5.幽霊の正体を追え!
◇
「いいか、君たち。よぉく見てくれ」
シメジさんはかがむように俺たちに指示した。
俺たちはそれにならって腰を低くし、懐中電灯に照らされたピンク色のつぶつぶに目を凝らす。
するとところどころにピンク色の液体が散らばっているのが目に入ってきた。
「うげっ、気持ち悪い」
「だぁかぁらぁ! 気持ち悪いは禁句! タブー! いいね!」
「はい……」
シメジさんの剣幕に俺は首をすくめた。
まるで部活の先輩と後輩のような感じがする。
もっとも俺は帰宅部だから、本当のところはよく分からないが……。
「俺はこれを見て、すすり泣いていたのさ」
「この気持ちわ……。ええっと、鮮やかな色の液体を見てってことですか?」
「うむ、その通りだ。なぜならこれは幼くして命を散らしたマメホコリたちの魂だからね」
「魂?」
「簡単に言えば『何者かにつぶされた跡』ってことだ」
「えっ……?」
俺と佳鈴が同時に目を丸くすると、シメジさんはニヤリと口角を上げた。
「ちなみに夕方にここを訪れた時は、まだマメホコリたちは『生きて』いた」
「それって、つまり夕方から今の間で『殺された』ってことですか!?」
「ご名答! 君は筋がいいな。是非、わが生物部にスカウトしたい」
「こらっ! まだこの子たちは中学生だっつーの! そういうのいいから、早く先を言いなさい!」
彩さんの一喝に、シメジさんは顔を曇らせて首をすくめた。
しかし有無を言わさぬ彩さんのオーラに屈したのか、シメジさんは懐中電灯を照らす場所を変えて続けた。
「マメホコリたちの魂は、この先も続いているのさ」
俺はハッとして大きな声をあげた。
「要するに『何者かにつぶされた跡』がこの先にも続いているということですね!」
「そしてそれをたどれば『幽霊の正体』にたどりつく!」
俺に続いた佳鈴が瞳を輝かせた。
そして俺たちは向き合うと、両手でハイタッチした。
「あはは! すごい!」
「うん! さっそくたどってみよう!!」
「ふふ、君たちもようやく気づいたようだね。粘菌の奥深さを。かくなるうえは、二人を生物部の一員に加わることを許可しよう。そもそも生物部とは……」
……と、語り出したシメジさんを置いて、俺たちと彩さんの三人は潰れたマメホコリの跡をたどりはじめたのだった。
◇
「ひどいな、君たちは! 俺を置いていくなんて! そもそも俺がいなかったら……」
ようやく俺たちに追いついてきたシメジさんが涙目で訴えてきたが、彩さんがそれを片手で制した。
「しっ! 何か聞こえない?」
耳をすましてみる。
すると……。
――クウゥゥ……。クウゥゥ……。
とてもか細い泣き声が聞こえてくるではないか!
ゾッと背筋に悪寒が走る。
同時に佳鈴が俺の右手をギュッと握ってきた。
「もしかして……。すすり泣きの正体が近くにいるのかな……」
「まだ分からないわ。もう少し近づいてみましょう」
冷静な彩さんの指示に従って、俺たちは先を進んでいった。
――クウゥゥ……。クウゥゥ……。
徐々に声が大きくなってくる。
一歩また一歩と『犯人』に近づくにつれ、佳鈴の体温が上がっていくのが、つないでいる手から伝わってくる。
佳鈴が怖がっている……。
どうにかしなくちