第1話 最弱の俺に、チュートリアルが始まった
夏。
12歳の少年真堂大河の住む二階建て一軒家は、住宅街の中程に位置していた。一歩外に出ればどこに行っても猛暑が襲いかかる厳しい夏だが、庭に植えられた立派なみかんの木のおかげで、庭の一部は涼しげだった。その根元付近には、今よりもっと小さいころに大河が落書きしたヒーローの跡が残っている。
その日、大河は家を出たところで怪しげな黒い影に遭遇した。体は真っ黒でシルエットしかわからないが、大人の女性のように見える。
大河はその影と対面した瞬間、頭の中が真っ白になった。吸い込まれそうな漆黒に、本能的に恐怖していた。真夏なのに、まるで真冬のように背筋が凍えている。
「大河!」
家の中から、事態に気がついた大河の父親が慌てて出てきた。
一体どのくらいの時間向かい合っていたのか――相手には目がないので大河を見ていたかどうかすらわからないが――父に抱えられてようやく意識が戻ってきた。
「父さん……!!」
大河は父に続いて現れた母に渡され、抱きかかえられた。
「大河を地下に! 管理局にも通報だ!!」
父は母に指示を飛ばして、目の前の黒い影に集中していた。かなり切羽詰まっているように見える。
母は強く頷いて、大河を抱え再び家の中へ。母も同様に、かなり緊迫した面持ちだ。母の肩越しに見た黒い影と目が合った――大河はそう感じていた。
玄関からまっすぐ伸びる廊下のフローリング、その一部を踏みつけると、床に隠し階段が現れた。
「練習したとおりに、この中で待っててね」
大河を地下に誘導し微笑みかける母の顔はしかし、強張っていた。
「でも」
両親の様子から、ただごとでないと大河自身も察していた。不安げな表情を見せる大河に、母は再び微笑みかける。そして大河だけでなく、自分をも勇気づけるように言った。
「大丈夫。お父さんもお母さんも異能力者なのよ」
「母さん……!!」
そのまま床を閉じられ、大河は地下室に避難することになった。
頼りない照明に不安になりながらも、以前練習したとおりに非常食を食べて寝具を用意し、布団の中で目を閉じた。枕元に、両親と自分、そして行方不明になった姉の四人が写った家族写真を添えて。
翌朝、結局ろくに眠れなかったが、まだ両親からの合図はない。我慢しきれず、大河は地上へ続く階段を登った。
「……え?」
外に出た瞬間、自分がどこにいるのかわからなかった。少なくとも、自宅の廊下に出てきたとは思えない。見渡す限り瓦礫の山で、広すぎる空が広がっていた。あちこちで警報と放水の音、人の叫び声が鳴り響く中、太陽光の眩しさだけが大河の知っている世界だった。
ふと視線を横に向けた時、見覚えのある木が目に入った。幹が折れてしまった何かの木――その根元付近には、大河が落書きしたヒーローの跡がある。
それに気がついた瞬間、大河は青ざめた。ここは大河の家で、大河の街だ。だがすべてが破壊され、地形が変わってしまうほどの大穴と隆起がそこら中に散見される。自分の家も街も、跡形もなく消滅してしまったのだと理解した。
茫然自失。
心の置きどころを見失い、涙も流さずただ虚空を見つめていた。
向かいの家の瓦礫の奥に、背広姿の男と制服姿の別の男がいた。制服姿の男が、背広姿の男に何やら報告している様子だ。
もはやすべての光景は大河には背景のように映っているが、彼らの会話が鼓膜を揺らす。
「異能力者の生き残りは見つかっていません」
「モンスターの特定はできたのか?」
背広姿の男は見るからに苛立っている。制服姿の男は萎縮した様子で横に立って、ファイルをめくっていた。
「不明です。報告と目撃証言によると、何やら黒い影のようなモンスターだったと……」
黒い影――その言葉を聞いて、大河は直感した。
あいつだ。家の前にいた、あの黒い影。
「その影の痕跡も見当たらず……現在鋭意捜索中です」
「ちっ、逃げたか」
逃げた。あの黒い影のモンスターが、街をめちゃくちゃにして、逃げた。
その言葉が、大河の脳内で反芻されている。空虚だった大河の顔が、鬼の形相に変わっていた。
黒い影――あいつを絶対に殺す。父さんと母さんを殺して、街を壊したあの黒い影を、絶対に、俺の手で。
