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罪を喰らう者  作者: アニトマ
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『第十二章 極上の罪』

領主部屋のソファにふんぞり返りワインを貪る小太りの男性。

「はぁ、やっと終わったか。つまんねぇ仕事ばかり持ってきやがって。あの執事、兄貴の頃から仕えていたみたいだがいい加減クビにしてやるか?・・・そうしたら女の執事を雇ってみるか。召使いも全員女だけにして夜はじっくり楽しもうかね♪ぐひひ。」

悪どい顔で悪巧みする領主。

すると突然扉が蹴り壊された。

驚く領主が唖然とすると、

「心の腐った人間はアンデッドよりも腐ってるな。」

ボロボロのマントを羽織ったレイガが入ってきた。

「な、誰だお前は⁉ここは領主の部屋だぞ!俺が誰だか分かってここにいるのか⁉」

「あぁ分かってるさ。領主を暗殺して地位を奪い、領主の親友に濡れ衣を着せたクズ領主さんよう?」

見下すように領主を睨むレイガ。

「俺を侮辱するか?衛兵!衛兵はどうした!侵入者の侵入を許すとは何事だ!」

叫ぶ領主だが何も返答がなかった。

「呼んでも無駄だぜ?ここに来るまで衛兵共を全員ぶっ飛ばしたからよ。」

館内には無数の衛兵が倒れていた。

「ひ、一人で五十を超える衛兵を倒したのか・・・?」

「いや、こいつが手引きしてくれたおかげさ。」

すると続いて前領主の息子である少年、セルディも部屋に入ってきた。

「セルディ、貴様!」

「叔父さん、僕は真実を知ったよ。お父さんを殺したのは、叔父さんだったんだね。」

自分の犯行がバレた領主は冷汗を流すも苦しい言い訳をする。

「な、何を言ってるのかねセルディ。兄の暗殺は兄の親友である飲食店の店主だと話した。君はそれを受け入れたじゃないか?」

「確かに僕は貴方の言葉を受け入れました。ですがそれも偽りだったと確信しています。」

「い、偽り?どこにそんな根拠が!」

「彼の言葉です。」

そうレイガを指すセルディ。

すると領主は笑い飛ばす。

「ハハハッ!何を言うかと思えば、そんな得体の知れない男の言葉を信用しただと?笑わせるじゃないか!第一そんな奴の言葉なんて信じる根拠がどこにある?」

「ここにあります。」

セルディの目が緑色に変色した。

「僕のスキル『真実の魔眼』で彼が嘘をついていない事がハッキリと分かりました。そして叔父さん、貴方の言葉は真っ赤な嘘であることもね。」

領主は鋭い指摘を受けわなわなと震える。

「くっ、余計なスキルを持ちやがって・・・!」

悔しそうに顔を赤くするがセルディに全て知られた領主。

追い詰められたのかとんでもない強行に出る。

「ならお前に生きていられちゃ困るな。」

デスクから小型ナイフを取り出してきた。

「正気ですか⁉叔父さん⁉」

「お前は知りすぎた。恨むなら事実を知った自分を恨むんだな!」

気が狂った領主はナイフを突き立ててセルディに迫ってきた。

だがナイフがセルディに突き刺さることはなかった。

「救えないクズほど、食らいやすい。」

突如強烈な打撃が領主の顔面を直撃し後方へ大きく叩きつけられた。

「え?」

よく見るとレイガの左腕が竜の形となっていたのだ。

「レイガさん、その腕・・・?」

「話はこいつを食ってからな。」

竜の頭で殴られ鼻が曲がった領主は鼻血を垂らしながら起き上がる。

「クソが・・・!領主に手を挙げやがって・・・!ただで済むと思うなよ!」

何かのスイッチを押したと思ったら部屋全体に煙幕が噴射される。

「うわっ!」

「鬱陶しい小細工だ。」

二人が視界を奪われている隙に領主は部屋を飛び出しどこかへ逃げていった。

「逃がすかよ!」

セルディを抱えるとレイガも部屋を飛び出す。

「わわっ⁉」

「じっとしてろ。下噛むぞ。」

領主の後を追うレイガとセルディ。

すると領主は地下の階段を駆け下り頑丈そうな扉を開けて中へ逃げ込んだ。

「閉じ込もるつもりか?」

扉の前でセルディを降ろすと、

「いえ、ここは昔父さんが集めた貴重な聖遺物を保管する部屋です。中には強力な魔道具もあります。ひょっとしたら叔父はその魔道具を使うために?」

「まぁ何はともあれ、奴を逃がすつもりはない!」

頑丈そうな扉をいとも容易く蹴飛ばし中に入ると、まるで美術館のような部屋に出た。

「お前の親父さん、相当なコレクターだな。」

「あ、いました!」

部屋の中心の小ケースの前に息を荒くして立つ領主の姿が。

「もう逃げ場はねぇぞ。大人しく俺に食われろ。」

竜の頭となった左腕を構えると、

「ふふ、ハハハッ!馬鹿め!俺は逃げたんじゃない!これを取りに来たのさ!」

小ケースを叩き割り、どす黒い紫色の玉を取り出した。

「それは、『ギルティマーブル』⁉父さんが厳重に保管していた宝をどうするつもりだ⁉」

「当然、こうするのさ!」

領主はギルティマーブルを飲み込むと身体からおぞましい魔力を発するようになる。

「ここが貴様らの墓場となるのだ!ざまぁみやがれ!ヒャハハハハ‼」

