ったそうじゃないか、お前、コイルが本気でお前を倒せないと知っててやったのか?」


「何か、勘違いしてませんこと? 私はコイルを倒してないって言ってますでしょ?」


「コイルはお前に好意を寄せていたんだぞ? その心を利用したのか? そこまでお前は外道に成り下がったのか?」


「だ、か、ら! 私の話、聞いてる? 私はコイルを倒してないの! コイルを斬ったのはラビエル! 天使!」


「リザリィとコイルから話は聞いてるぞ。カニス家もそこまで墜ちたとあっては、フィアル家としては放っておくわけにもいかん」


「ちょっと、少しは話を聞きなさいよ、それともあなた、もしかしてコイルの事が好きだったのかしら?」


「いや全然」


「そこだけ即答?! だからコイルを斬ったのは天使。私じゃないの。ちょっとリザリィ、あなた、どういう風に説明した訳?」


「んー……クロービスと色々あってコイルが心半ばで倒れた。そんな感じ?」


「こっ、この子……さすがは悪魔ね……ちょっとリシア! いい加減にしないと私も本気で剣を抜くわよ? こんな悪魔の言う事を真に受けないで頂戴!」


「ほう、では剣を抜いてみろ」


 リシアという女性の顔に嘲笑の笑みが浮かび、そして襟亜さんの顔から作り笑顔が消えた。


「待って下さい! コイルさんを倒したのはラビエルという天使なんです。コイルさんはリザリィを庇って天使に斬られて、その天使を迎え撃ってリザリィを庇ったのが襟亜さんなんです」


「……彼は?」


「私のダーリンよ」


「私の妹の彼氏よ」


「貴様、二股か!」


「違います! リザリィは受け入れてません!」


「襟亜おねーちゃん、大丈夫!? わぁ、なにこれ? 真結の家が三階建てになってるー」


「おっ、真結ちゃん、久しぶりだな」


「あ、リシアさん、お久しぶりですー」


「朝からうるさいなーもう……なにやってんのよ……全員ぶっとばすぞう」


「あ、シドニーさん、お久しぶりです」


「ん? 誰?」


「リシア=フィアルです、覚えてませんか」


「……とりあえず全員降りてこい、朝から他所様の家の窓際で騒ぐな。近所迷惑だ」



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