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町田君を好きな僕は異世界に行く。  作者: 三愛 紫月


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1話 町田君

「あっ!それっ、もうすぐじゃん」

「そうそう、後一体でコンプリートなんだよ」

「ほんと、町田ってマジで人形が好きだよなーー」

「まあ、姉ちゃんの影響なのかな?」

「そーーなの?俺は、姉ちゃんいないからわかんないけど。何か、イケメンなのに勿体ないよなーー。その趣味」

「好きなものだから」



 仲良しの矢吹君の言葉に、町田君は苦笑いを浮かべていた。

 確かに、人形が好きなイケメンってのは勿体ないのかも知れないけれど。

 人形が好きだからって、町田君がモテないわけじゃないし。

 それに僕は、全然、気にしないんだけどね。



 宝台高校《たからだいこうこう》一年A組、町田龍之介《まちだりゅうのすけ》君は、一学年の中のイケメンランキング一位の男だ。

 そんな町田君を好きな女子は、かなりいる。

 ちなみに、先輩からもモテているのだとか。


 そんな町田君に僕が出会ったのは、高校の入学式でだった。


 ハラハラと舞う桜の花びらが町田君の髪に落ちる。

 それは、まるで、映画のワンシーンのようだった。


 太陽というスポットライトに照らされた町田君の横顔は綺麗で、僕は釘付けだった。

 前を見ていなかった僕は、盛大に転んでしまう。



「いたーー」と大きな声で叫んでしまい、恥ずかしくて痛くて、その場から走って逃げたかった。

 そんな僕に近づいてきたのは町田君で、心配そうに眉を寄せながら「大丈夫?」と手を差し出してきたのだ。


 一人で起き上がることが出来なかった僕は、その手をしっかりと掴んだ。




ーーその瞬間だった!!!!!!



 身体中に電流のようなものが走ったのだ!!



 まだ『恋』というものを知らなかった僕だったけれど。

 これが『恋』だって、すぐにわかった。


 そう僕は、あの一瞬で町田君に『恋』をしたのだと……。


 だけど、相手は男の子。

 告白なんて出来るわけがない。


 だから、この気持ちは隠さなきゃいけない。

 そう思って。

 隠すことばかりを考えたせいで、あの日以来、町田君とは一度も話しは出来ていない。

 いろんな男子生徒達が町田君に話しかけられるようになったというのに……。

 僕は、いまだに見つめるだけだ。



「はぁーー。いっそのこと、最後の一体の人形になりたいよ」

  

 町田君が持っている小さな人形達を見つめながらポツリと呟いた。


 最後の一体の人形になれば、町田君に毎日触ってもらえるだろう。


 町田君は、どんな部屋に住んでいるんだろう?

 町田君は、どんな私服を着ているのだろうか?

 町田君は、どんな風に家で過ごしているのだろうか?



 あーー、想像だけじゃ足りない。

 足りない、足りない。

 何もわからない。

 頭の中がモヤモヤする。

 人を好きになるのが、こんなに大変なことなんだって知らなかったよ。 


 

