1章25話『新レシピ』
「ハァ……ハァ……」
俺はゼロをおぶって、ティリタと共に必死に走った。
岩だらけぬかるみだらけの道はとても危険で、猛ダッシュするような場所ではなかった。
それでも走らなければならなかった。
「ゼロ!おい大丈夫かゼロ!」
「……ん………………」
なんとか意識はあるようだ。
俺達は安全な場所を探してそこでゼロを治癒するつもりだ。
いくら教会で蘇れるとはいえ、死とは恐ろしいものだ。
何色とも言い難い混沌の空間に自分一人が放り出される。その先の黒いうねりが俺を呑み込もうと引き寄せる。
理解のできない恐怖を、教会で蘇るまで永遠に味わう。それがどんなに辛いことか、俺は知っている。
だからこそ、必死になってゼロを助けようとしているのだ。
「グレン!あそこに家が見える!」
「…………本当だ!あそこを少し借りよう!」
俺はもうひと踏ん張り、足に力を込めた。
家の主は快く俺達に場所を貸してくれた。
民家の一室にゼロを横たわらせ、ティリタが回復魔法を撃ったり、俺が包帯を巻いたりして、ゼロの回復を急いだ。
「………………グレン……?」
しばらくすると、ゼロは意識を明確に取り戻し、HPもだいぶ回復した。
「ここ……どこ?」
俺達はゼロにここまでの経緯を説明した。
「そういうことなんだ。ごめんね、2人とも」
「気にすんな。それより……」
俺が言おうとしていることを、2人は察してくれた。
「ベルダー、でしょ?」
俺は頷いた。
「そう、だよね……あれだけの力量差を見せつけられたら…………」
「むしろ、よく生きて帰れたと思うよ」
どうやら、ティリタが念の為
『HPが満タンならどれだけダメージを食らってもHPが1残るようになる』強化魔法をかけてくれていたらしい。
事前に言ってくれればよかったのに。
「それに……ベルダーはグレンと同じ『プリズム』だ。いくらLv999とはいえ、あの攻撃力は適正属性じゃないとありえない」
確かに、あの魔法の威力は本物だった。
地面は抉れ、俺も死の寸前を見て、ゼロはボロボロにやられた。
「それにあのローブ……あれのせいで、アイツには私の銃が通用しない」
Lv999となると耐久面も恐ろしいことになっている。
ゼロの銃はローブのせいで通らないし、俺の魔法はローブなしでも通らない。
もしアイツを倒すほどの魔法を撃つとしたら、同時に俺も死ぬ覚悟をしたほうがいいだろう。
「はっきり言って、今の私たちはアイツに勝てない」
ゼロはそう断言した。
それはこの場の全員が思っていたことである。俺達がいかに貧弱で、いかに頼りないかがわかった。
でも。
「………………勝てるかどうかなんて関係ねぇ。勝つしかねぇんだ」
このままだと、ニグラスはあの男に支配される。
この世の全ての生物が無気力になってあいつに歯向かえなくなる。
「俺は『紅蓮』だ…………殺人鬼だ…………!アイツが正義を主張するなら、俺は悪になる!」
たとえこの世界の全てから否定されても、俺は悪を貫き通す。
それで、アイツの腐った正義を叩き壊せるのなら。
「…………そう言うと思った」
ゼロは髪をファサッと揺らす。
「ゼロ…………」
「でも忘れないでね。あなたは弱いってこと」
「……あぁ!」
一見注意喚起にも罵倒にも聞こえるこのセリフだが、ゼロは俺にこう言ってくれているのだ。
あなたは弱いから、1人じゃ何もできない。
あなたには私たちがついているってことを忘れるな。
ゼロなりの応援だった。
「たとえ君が弱くても、僕は君を支える。それが、パーティーってものだから」
「ありがとよ、ティリタ」
俺はティリタの頭をわしわしと撫でる。
これで……決まったな。
「アイツは…………ベルダーは、俺達が倒す」
ゼロとティリタは少し口角を上げながら頷いた。
「じゃあ、作戦会議と行きましょうか」
ゼロは髪をくるくるいじりながら言った。
「まずは、今回の敗因を振り返ろう」
今回の敗因は、間違いなくアレだろう。
「単純な力負けだ。こればかりはどうしようもない」
どの魔法も、威力が桁違いだった。
アレでは勝ちようがない。
「じゃあ、なぜあそこまで差が生まれたと思う?」
それも簡単な質問に思えた。
「Lvの差だ。こっちはみんなLv17とかなのに対し、あっちはLv999。チートなんてもんじゃねぇ」
ティリタによると、Lv999となると平均POWは1997。聞いただけでも恐ろしい数値だ。
「後は……魔法のグレードもあるんじゃないかしら。ベルダーの魔法はいずれも最上級魔法なのに対して、グレンは下級魔法、それもフレイムしか使えないから、選択肢の差が大きい」
俺はまだ『プリズム』の力を完全に開花できていない。
闇幻素も操れるようにはなったが、武器の関係でまだ闇魔法は撃てない。
そしてティリタから、ちょうど同じ話題が出た。
「僕は、武器の影響が大きいと思う」
あの魔導書やローブ。
俺らのショボい武器防具とは比べ物にならない。
「ゼロはともかく、グレンの武器はまだ入門用の手袋。それでまともに戦えるわけがないんだ」
「武器を新調する必要があるわけか」
ティリタは頷いた。
「となると、《ビエンベニードス》の店から最高の武器を買うべきか?」
一応おさらいすると、《ビエンベニードス》は商業系ギルド。主に武具を売っている。
「いや、売り物を使うのは賢い選択とは言えない」
「と言うと?」
「売り物になる武器は鉱石や木の皮などを使って作っている」
この手袋も、家畜の革か何かでできているらしい。
「でも、それでは性能が良いとは言えないし、なにより店売りの武器は使用できる属性が少ない」
俺の『プリズム』の力を活かしきれないというわけか。
「そうなると、どうすればいいんだ?」
「モンスターの素材や希少な鉱物を自分で採取して、自分で作るんだよ」
なるほど。
売ってないなら作ればいい、と。
「正確には、作るのは《アスタ・ラ・ビスタ》の技術班だ。こればかりはさすがに追加でお金がかかるけど、それでも街の武器鍛冶の半額以下で抑えられる」
なんで黒字なんだうちのギルド。
「となれば必要なのは素材か」
「それについても、1ついいのがある」
ティリタは手帳を操作し、その画面を俺に見せた。
画面に映るのは赤い手袋。真ん中が虹色のガラスのようになっていた。
「これは『彗星』と呼ばれる魔法具だ。とあるモンスターの素材と、レインボージュエルという鉱石でできている」
「レインボージュエル?」
「アラーナを倒すと肝臓から虹色の宝石が取れることがあるだろう?あれはアラーナの特性に気づいた人がレインボージュエルを再現しようとしたものなんだ」
レインボージュエルはアラーナの宝石の原点みたいなものなのか。
「それがあれば、『彗星』は作れるのか?」
「あぁ。それに、レインボージュエルは水晶が様々な幻素を吸収してできた宝石だ。だから、この武器を作れればグレンは『プリズム』の力を最大限活かすことができる」
まだ火と闇しか操れないとはいえ、作っておいて損はないということか。
「わかった。『彗星』を作ろう」
俺はそう決めた。