領主の身体がボコボコと変形していき、黒い靄を身に纏っていく。

そして巨体に見合わない細い手足を這いつくばらせ、赤い眼光がギョロリと開眼する。

その姿はまるで、

「こいつ、自ら罪の魔物になりやがった!」

「ギャオォォォォォ‼」

生き物とは思えないおおぞましい雄たけびを発し、レイガたちに襲い掛かる。

セルディを抱え間一髪避けた。

「な、何ですかあれは⁉」

「人間や動物、魔獣が罪の意識に心まで飲み込まれるとあんな化け物になっちまう。それが罪の魔物だ。」

自ら罪の魔物となった領主は完全に自我を失い所かまわず暴れる。

これを外に出したらとんでもないことになる。

「頼むレイガ殿!この化け物を鎮めてくれ!」

「・・・本来はこんな化け物、人に頼めるレベルじゃねぇぞ。そこんとこ、はき違えるな。」

レイガの鋭い眼差しにセルディは軽率な判断をした自身を恥じる。

「・・・すみません。領主の課す言葉ではありませんでした。」

「まぁいい、その言葉をかけたのが俺で良かったな。」

レイガは前に出て右腕も竜の形へと変える。

「こいつを食えるのは()()だけだ!」

そう叫ぶと同時に走り出し、罪の魔物の攻撃をかわし竜の頭でかぶりつく。

断末魔を上げ暴れる罪の魔物だがレイガも噛みついた獲物を離さない。

「お前を食いたい奴はまだまだいるぜ!」

今度は背中から二つの竜の頭が出現し魔物に食らいつく。

暴れまわる罪の魔物に振り回されながらも食らいついた四体の竜は離さなかった。

「おっと!」

しかし振り払う腕をかわし離れてしまった。

「往生際の悪い奴だ。」

少しもぎ取った罪の靄を食べる竜の頭の一体が話しかけてきた。

「もぐもぐ、ん?なんかこいつの味、これまで食べた罪より、美味しい?」

レヴィアスが首を傾げているとグリードたちも気付き始める。

「確かに、一番美味ぇかも?」

「おいセルディ。ギルティマーブルってのは具体的に何なんだ?」

「確か、数多の人間の負の感情や罪の意識のみを凝縮された禁忌の魔石だと聞いていたが・・・。レイガ殿?」

するとセルディは背筋の凍るような感覚に見舞われた。

レイガの表情は餓えた獣のような狂気の笑顔を晒していたのだ。

同時に彼から出ている四体の竜からも恐ろしい気配が漏れている。

「聞いたかお前等?」

「あぁ、負の感情や罪の意識のみだってよ。」

「そんなの、絶対美味しいに決まってるじゃん・・・。」

「普段だらけてる俺も久々に滾ってるよ。」

「絶対、食らう、逃がさない!」

グリード、レヴィアス、フェニス、グラニーも食欲が搔き立てられていた。

「最っ高のディナーといこうぜ‼」

全員から放たれる恐しくおぞましい邪気が周囲を凍り付かせる。

その感覚に当たられてセルディは恐怖を拭えなかった。

レイガは走り出し罪の魔物へ猛攻を仕掛ける。

無駄のない動きで翻弄し所々で靄を食らっていく。

「ギャオォォォォォ‼」

危機に気付いた罪の魔物は上へ逃げようと走り出す。

だが、

「逃がさねぇよ‼」

竜の腕を伸ばして魔物を捕まえ引きずり戻す。

「うおぉぉぉぉ‼」

魔物を持ち上げ広けた場所まで投げ飛ばした。

「この広さならいけるな。」

悶える罪の魔物に歩み寄っていくレイガ。

「セルディ、せっかくだ。よく見てろ。」

「っ⁉」

「これが、魔王の宴だ!」

勢いよく走り出し高く跳躍する。

「食らい尽くせ!『乱狂(きょうらん)晩餐(ばんさん)』‼」

レイガの身体から七体の竜の頭が飛び出し次々と罪の魔物へ食らいつく。

「ギャァァァァァ‼」

おぞましい断末魔をあげて抵抗するも無数の竜の勢いは収まることを知らない。

彼らの食欲は相手を食らい尽くすまで終わらないのだ。

その恐ろしい光景を目にしているセルディは口を押え顔色を悪くしていた。

そして数分もの一方的な食害は罪の魔物から零れ落ちた領主を最後に静まったのだった。

竜たちはそのままレイガの身体へと戻って行った。

「う、一体何が?」

頭を押さえて目を覚ます領主に歩み寄るレイガ。

彼の恐ろしい目つきに領主は完全に恐怖していた。

「ひぃっ!」

レイガは後ずさりする領主の顔面すれすれを蹴る。

「お前はあえて食い残した。お前のちっぽけな罪は食らうに値しない。だがまぁ、ギルティマーブルの罪は格別に美味かった。そんな美味いものを食わしてくれたせめてもの慈悲だ。」

右腕を竜の頭へと変形させ大きく口を開ける。

「生き物ってのは死の恐怖に直面した時、最高の旨味を引き出すらしい。それをお前で試してやる。喜べ。お前は魔王の食事の試作品にしてやるよ。」

「ゴアァァァ‼」

「ヒィィィィ⁉」

右腕の竜の咆哮に当てられた領主は失禁して気を失ったのだった。

「馬鹿が。嘘に決まってるだろ。」

腕を戻しセルディの方を向いた。

セルディも恐怖で完全に放心状態だった。

「おい。おいセルディ。」

「・・・ハッ!」

正気を取り戻したセルディは先程の出来事を思い返す。

「貴方は、一体何者なんですか・・・?」

「・・・罪を食らうただのお尋ね者さ。」


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