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1章24話『逃げる』

「お前が、《エンセスター》のギルドマスターか?」


 男は静かに、かつ不気味に、にやりと笑った。


「そうだ。僕が《エンセスター》の長、ベルダーだ」


 男は両手を広げ、自分の姿を見せた。


「お前があいつらの言っていた『司書様』か」


「いかにも」


 ベルダー。

 それが、こいつの名前。

 《エンセスター》の司書。


 全ての、黒幕。


「本当なら、お前の首はもう落ちているはずだが…………俺達に遺言を告げる猶予をやるよ」


 ベルダーは首を傾げる。


「《エンセスター》の目的……お前の望みとは何だ?」


 ベルダーは1冊の本を広げ、言った。


「僕達がなぜ転生者を殺し続けるのか、知っているか?」


「転生者を無限に殺して学習性無気力を植え付けるため、だろ?」


「なるほど、もうそこまでたどり着いているのか。本にしては流石だな」


「本……?」


 そういえばさっきも、「本を破くな」とか言ってたな。


「この世界に生きる全ての生命…………僕はそれを本だと思っている」


「どういうことだ」


「本の中にどんなに素晴らしいことが書かれていても、読む人がいないとただの紙切れだ」


 人間も同じさ、と続ける。


「どんなに素晴らしい人間でも、それを最大限活かせる存在がないと意味がない。この世界には、本を読むことができる人が必要だ」


「それが自分だ、とでも言うのか?」


 ベルダーは、ハハハハハッ!と高笑いする。


「僕以外にいる、とでも言うのか?」


 …………かんに障るヤツだな。


「僕はいずれ、カプセルの力を使って全てのモンスターを支配下に置く。レムリアも、ムーも、アトランティスも、全て僕のものにする!《僕がニグラスの新しい支配者になるんだ》!」


「……本当にそれだけか?」


「当たり前だろ?世界をより良い方向に導くことの何がおかしいんだ?」


 なるほど。

 あくまで自分の行動は正しいと思っているわけか。


「あぁ、世界に平和をもたらす行動は非常に立派な行動だ」


 俺は手袋をはめた。


「だから、俺はお前を倒す」


 俺は強くベルダーを睨んだ。

 獲物を狙う狼のように。


「やってみろ、僕に勝てるわけがない」


 ベルダーは手をクイックイッと曲げた。


 俺は右手に力を込めた。火属性のエネルギーが俺の内側から溢れ出る。

 限界まで溜まった時、俺は右手を前に突き出し、それを放った。


「フレイム!」


 俺の放った火の魔法は貧弱で頼りないものだ。だが、俺はコイツを殺さなくてはいけない。


 支配による絶対的な世界……そんなディストピアが出来上がるくらいなら、俺は平和を望まねぇ。


 どれだけ荒くれててもいい。

 自分の道を自分で歩けるなら、それで。


 その思いは、魔法に強く宿った。


 いつもはせいぜい射程15mほどの俺のフレイムは、20m先のベルダーに、しかもいつもより高威力で命中した。


「そうか…………」


 POWは魔法の威力の目安となると同時に、精神力を表す数値。


 俺の強い心が魔法を強化したのだろう。


 しかし


「あれ?今、僕に何かした?」


 ベルダーは俺を嘲笑った。


 おかしい。

 今の魔法は俺渾身の一撃だった。

 ノーダメージだなんて、そんなはずはない。


「ハハハ!いいねぇ、その絶望に満ちた顔!」


 クソッ……本当に腹が立つ奴だ。


「教えてあげるよ。《僕のLvは999だ》」


「なっ…………!」


 文字通り桁違いの数値だった。


「僕はこの世界最強の魔法使いだ。だから、実力のあるこの僕が世界を支配するべきだと言っているのさ」


 これは……かなり分が悪いな。


「だから、こんなこともできる」


 ベルダーがそう言うと、彼の持っていた本がパラパラと猛スピードでめくれていく。

 その中心に黒いエネルギー…………闇幻素が蓄積されていく。


 ベルダーはそれに手をかざし、そのまま手を伸ばした。


「ディスペアー」


 ドォォオオオン!!!