大河はこの日、異能力者として目覚めた。
――――――――――――
5年後。
17歳になった真堂大河は、ポータル管理局の巨大なタワービルを見上げていた。全面ガラス張りで、上に行くほど細くなっていく流線型の建物だ。
大河は手をかざして、自身のステータスウィンドウを表示させる。青を基調としたシステマチックな枠がまるでゲームのように空中に現れて、自分以外は見られないテキストがそこに記されていた。
【真堂 大河
クラス《ビギナー》
ランク:G】
その表示を見て辟易しつつ、大河は現在の世界の形に思いを馳せる。
世界がゲームのようになってしまったのは大河が生まれるよりも前、突然の出来事だったらしい。
[異次元世界に接続しました]
世界中の通信がジャックされ、そんな謎のメッセージが送られた。
直後、今ではポータルと呼ばれる次元の断層が各地に出現した。それはゲートの役割を果たしていて、ポータルの向こうは様々な異次元の世界、通称『異次元世界』につながっていた。
ポータルからは未知のモンスターが現れ人類を襲ったが、同時に救世主も現れた。
異能力者――様々な異次元世界から力を受け取り人知を超えた特殊な能力を手に入れた人間はそう呼ばれた。
今大河の目の前にそびえ立つ巨大なタワー――威圧的で未来的で、非機能的なデザインのそれは、まさに異能力者時代の象徴の一つと言える。
大河は重い足取りで中へ進んだ。
自動扉をくぐると先進的な雰囲気のロビーが広がっていて、多くの人が詰めかけていた。
「あ、有名人だ」
どこからかその声が聞こえた瞬間、大河は隠れるように俯く。
「誰?」
「知らないのか? 能力値最低、無能で最弱のGランカーだよ」
ロビーにいる人々が一見ヒソヒソと話しているが、無遠慮な声量で話しながら、蔑むような視線を大河に送っていた。
「G!? 異能力者のランクってFが最低じゃないの?」
「普通はな。世界唯一の例外が、アレだ」
「まだ異能力者だと思ってるらしいぜ。一般人と変わらねえのに」
「ダセェ。みっともねえ悪あがきだな」
嘲笑される中、大河はまっすぐに受付を目指した。こんなのは、いつものことだ。そう言い聞かせないと、その場で泣いてしまいそうだった。
大河は受付で、馴染みの担当者に声をかける。
「美鳥さん。俺に行けそうなクエストありますか?」
その人の胸元では『冴島美鳥』と記された小さなネームプレートが照明を反射していた。横の髪を耳にかけて、美鳥は心配そうに大河の顔を覗き込む。整った顔の眉を寄せ、半ば微笑みかけるようにじっと大河を見つめている。
「大河くん……大丈夫?」
「……平気ですよ。いつものことですから」
「そう……」
美鳥はつらそうな表情でうつむくと、それ以上は何も言わずに端末を操作していた。キーボードを触りながら、申し訳なさそうに美鳥は首を横に振る。
「残念だけど、大河くんが引き受けられるクエストはないわ」
「そう、ですよね……Gランクに任せられるような仕事はないですよね……」
大河はウィンドウで自身の能力値を見て、疲れた顔でため息を漏らした。
【体力 :1
筋力 :1
魔力 :0
速力 :1
巧力 :1
持久力:1
抵抗力:1
精神力:0
感応力:0】
わかっている。こんな一般人と変わらない能力値じゃ、仕事なんかあるはずがない。
「ちなみに、例の黒い影の情報は……」
これも、いつもの定型的な質問になりつつあった。大河が子どもの頃に出会い、両親を殺したあの黒い影。その情報を、今なお追い求めているのだ。
端末を操作する美鳥だが、目を閉じて申し訳なさそうに首を振る。
「……ダメね。その情報にアクセスするには、Sランク以上の権限が必要だわ」
大河が家族と故郷を失ったあの日、黒い影のモンスターは街を一つ破壊し、異能力者にも多くの犠牲者が出た。当時かなり話題になった事件だが、それに関する情報へのアクセスはなぜか厳しく制限されていた。
「Sランクなんて、俺には……」
到底無理だ。大河はうなだれていた。
「大河くん……」
美鳥は手を止めて、まっすぐ大河を見つめる。
「もう、いいんじゃない? 君が頑張りたいのはわかるけど……」
言葉を選びながら、美鳥は笑顔を作って言った。
