天使と悪魔のメール交換
「ひろくん、寝てないの? 大丈夫?」
朝、女性陣が身支度を整えて朝食に行こうと誘いに来た時、真結が俺の顔を見てそう言った。しかし、真結の目の下にもクマが出来ていて、彼女自身、睡眠を取れていないのが明らかだった。
「真結こそ、大丈夫?」
「うーん、お姉ちゃんが一晩中寝返りうつから、私もあんまり寝られなかったよ」
という硯ちゃんはそれなりにちゃんと寝たらしく、元気そうだった。
「だって里詩亜さんが時々、隣の部屋をのぞき見してたから……」
「のっ、覗いてたわけじゃない! 何事かないか、警戒していただけだ!」
「いや、なんだかもうちょっと下心があった様にも見えた」
「来島さんは何を言い出すんだ? どこをどうみたらそうなるんだ?」
「やけに真剣だった」
「それは当然だ。この結界を抜けて襲ってくる様な敵が来たとしたら、相当の相手だ。気を抜くわけにはいかん」
「だから、安心せいと言うたに、お前達は……結局、寝られたのは硯と来島で、真結と里詩亜と弓塚は寝ておらんのか」
「私は、一晩ぐらい寝ずとも問題無い」
「まぁアサシンはそうかもしれぬが、真結と弓塚は困ったものだのう……」
「大丈夫です。ちょっと休んだら、いけます」
「朝食を抜くのはあまり薦められた事ではないが、弓塚と真結は部屋で寝ていろ。代わりに弁当を用意しておく」
「ウサ子先輩すいません、ふわあぁぁ……ちょっと寝てきます」
「俺も……」
「里詩亜も仮眠を取れ。一時間で良い」
「分かった。では一時間だけ」
「あ、仮眠させるなら同じ部屋でいいと思いますよ」
町田がラビエルさんにそう言うと、ラビエルさんは少し考えた後、好きにせいと答えていた。
「じゃあ三人とも男子部屋で。女子部屋は今から男子禁制だから。化粧とかしないといけないし」
「かしこは化粧の必要なんてないじゃないか」
「あー……今の町田が言いたい事は分かるけど、一応ね、女の身だしなみだから。そこでおべっか使われても仕方無いの」
「でも言って欲しいってのが女心なんだぜ、覚えとけよ弓塚」
「んー……ん? 分かった」
とは返事したが、何にも聞こえてなかった。俺達二人がフラフラと男子部屋へ入ると、何故か里詩亜さんが一生懸命三人分の布団を敷いていた。
「お前達、本格的に寝るつもりか……」
ラビエルさんが呆れていたが、町田に何か言われて、渋々障子を閉めていた。
「んー……ひろくんの匂い……安心する……」
「くすぐったいよ、真結……」
「…………」
真結が俺の布団に潜り込み、首筋を匂ってきた所までは意識があった。しかしその後、里詩亜さんまで俺の布団に潜り込んでくるとは思わなかった。食事の後に町田が部屋に戻り、町田自身の荷物を運び出した事にも気付かず、俺達三人は昼近くまで寝ていた。
「はいはい、三人とも起きてー、リザリィちゃんが怒ってるよー」
硯ちゃんに言われて、身体を動かそうとしたが、真結と里詩亜さんに抱きつかれて全く身動きがとれなくなっていた。
「あの……二人とも、起きて下さい……」
「お姉ちゃん、里詩亜さん、起きて」
「うーん……むにゅ~……ねむい……」
「……あっ、す、すまない。いつの間にか寝てしまった」
「里詩亜は寝る気まんまんだったでしょ」
「今日の来島殿は随分と手厳しい……」
「いや、今のかしこは常に手厳しい。気にしなくていい」
既に出発の支度を調えた皆が、見下し目線で俺達三人を見ていた。里詩亜さんは慌てて飛び起きると、部屋を出て女子部屋へと戻り、真結はまだ半分寝ながらよたよたと里詩亜さんの後を追いかけていった。
布団から出た俺は、すっかり目が醒めて、自分の荷物の所へ行くと、上着を着てその上着の内ポケットに町田から貰った小包を入れ、ボストンバッグを抱えた。
「男はすぐに準備出来るが、女の子の方はどうかな」
来島さんがそう言いながら、女子部屋の様子を見ていたが、里詩亜さんはすぐに部屋から出てきた。これは予想出来るとして、あとは真結だった。
「まだ時間がかかると思うから、皆は先に行って。私は真結ちゃんと後から行くわ」
来島さんがそう言うと、ラビエルさんが任せたと言い、俺達は一足先に神社を後にした。
リザリィ達は神社の結界からギリギリ離れた所で待っているらしいが、既に30分前に到着していて、いささか暇をもてあましている様だった。
「どうして天使の私が悪魔とメッセージ交換をしなければならぬのだ……」
「天使が携帯端末を持ってるのって、なんだか不思議な感じですね」
ラビエルさんは女子高生並みの速度でメールを書いていて、なんどもしつこく来るリザリィからの、まだなの? という問いに、まだだと答えていた。
「リザリィって結構、しつこいですよ」
「仕方無い。非はこちらにある。これは単に暇だからメールを書いているだけじゃろう」
さすが天使様、心が広い。と思いつつ、神社の敷地を出て、待ち合わせ場所に向かう。そこから先はほぼ真北に向かって進み、あらかじめ縫香さん達が偵察していた所を最初の目的地にしていた。
「もう、おそいおそいおそい、おっそーい!!!」
「あら、やっと来みたいね」
「なんだ、もう来たのか」
「では、荷物を片付ける」
待っていた四人は、その場にシートを広げて酒を飲んでいた。暇さえあれば酒を飲むその姿に、なんだか不安を感じてしまった。
「真結と来島さんがまだみたいだけど……きっと真結のせいね」
「お姉ちゃんは二度寝すると起きないんだよね」
「あらあら二度寝させちゃったの? 二度寝させると一日中寝るわよ、あの子」
「昨晩は眠れなかったようで、仮眠をさせたのじゃが、良くなかったか」
「いいよ。寝不足よりは少しでも寝た方が良い。みんなが居るんだ。嫌でも目が醒めるさ」




