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【なろう版】私を殺した『永久凍土の騎士様』は、今世は恋でバグってる  作者: 丸山華永


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望んだ幸せの形

最終回です

大きなお腹を撫でながら、シイラはいつも通り書類に目を落としていた。蝋燭の仄かな光が、机の上を優しく照らしている。



「……そろそろ休みなさい」


背後から声をかけるのはアルヴィスだ。

腕を組み、明らかに不満そうな顔でシイラを見ている。



「大丈夫よ、このぐらい」


言いながらペンを走らせるシイラに、ため息をついた。それでも彼女が止まらないことはよく知っている。



しばらくそれを見つめていると、すぐそばの椅子に腰かけた。


「……そろそろ産まれるな」

「……うん」


シイラの手が止まる。

予定よりも早くラフィリアは産まれており、もうそろそろその日が来る。



「どう生きてほしい?」

少しだけシイラは考えて、顔を上げた。


「普通の子として生きてほしいわ」


ジェイコブを向こうに返した今、彼女の戦う相手は居ない。

それにアルヴィスは、彼女に全てを忘れて産まれてくるように願ったのだと言う。だからこそ、彼女が何にも縛られずに生きて欲しいと願うのだ。



「だから、準備してるの。子どもでも安全な染料と……痣を隠す方法も」


アルヴィスはふっと笑った。

「……あの生意気な規格外が、“普通”で収まるとは思えないがな」


そう言われてシイラもほんの少し笑った。


「それでもいいのよ」


そっとお腹のふくらみに手を当てる。


「私たちが守れる間だけでも。幸せに過ごせるようにしましょう」


その言葉に、アルヴィスは何も言えなかった。

ただシイラの隣に立ち、同じようにその小さな命を優しく撫でた。



──そして、ついにやってきた。


「……ようやく、会えた」

震える声とともに、シイラの頬を涙が伝った。


産声とともに、小さな命が産まれた。

待ち望んだものが、腕の中にある。


アルヴィスは涙を流しながら、ただ二人に寄り添っていた。

言葉はない。だけどそれだけで十分だった。



──ようやくスタートラインに立てた。


『三人で幸せになりたい』

そう願った向こう側に、ようやく行けるのだ。




そして五年後。


柔らかな太陽の下で、シイラは日傘を差しながら小さな手を引いていた。

隣を歩くのは、紫の瞳に……紫の髪を揺らす女の子の姿がある。ラフィリアだ。

シイラも紫の髪に、おそろいの髪飾りをつけている。


「今日はどんなお話が聞けるかしら」

「……ねぇ、フィリッパは来ないの?」

「うーん、残念ね。今日は来れないわ」



エマルウェルはギルドの手伝いの為、数年間は皇都に滞在していたが、クニューベル家の養子に入り男爵位を引き継ぐことに決めた。

そして領地に妻と子供──ウルフラとレギナルト、フィリッパを連れて行ったのだ。


「でもね、もうすぐ花が咲くから、みんなで虹色の花畑を見に行きましょう?」


「うん、絶対ね」

無邪気に笑うラフィリアに、シイラも微笑んだ。




──皇宮のお茶会の会場は華やかだった。

そこにいる人々は皆、色とりどりの髪を揺らしている。



「次は何色に染めようかしら」 「私はもう少し明るい色にしたいわ」

そんな会話があちこちで交わされていた。


シイラの開発した安全な染料は瞬く間に広がり、入浴のついでに髪を染めることすら、今では当たり前になっている。アルヴィスの言っていた『着飾る夫人や令嬢がステータスになる時代』がやってきたのだ。

それの筆頭が、レーヴライン侯爵家とクニューベル男爵家が出資する、コスメティックギルドである。



ラフィリアはじーっと交わされる会話を、興味深そうに見つめていた。


「ねぇ、ラフィリア嬢はどう思いますか?」

一人の女性がラフィリアに問いかけた。


「あなたは、鮮やかな赤がいいと思うの」

「赤……?」

「ええ。きっと似合うわ」


ラフィリアには、それが“見えて”いた。

──彼女の家の鉱山から、ルビーが見つかる未来が。

近い未来の彼女は、首元に大きな深紅の宝石が輝いていることも。



そして別の女性が近付く。


「じゃあ、私は?」

 ラフィリアは少し考えてから、首を傾げた。


「あなたは、そのままの黒がいいと思うけど……?」

「えー?」

「だってその髪、とても素敵だもの」


風に揺れる黒髪を見つめながら、彼女は続ける。


「そのまま下ろして……異国の服を着るの。きっと、とても似合うわよ」


──「私も一緒に行くことにしました!」

──そこには遠い国の使節団の一員に見初められ、一緒に旅立つ彼女の姿があった。


彼女は鮮やかな異国模様のベールが、黒髪に美しく映えている。それもまた、ラフィリアの瞳に映っていた。



助言を受けた女性たちは、どこか嬉しそうに去っていく。このラフィリアの“未来予知”とも言える能力は、令嬢の間で有名になろうとしていた。

「さすが聖女様の血筋だ」「感が鋭い」と。

現にコスメティックギルドの繁栄を予知したアルヴィスを父に持つのだから、元からそういう能力がある家系なのだと思われているようだ。


だから彼女が本当の聖女であることは、ごく一部の人のみが知る情報だ。




その背中を見送ると、ラフィリアは同じ年頃の子供達の方にかけて行った。


「みんな〜遊ぼう!」

楽しそうに笑うラフィリアを見ていると、胸の奥が満たされる。



(ちゃんと、この子の笑顔は守られてる)

特別な力はある。

けれど──平凡な幸せの中で、彼女は生きている。

何も縛られずにのびのびと。



シイラが空を見上げると、どこまでも穏やかな青が広がっている。


 

(このままずっと、この幸せが続きますように)


何気ない日々も、笑い合える時間も、当たり前の幸せが──これから先も、ずっと続きますように。

そう願いながら、ラフィリアを見つめて微笑んでいた。

お読みいただきありがとうございます。

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