「今ウチで事務員を募集してるの。大河くんは異能力者の経験もあるし、知識も豊富だから向いてると思うわ」
美鳥の提案が現実的だということは、大河にもわかっていた。だが、素直に頷くことはできない。諦めきれない。でも――
「潮時、か……」
大河は深く深くため息をついて、寂しそうな表情で美鳥に顔を向けた。異能力者なんか辞めて、もう楽になりたい。そういう気持ちも、正直芽生えていた。
「美鳥さん、俺――」
その時、大河は背後から肩を掴まれた。
「おい万年初心者。行くぞ」
振り返るとそこには、先輩異能力者の荒川の姿があった。有無を言わさず、荒川は受付の美鳥に、早速手続きを進めるように言う。
「〈初級の洞窟〉のフリー探索クエストを出してくれ」
さらに後ろから、男女二人がぞろぞろと現れた。
「そいつか、人数合わせ」
「知らんけど、分け前なくていいんでしょ? 超いいじゃん」
「フリー探索は4人必須だからな。こいつが入れば分け前は四等分じゃなくて三等分で済むって話よ」
ガッチリした体型の男の斎藤と、どこかチャラチャラした女の山下だ。その二人に、荒川はしたり顔で言う。
「こいつは俺以外とクエストなんて行けねえからな。なんせ最弱のGランクだからよ」
荒川一行の三人はそんなことを言いながら下品に笑い合っていた。
これまで大河は、いつも荒川に人数合わせ兼荷物持ちとして扱われてきた。だが、大河がそれに従っていたのにも理由がある。荒川の言う通り、Gランクゆえに通常のクエストには行かせてもらえないからだ。クエストに行かなければ、成長するチャンスすら得られない。
しかし、今日からはもう違う。異能力者を辞めるのだから、成長なんて必要ない。
「あの、俺、もう……」
断りを入れようとしたその時、山下が気になることを言い出した。
「ってかなんで〈初級の洞窟〉? なんか黒い影が出るとかって噂なってっけど」
黒い影……!?
「黒い影って、それどこで聞いたんですか!?」
大河は血相を変えて山下に迫る。
山下は眉根を寄せて、遠慮することもなく嫌悪感を示した。
「はあ? 何コイツ、キモいんだけど」
荒川は手を振って「そんな噂ほっとけ」と相手にしない。
「〈初級の洞窟〉にいいモンを見つけたんだ。ま、着いてから教えてやるよ」
そう言って、荒川は美鳥に手続きを急かす。
「おい、早くしてくれよ」
美鳥はチラッと大河を見遣った。本当にいいのか、と言外に匂わせている。
黒い影のモンスターを、大河はずっと追いかけてきた。だが、噂はあれど姿は見えず。大河が耳にした噂はすべて勘違いだったり都市伝説だったり……ともかく、まともなものは何一つなかった。今回の話も、期待はできないだろう。だがそれでも――
「……今回で最後にします」
今回で何もなかったら、もう異能力者は辞めよう。大河は真剣な眼差しを美鳥に向けて、最後のクエストに向かった。
――――――――――――
大河、荒川、斎藤、そして山下の四人は、ポータルから〈初級の洞窟〉と呼ばれる異次元世界に到着した。
洞窟の中は自然の光が届かないが、先達の異能力者によってところどころ壁に松明が掛けられていて、視界に困るというほどではない。
【友を確認中……】
洞窟にたどり着いてすぐ、大河の目の前に見慣れないウィンドウメッセージが表示されていた。なんだろうと不思議に思いながら歩いていたが、暗がりにモンスターを発見して意識を現実に引き戻した。
荒川を先頭に斎藤と山下が戦闘態勢に入る。そこへ、アリのような見た目の虫型モンスターが現れた。見た目こそアリだが、全長は50センチ近くある。それが三匹同時に現れた。
荒川はDランク《ソードマン》で剣の扱いに長けている。斎藤はEランク《シールダー》で防御が得意、そして山下はEランク《メイジ》で魔法攻撃を得意としていた。
荒川が剣で斬り、斎藤が盾で押しつぶし、山下が炎の魔法で焼き払う。
三匹現れたアリ型モンスターは、一瞬にして倒された。
「楽勝だぜ」
目の前で起きた戦闘を、大河はいつも通りにしっかりと見て学ぶ。
荒川の剣は乱暴だが力強い。その分、すばしっこい相手には不利だ。斎藤は動き出しが遅いし、山下は立ち位置が不安定だ。