 音と言うよりは痺れという感じだった。

 爆発音なんて生半可な言葉には収まらない程の大きな音が真っ直ぐに俺達を狙ってきた。


 反射的に体を横にずらすことができたからよかったものの、避けれていなかったら塵一つ残っていなかっただろうな。


 一直線に大きく抉れた地面を見て、俺は冷や汗をかいた。


「今のは闇属性の最強魔法ディスペアーだ」


 俺がやっとの思いでたまたま撃てたディスペアーをあいつは軽々と撃ちやがった。


「まだまだこんなものじゃない」


 ベルダーの本はまた別の色に光っていた。


「ヘビーレイン」


 青白い光が一気に水に変わり、俺の体を包んだ。


「ぐああああっ!!!!」


「グレン!!」


 ティリタは俺に駆け寄ってきた。


 俺は膝から崩れ落ち、前に手をついた。

 ティリタの回復魔法を受けながら息を切らし、ベルダーの笑い声をただただ聞いていた。


 なんだあの威力…………。


 全身が溶けそうになった。全ての細胞が1つ1つ飛んでいくような感覚に陥った。


 これがLv999の魔法使いか…………。


「まだだ…………」


 俺がダメでも、あいつなら…………俺の相棒なら、ベルダーを殺せるかも知れない。


 ベルダーの背後に回り、足で急ブレーキをかけて砂煙を立てる女がいた。


「任せたぜ、ゼロ」


 ゼロはハンドガンを両手に構え、トリガーの輪に指をかけた。

 銃をぐるぐると回し、素早く且つ確実にベルダーを撃ち抜いた。


 ダダダダダダダダダダ!!!


 初めて見る技だった。

 どうやら『アクセル』というらしい。


 ゼロは終始無言で、威圧的にベルダーを睨みつけているだけだった。


 それがゼロの戦闘スタイルなのだろう。

 殺ると決めたらスマートに。

 人の死ぬ姿を見るのはあまり楽しいものではないからな。


 何度も言うが銃は固定ダメージ。

 Lv999だろうと、防御力を無視してダメージを与えることができる。


 魔法使いは若干HPも伸びやすく感じるが、いいダメージは入るはずだ。


 そう思っていた。


「へぇ〜。銃は反動があるからDPSが低い。それをよくカバーしたものだね」


 ゼロは銃をポトッと落とした。


「うそ……でしょ……?」


 ベルダーは傷1つついていなかった。


「このローブには固定ダメージを無効化する効果がある。僕を銃で攻略しようだなんて無駄だと思うことだね」


 ゼロは銃を拾い、慌てて距離を取った。


「僕に楯突いた罰だ。希望の光で君を殺してやろう」


 本に強い光が集合し、それは魔法と化した。


「ホープ」


 その光は猛スピードでゼロに飛んでいった。

 音もなく大きく爆発したその光の弾が消えた後、そこに残っていたのは――――


「ぅ…………」


 ボロボロになって地面に横たわるゼロだった。


「ハハハハハッ!無様だねぇ!」


 クッソ…………あのヤロォ!!


 俺はもう一度、手に火幻素を集めた。

 その時の俺は、怒りがMAXまで達していた。

 フレイムを撃てばかなりの威力になっただろう。


 が、俺の肩を強く引く存在があった。


「離せよティリタ!」


「ダメだ…………今フレイムを撃ったらあの時と同じになる!」


 あの時。

 俺が初めてディスペアーを撃ったあの日だ。


「今フレイムを撃ったら、君の体は耐えられない!」


「…………お前はゼロを殺られて悔しくないのかよ!」


「悔しい……悔しいよ。でもここで冷静さを失ったら、僕達まで殺られる!」


 ティリタは手に煙玉を握っていた。


「………………クソッ!」


 俺はティリタから煙玉を強引に奪ってそれを投げ、瀕死のゼロを背負ってベルダーから逃げ出した。

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