目には目を
「つまり、ワシはもう、どうする事も出来ない。詰み。デッドエンドという事か。あとは悪魔に捕まって食われるか、奴隷としてこき使われるかしかないのか」
「シャンダウ様に頼めば、天界に行けるかもしれぬ。ただし、その時は死なねばならぬし、どちらの魂が救済されるかは分からぬな」
「はぁ……やはり、ワシもテラヴィスも、寿命に抗わず、300年前に天命を全うしていた方が良かったのか……」
「そうでもないわよ、ここまで生き延びて、リザリィ達に逢えたのもまた、幸運かもしれなくてよ?」
リザリィがワインをぐい、と飲み干して、そう言った。いつも俺が座っている所に陣取ってソファの上でゴロゴロしながら、食べ物と飲み物を堪能している。
「何か、道がある、と?」
「そうね。レヴィから、折られた角を取り戻せば、魔力は戻るんでしょ?」
「それはそうだが、あの男に勝てるのか? 地獄の男爵だぞ?」
「私の兄上は地獄の君主様よ? 格が違うわ。それにレヴィはデビル。所詮は宮仕えの身。私達はデーモン。爵位も上下関係もない、力こそが正義よ」
「そうなんだ。じゃあ頑張って」
「ちょっと、もうお酒飲んだんだから、縫香も働きなさいよ」
「これは謝罪のお酒じゃないの? 私がお酒で動く女だと思ってるの?」
「そのリキュール、普通では絶対に手に入らない希少品よ。この世に三本しかないうちの一本を持って来てあげたのよ、兄上に頼んで」
「……確かに、こんな味の酒は、今まで飲んだ事が無いし、魔力も繋ぎ止めるどころか、体内から湧いてくる感じがするが……」
「もうね、兄上に言っちゃったの。シドニーも手伝ってレヴィの悪巧みを邪魔してくるから、秘宝のお酒を頂戴って」
「今回は、グラーツ卿も無視してはいない。出来ればグラーツ卿自身が動く様な事になる前に、事態を収拾したいのだろう。だからフィアル家に話が通され、私が任を受けたんだと思う」
「……レヴィストは厄介だからなぁ……敵にはしたくないなぁ……あの犬をぶつけられて、もう敵になってるってのは分かってるんだけどさ」
「化かしあい、騙しあいでレヴィには勝てないわねぇ。でも、あなたなら彼の居る所へ私達を連れて行けるんでしょ? 龍脈を辿って」
「そりゃ行けるけど、向こうにはバッレバレだし、罠に飛び込んでいくようなものだけど、それでもやる気? ラビエルはどうなのよ?」
「既にシャンダウ様のお言葉は頂いている。テラヴィスを確保し、その真意を聞けた事で、シャンダウ様からの依頼は成された。以後私はテラヴィスと共にその角を取り返し、必要とあらばレヴィストを討伐する」
「私の仕事は、テラヴィスを捕らえた事で完了にならないかなぁ?」
「縫香、先にいっておくけど、リザリィを本気にさせたりしないでよね? ダーリンや真結ちゃんの手前、頬白姉妹とは仲良くしたいんだから」
「わかってるわよ。もう飲んじゃったし。あーあ、分かってたら飲まなかったかもしれないのに、後から言うなんて、悪魔って本当にズルイんだから」
(リザリィが最初から言ってても、縫香さんは絶対飲んでたと思うなぁ……)
おそらく、俺が思った事は皆も思っていた事だろう。
「あとね、今回、リザリィには勝算があるの」
「ほう、どんなの?」
「来島かしこと町田努、この二人なら、レヴィを越えられるわ。私が知る限り、レヴィはキレる策士でしかないの。でもかしこと町田君は違う。あの二人は紛れもない天才よ。頭が良い、なんてレベルじゃないわ」
「ま、町田も巻き込むつもりなの?」
「かしこをついてこさせれば、町田君は来ないわけにはいかないでしょ?」
「リザリィはやっぱり悪魔だよ……」
「大丈夫よ。地獄までついてこいって行ってるわけじゃないから。あくまで二人には人間界で助けて貰うの。縫香がレヴィの所へ行く道を見つけるまで助けて貰うだけだから、命を狙われる事は無いわ」
「まぁ、それなら……」
と俺がどうこう言った所で、リザリィを止められるわけもなく、今回の一件については、俺も真結も傍観者に近かった。或いは巻き込まれた被害者。
「あのレヴィストの悪知恵を越えられるって言うんなら、なんとかなるかもね。その白竜の角、取り返しに行きましょうか」
縫香さんは覚悟を決めたように、他のリザリィの酒も手をつけていた。
「ありがとう……ここに来て、まだ希望を持てるとは、思わなんだ」
「良かったのう。ちゃんとシャンダウ・ロー様に感謝して、落ち着いたら信者になるのじゃぞ」
「それは、宗教の勧誘か?」
「勿論じゃ。天使が仕える神の教えを広めぬ訳がない。ま、ここにいるのは悪魔を除いて、みんなシャンダウ様の信者みたいなものじゃ」
「はい、テラヴィスちゃん。シャンダウ様の恩恵がある、お肉をどうぞ」
「あ、それは、カルビ? いただきます」
(今、一瞬だけ、テラヴィスが出てきた様な……)
アイスクロウを押し退けてテラヴィスが出てくるなんて、そんなに美味しいのかと思って、俺も食べてみた。そのカルビ肉は口に入れた途端、肉とは思えない柔らかさで口の中でとろけ、濃厚な味で口の中がいっぱいになった。こんな肉、今まで食べた事が無かった。
(これなら、欲しがっても仕方が無いか)
新たに出てきた問題は、来島さんと町田の事だった。あの二人はあくまで情報屋として距離をとると言っていたが、リザリィの話ではそれ以上に深く関わってくる事になるだろう。
町田はリザリィの言う通り、頭が良い。だが、頭が良いが故に、この話にのってこないかもしれない。来島さんの身に危険が及ぶなら尚更、避けたい話だろう。
リザリィは明日学園に行ったら、すぐにかしこに何らかの働きかけをするだろうが、俺はどうしたらいいのか困った。
(リザリィに任せて、自分は何も知らないふりをする……というのは無理か)
俺は、隠し事がうまく出来る方じゃない。町田は気付いていても素知らぬふりをしてくれるだろうが、来島さんが絡むとなるといい気はしないだろう。
(となると、正直に話すしかないよな……)
最初からその答えしかない事は予想できた。
それによって町田が断ったり、リザリィの考えを読んで回避する可能性がある。
それはそれで良いとしても、リザリィの話からして、町田と来島さん無しで、地獄の男爵と渡り合うのは難しいらしい。どうしても町田に来て欲しいとなれば……。
(なんとかヒーローモードにさせるしかない)