彼らの戦闘を見ながら、自分に同じような能力があればどう動くかをイメージする。大河のその思考はもはや、クセになっていた。
「相変わらずクソ真面目な顔で見やがって。何年経っても、才能がねえ奴には無駄なんだよ。悪あがきしてんじゃねえ」
荒川は倒したモンスターの遺骸を剣先でもてあそびながら、ニヤリと大河を嘲笑した。
大河は下を向いて、ただ唇を噛んでいた。
「おい、遅れんなよ」
荒川は少し進んだ先で「こっちだ」と壁に向かって方向を変えた。
明かりが乏しく壁に向かって荒川が消えたように見えたが、そこは薄い岩が重なっていて隠し通路のようになっていた。
慌てて追いかける大河は通路の先で小部屋にたどり着いた。そこで目の前に広がる光景に思わず立ち尽くす。
小部屋には大量のクリスタルがむき出しになっていた。クリスタルが発する光で、松明がなくても妙に明るい。
「ヤバッ」
「すげえなおい! これ全部でいくらになるんだ!?」
「この前手伝いで来た時に偶然見つけたんだ」
興奮状態の斎藤と山下に、荒川は得意げだ。
「その時は荷物がいっぱいだったし黙ってたが、今日は荷物持ちもいるし大漁だぜ!」
各々剣の柄やらナイフやらで、クリスタルを運べる大きさに砕きはじめる。採取作業などいつもは大河に押し付けるのだが、これだけのクリスタルを前に進んで労働していた。そして砕いたクリスタルを、大河に向かって無造作にどんどん投げつける。
「あたしたちで総取りなんて最高っ!」
山下が嬌声を上げる。
大河は次々に飛んでくるクリスタルをバックパックにしまいながら、クリスタルの光と反比例するように表情に影を落としていた。
黒い影も、結局またただの噂にすぎなかったか……。
大河がそんなことを考えていると、小部屋の奥の方まで見に行っていた斎藤が叫んだ。
「うわっ、モンスターがいるぞ!」
クリスタルは壁から生えるように並んでいたが、小部屋の奥はクリスタルがなく真っ暗だ。そこで、斎藤はモンスターを見つけたらしい。
荒川と山下は慌ててそれぞれ剣と杖を構える。
盾を構えながら後退してくる斎藤。それに続いてゆっくり歩いて現れたのは、黒い人影だった。
大河が目を凝らすと、それは子どものようなシルエットをしていた。その影は、目だけが白く光っている。
「まさか……あの時の……!?」
警戒を強める大河とは対照的に、荒川は舐めた態度で子どもの影に対して勢い任せに斬りかかった。
「こいつか、噂の影ってのは。ただのチビじゃねえか。さっさと片付けちまおう」
だが、荒川の剣は影をすり抜けた。
「バカ。こういうのは魔法が効くんだって」
山下が杖から火の玉を影に放つ。直撃したかに思われたが、影の様子に変化はない。
「ウソ!?」
アタッカー二人の攻撃が通用しないとあって、一気に緊張感が走る。
【友以外を排除します】
「なんだ……?」
洞窟に入った時に表示されたものに似たメッセージが、大河の前に現れた。そして次の瞬間、影が巨大化する。
「はっ……!?」
子どもだった影は、荒川たちが見上げるほどの巨人になった。真っ黒で巨大な体躯に人のような四肢。上半身は立派な割に、足は短く太い。そして目だけが白く光っていて、右手には巨大な剣を持っていた。
このモンスターは普通じゃない。嫌な予感がして、大河の背筋は寒くなっていた。
荒川に向けて、巨人が剣を振り下ろす。
「任せろ!」
斎藤が前に出て、盾を構えた。
振り下ろされる巨人の剣を斎藤の盾が受け止め、強烈な衝撃音が響く。
だが、巨人の剣は盾を粉々に砕き、斎藤自身をも一瞬で押しつぶした。
「えっウソ、ウソ……!!」
あまりにあっけなく斎藤がやられてしまい、山下はパニックを起こしている。
「死ね! 死ね! 死ね!」
山下は杖から、火球を連打する。火球は次々と巨人に命中しているが、巨人がダメージを受けている様子はない。
巨人が左手で山下を横から叩く。まるで人形のように、山下は吹き飛ばされて壁に叩きつけられ、全身を潰されてしまった。
「え、え……?」
一体何が起きているのか。どうして初心者向けの異次元世界に、こんな危険なモンスターが潜んでいたのか。もしかして、あの時の黒い影と同類なのか?
