第1話 元気担当って、誰が決めたの?
「おはようございまーす!」
スタジオのドアを開けた瞬間、私は思いっきり声を出した。
「おはよう、みなみ。朝から元気ね」
鏡の前でストレッチをしていた大山さんが振り返る。
「もちろんです! 元気担当ですから!」
「はいはい」
大山さんは笑いながら手を振った。
「それ、もう挨拶みたいになってるね」
「だって、どっぺる坂16の中条みなみといえば元気担当ですから!」
私は胸を張った。
どっぺる坂16。
新潟県を中心に16人で活動するアイドルグループ。
その中で私は高校二年生。
メンバーの中では年下のほうだけど、ステージではとにかく元気に。
笑顔いっぱい。
ダンスは大きく。
MCではできるだけ明るく。
それが私の役割だと思っている。
「みなみちゃん、今日も絶好調だね」
関原さんが笑う。
「はい! 絶好調です!」
「まだレッスン始まってないけど」
「そこは気持ちの問題です!」
みんなが笑った。
こういう時間が私は好きだった。
16人でいると、自然に笑える。
でも、楽しい時間はすぐに終わる。
「じゃあ、今日も新曲からいきます!」
振付の先生の声が響いた。
私はすぐに立ち位置につく。
音楽が流れた。
一、二、三、四。
身体が自然に動く。
ターン。
ステップ。
ジャンプ。
最後のポーズ。
「はい、ストップ!」
音楽が止まった。
「みなみ、もう少しだけ動きを小さく」
「はい!」
私はすぐに答えた。
もう一度。
今度は少し抑える。
「そう、それ」
先生が頷いた。
レッスンが終わる頃には、衣装ではなく練習着なのに汗だくになっていた。
私は床に座り込んだ。
「疲れたー!」
「一番声が大きいのは、疲れても変わらないね」
月岡さんが笑う。
「疲れたからこそ声出すんですよ!」
「そういうもの?」
「そういうものです!」
また笑いが起きる。
私はそれが嬉しかった。
その日の帰り際。
みんなが荷物をまとめていると、大山さんが私のところに来た。
「みなみ、ちょっといい?」
「はい?」
「今日のダンス、よかったよ」
「ほんとですか?」
私は嬉しくなった。
「ただね」
「ただ?」
大山さんは少し考えてから言った。
「みなみは、元気じゃないときもステージに立てる?」
「……え?」
思わず聞き返した。
「元気じゃないとき?」
「そう」
「でも、私、元気担当ですよ?」
「うん」
大山さんは笑った。
「だから聞いてるの」
私は答えられなかった。
帰り道。
駅まで一人で歩きながら、さっきの言葉を思い出していた。
元気じゃない私。
そんなもの、考えたこともなかった。
学校で嫌なことがあっても、レッスンに来れば切り替える。
疲れていても、ステージでは笑う。
ファンの人に会えば、元気に挨拶する。
それが普通だと思っていた。
スマホを見る。
今日投稿されたライブ写真。
そこには、満面の笑顔で踊っている私が写っていた。
コメントには、
『みなみちゃん今日も元気!』
『みなみを見ると元気になる!』
という言葉が並んでいる。
嬉しかった。
もちろん嬉しい。
だけど――。
私は歩きながら小さく呟いた。
「……元気担当って、誰が決めたんだろ」
自分で決めたのか。
みんながそう思ってくれたからなのか。
それとも、いつの間にかそうなったのか。
その答えは、まだ分からなかった。