ーーキーンコーンカーンコーン


 授業が始まる合図が鳴り、今日も町田君を見つめるだけで僕の学校での一日が始まり、そして終わる。

 男同士だから、町田君に話しかければいいのにさ。

 緊張するから話かけられないし。

 かといって、町田君の方からわざわざ僕に声をかけてきてくれたりもしないわけで。

 だから、僕は見つめるだけ。

 見つめて終わり。

 たぶん、このまま一生、それで終わりだ。


 HRが終わりみんなが帰りの準備をしていると担任の赤佐《あかさ》先生が僕に声をかけてきた。



「嵐山、あとで職員室に来てくれ」

「はい、わかりました」



 担任の赤佐先生が言いたい言葉がわかるから、急に胃がキリキリと痛くなってきた。

 でも、行かないわけにはいかない。

 仕方なく鞄に荷物を入れて、すぐに教室を出る。

 話しは、早く終わらせて帰るのが一番だ。


 まあ、それだけじゃないんだけれど。  

 僕が男の子が好きだって誰にもバレたくない。

 だから、僕は学校で誰とも話さないようにしているし、終わればいつでもダッシュで帰るのだ。


 ジェンダーレスなんて、いい言葉を世間は作ってくれたんだけど。

 それを受け入れてくれている人はどれだけいるって話だ。

 それに僕は、女の子になりたいわけではない。


 ただ、町田君と笑い合っている矢吹君のように。

 いや、違う。

 町田君と一緒に委員を勤めている中崎さんのように。

 いや、それも、違う。

 町田君が集めている人形のように……。


 職員室についたから考えるのをやめた。

 今は、とにかく赤佐先生と話をするのが先だ。



ーーガラガラ



「失礼します」

「嵐山、こっちだ」

「はい」

「そこに座れ」

「失礼します」

「嵐山、これはどうした?もしかして、授業についていけてないのか?」


 やっぱりそのことか。

 深刻そうな赤佐先生の表情を見ながら、僕は国語のテストを受けた日のことを思い出す。

 このテストの後半を白紙で出すことになった理由はちゃんとわかっている。


 国語のテストを受けたのは、初夏に切り替わり始めた時期だった。

 

 そのせいで、町田君はこの日半袖で授業を受けていたのだ。


 普段あまり町田君をジロジロ見ることができない僕にとって、テスト中は特別な時間で。


 いつもなら町田君をチラっと見る程度で終わるのだけれど。


 この日は違った。


 この日僕は、町田君の半袖から覗く二の腕のホクロに目を奪われてしまったのだ。


 それは、もう釘付けで。


 気づけばタイムアップを告げるチャイムが鳴り響いていて、仕方なく白紙でテスト用紙を提出したのだ。

 

ーーって、この話を心配そうな表情で僕を見つめている赤佐先生には言えない。


 どうしよう。

 何か適当に言い訳を……。

 あっ、そうだ。


「あの日は、ちょっと頭痛がしていまして」

「そうだったのか。体調が悪かったんだな。まあ、無理はするなよ、嵐山」

「はい」



 とっさにしょうもない言い訳を考えられたお陰で、すぐに職員室を出れた。


 はぁーー、早く帰ろ。


 でも、待てよ。

 もしも、このまま。

 町田君でいっぱいになっちゃったら……。

 僕は、この高校を卒業出来なくなるんじゃないのか?

 いや、留年は確定か?

 

 それなら、クラス替えをして欲しい。

 いや、席替えでもいい。

 いや、いっそ女の子だったら。

 そしたら、僕は町田君に気持ちを……。



ーードンッ


 階段に差し掛かった瞬間。

 やって来た人にぶつかった。



「あっ、すみません」

「はい、大丈夫です」



 誰かはよく見えなくて、ぶつかった人は走っていなくなった。


 僕の体は、ゆっくりとバランスを崩し始める。


 頑張れ、僕の体幹。

 頑張れ!!

 耐えろ!!


 励ましもむなしく、鍛えられていないフニャフニャな筋肉の僕の足は体重を支えられずに。



ーー終わった。


 階段からまっ逆さまに落ちていく。

 目に入った最後の景色は真っ赤で。

 痛みは思ったよりなくて、ただ目の前を赤色が流れて行くだけだ。


 もしかして、こんなんで、人生が終わるのか?

 だとしたら、町田君に告白しておけばよかった。

 最悪だ。

 さい……アク。




ーーピーポーピーポー


「大丈夫ですか?わかりますか」



 騒がしい。

 もう少し夢を見させてよ。



「聞こえますか?」



 わかってるよ。

 わかっているから。


 闇が僕をゆっくり飲み込んでいく。

 全身を優しく撫でるように、暗闇がそっと包み込んで。


 ピッ、ピッってかすかに遠くで音が聞こえている。


 どうせ死ぬなら、町田君とたくさんたくさん話したかった。


 笑いたかった。

 泣きたかった。

 怒りたかった。


 ううん。

 愛されたかった。

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