答えのない疑問が頭の中で堂々巡りしているが、大河にできることは何もない。恐怖で足が震え、満足に逃げることもできそうになかった。
「こいつはやべぇな……」
斎藤、山下が続けざまに瞬殺され、さすがの荒川もゴクリと唾を飲み込んだ。そして剣を握りしめ、巨人と睨み合う。
巨人が剣を振り上げる。狙いは荒川だ。
だがその瞬間、荒川は腰を抜かしていた大河の襟首を掴んで、荒川自身と巨人の間に放り投げた。
「えっ――!?」
突然のことで、大河はほとんど反応すらできていない。
「お、俺は死なねえ! 万年初心者野郎、俺の代わりに死ね!!」
さらに荒川は背後から大河の足を斬りつけて、尻尾を巻いて全速力で逃げ出した。
「イッッ――!!」
大河が荒川の行方を追いかけて振り返ろうとした時、斬りつけられた足に激痛が走った。
傷口は燃えるように熱い。波打つ血管から、大量の血液が溢れ出していた。
巨人は容赦なく、そのまま剣を振り下ろす。
大河は逃げようとしたが、荒川につけられた傷のせいで足にまったく力が入らない。
「あいつ……!! 俺を囮に……!!」
すでに背中も見えなくなった荒川に怒りが湧いてくる。だが、もはやそれどころではなかった。
振り下ろされた剣の軌道からは逃れられない。
急速に近づいてきた死の足音に、大河は絶望した。
――死んだ。
こんなところで終わるのか? 結局俺は、あの日と同じように何もできずに死んでいくのか……?
剣が大河を叩き潰す――そう思ったその時、突然メッセージウィンドウが重ねて現れた。
【クラス《ビギナー》を確認】
【友 真堂大河 を確認】
同時に、振り下ろされた巨人の剣は大河の頭上でぴたりと静止した。
【チュートリアルを開始します】
その瞬間、大河の足元から強烈な光が発せられた。巨人は光に圧されて後ずさる。
その光に包まれていると、荒川につけられた大河の足の傷はみるみる回復していった。
「友ってなんだ? なにが起きてるんだ……?」
困惑している大河の前に、さらにメッセージが表示される。そのメッセージの横には、SDキャラのように頭身の低い、ピエロを思わせる格好をした子どものアニメーションイラストが描かれていた。
『《ビギナー》の能力を解放するよ! さあ、伝説の始まりだ!』
何が起きたかわからないが、大河はそのキャラクターの言葉に釣られて立ち上がる。
大河は両の拳を握りしめ、仁王立ちした。湧いてくる力が、身体の隅々まで浸透している感覚があった。
「接続せしは〈原初の次元〉――」
異能力者としてこれまで一度も力を伴わなかったこの言葉が、自然と口をついて出た。
「次元接続《ビギナー》」
足元の土が舞い上がる。
大河の全身からオーラが溢れ出し、その瞳は緋色に光っていた。
そして口上に呼応するように、システムメッセージが表示される。
【全能力値が上昇しました】
目の前の巨人から、黒い塊がボトッと落ちる。その塊は姿を変え、ゴブリンのような小さな人型になった。
新手だ。だが大河は、極めて冷静にそのゴブリンに目を光らせていた。
ゴブリンは爪を立て、大河に向かって跳躍してくる。
反射的に大河が足を動かすと、一瞬にしてゴブリンの攻撃を横に回避していた。まさか自分とは思えないような動きに、大河は目を見開く。
「動く……動ける!」
全能力値の上昇――それを大河は肌で感じていた。まるで生まれ変わったように、さっきまでの自分の身体とは明らかに違う。
ゴブリンの特徴はよくわかっている。これまで散々イメージしてきた通りに、大河はゴブリンの側面に回り込む。
大河はゴブリンの横顔に、目一杯の右ストレートを繰り出した。
拳が直撃したゴブリンは弾けるように飛ばされ、壁に激突する。その衝撃が、洞窟全体を揺らす。ゴブリンはぺしゃんこに潰れ、霧散して消えた。
「これが、俺の力……!?」
思いがけない自分の力に驚いていた。
大河と巨人を取り囲むように、光の壁が周囲に現れた。まるで専用のバトルフィールドだ。
「こいつを倒さないと出られないってわけか……」
畳みかけるように、システムメッセージが表示される。
【《ビギナー》覚醒による能力値上昇を表示します】
【体力 :1→25
筋力 :1→20
魔力 :0→13
速力 :1→21
巧力 :1→19
持久力:1→17
抵抗力:1→22
精神力:0→17
感応力:0→24】
「だが今の俺なら――」
大河は数値の手応えを確かめるように拳を握りしめ、巨人に向き直った。
「行けるっ!!」




