表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【なろう版】私を殺した『永久凍土の騎士様』は、今世は恋でバグってる  作者: 丸山華永


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/50

あの人にだけは、見つかりたくなかったのに

なろうにも掲載はじめます!

──ハンベルリ帝国の皇宮に、荘厳な鐘の音が幾重にも重なって響き渡った。


玉座の間では今まさに、その鐘の音に相応しい即位を祝う即位式が行われようとしていた。


王座まで続く重厚感のある臙脂色の絨毯に、天井高くまで伸びる白亜の柱。その間を縫うように差し込むステンドグラスの光は、まるで祝福そのものが色を持ったかのようだった。


玉座に座るのが、今日この瞬間からハンベルリ帝国皇帝となる第一皇子──オズヴァルト・ダイナスティー・リーゼ・ハンベルリ。


教皇が帝の象徴である帝冠を持ち上げ、厳かな祝詞を奏でる。その冠がオズヴァルトの頭上に戴かれた瞬間、場内は息を呑むほどの静寂に包まれた。



「神の理と女神の祝福のもと、我はこの国を新たな時代へ導くことをここに誓う。民を守り、国を導き、未来を託される者として──ここに即位を宣言する。」


その瞬間、歓声が嵐のように巻き起こった。


「皇帝陛下万歳!」


声が連なり、部屋全体を呑み込むほどの歓声に変わった。



男爵令嬢であるシイラ・クニューベルは、貴族席の末端からその光景を静かに見つめていた。

少しだけ視線に入ったあの人は──その隣で無表情のまま、静かに佇んでいるようだった。



シイラはふと両隣に視線をやる。

「シイラ、疲れていないかい?」

父のダリオ・クニューベルが、柔らかな笑みを向けてくる。反対側では母のエミリーも同じ笑みでシイラを見ていた。


「ええ、大丈夫よ」


二人の笑顔を噛み締めながら、ひしひしと幸せを感じている。

前の人生では既に父は亡くなっており、クニューベル男爵家は断絶してしまっていたのだ。


(今は、ちゃんと一緒にいられる)


しかも家は貧乏貴族のままではない。製薬工房を立ち上げ成功させ、資金繰りにも余裕が生まれた。こうして即位式を、家族揃って出席できるほどに。


ほどなくして大広間で、フィナーレを飾る大規模な祝賀会が始まる。貴族の当主は全員の出席が義務であり、国一番の大規模な舞踏会だ。



その空間は、まさに夢のよう。

天井は無数のシャンデリアが光り輝き、壁際には帝国全域から取り寄せた色とりどりの花々と帝国最高峰の職人により手塩にかけて作られた金の装飾。

テーブルには各地から取り寄せた高級食材を使い、シェフが腕を振るった料理や甘い菓子、宝石のような果実酒が並ぶ。


シイラは初めて見るその料理達に、目を奪われた。

(あ、これもこれも!美味しそう)


「シイラ」


次々と皿に料理を盛っていたところで、苦笑まじりに父のダリオが呼びかけてくる。


「今日は若いご子息も大勢集まっているんだ。少しくらい、顔を出してきなさい」

「……はい」



シイラは曖昧に頷いたものの、気持ちは重いままだ。


「滅多に社交をしないシイラに取ってチャンスなんだから!」と母のエミリーも発破をかける。


シイラはクニューベル男爵家の一人娘。婿を取らなければクニューベル男爵家は断絶してしまう。若しくはクニューベル男爵家の全てを保証できる程の、権力のある家に嫁がなければ……父の死後、母は貴族籍を失ってしまう。

それにより随分と苦労したのは“前の人生”での話だ。



正直、婿探しに興味がないわけではない。だけれど──運命を変えるには、“あの日”が終わってからの方がいいのではないか。


しかしそうなると、シイラは行き遅れまっしぐらだ。

現に貴族は十歳にも満たない間で婚約が決まるのは珍しい話ではない。



──いや、むしろやっぱり、とっとと結婚すればいいのか。

何が目立つ動きをして、また彼に見つかるのが怖かった。



(はあ、仕方ないな……)


そうしてシイラは、壁際という“安全地帯”を確保しながら、近くにいる同じ年頃の貴族令嬢や貴族令息たちに挨拶を始めた。


「初めてお目にかかります、クニューベル男爵令嬢」

「なんせ普段は田舎の領地におりますので、あまり社交界に出る機会もなく……」


当たり障りのない会話は、決して楽しめないわけではない。久しぶりに年頃の人と話すのは新鮮で、美味しい果実酒が更にその楽しさを加速させていた。


けれど心のどこかで、常に警戒だけは怠ることはなかった。



(どうか……あの人にだけは、見つかりたくない)

心の奥で、そう呟いた瞬間だった。


──背筋に、氷水を流し込まれたような感覚が走る。


(まずい)

シイラは咄嗟に会話を切って、奥の更なる人集りの中に身を滑らせようとした。だが遅かった。


ざわり、と噂する人達が波のように割れる。

黒を基調とした正装に身を包んだ長身の男が、周囲を意にも介さずシイラへ歩み寄ってくる。その紫の瞳は、ただ一人だけ──シイラだけを映している。



──彼の名はアルヴィス・レーヴライン。

二十三歳にしてレーヴライン侯爵家を引き継いだ当主であり、別名『永久凍土の騎士様』。


まだ爵位を継ぐ前、軍人として活躍していた彼は、第二皇子ジェイコブの罪を暴き、自らの剣で処刑した。

ジェイコブは麻薬組織と結託しているという噂は元々あった。彼はジェイコブを失脚させる為、その噂を執拗に追い続け、罪を暴いただけでなく──容赦なく彼を死刑にし、自らの剣で彼を貫いた。


そして爵位を継いだ彼は、莫大な財力を築き上げ、前皇帝と対立するオズヴァルトを支持。更に前皇帝を退位にまで容赦なく追い込んだ、まさに冷酷無比な男。



──そしてシイラの前の人生では、夫だった人なのだ。


シイラの結婚生活は、はっきり言って最悪であった。

無理矢理娶られ、その後はぞんざいに扱われ……愛も温もりも与えられず、最後は彼に殺されてしまった。 


最期に見た彼の、アメジストのような美しい紫の瞳は無機質で、一切の温もりを感じさせなかった。


そして今世でも、全くもってその通りの評価を耳にする。

だから今世は、必死に彼を避けてきた。

関わりがあると、いつまたあんなことを起こされるのか怖く、社交界から遠ざかり一切の接点を断ってきた。


──なのに。



「みつけた」


低く、だが異様なほど甘い声がはっせられる。

アルヴィスは彼女の前まで来ると、膝を折り、手を取った。そして……ためらいもなく、その甲に口づける。


紅潮した頬はまるで初めて血の通ったかのようで、涙を滲ませてシイラを見つめる。


「私はようやく、あなたに出会うことができた……ああ、私の美しい天使は、ここに居たのだ……!」


(は!?)


「どうか私の愛を受け入れてくれないだろうか、小さな天使よ」


一瞬で、広間の視線が集まった。

永久凍土の騎士様とは到底思えぬ甘美な言葉と態度に、シイラだけでなく周囲は完全に固まっている。



(ちがう、ちがう、ちがう、キャラが……違いすぎる!!)



幸せなはずの祝賀会は、こうしてとんでもない方向へ転がり始めたのだった。

色々駆け足で投稿させてもらいますー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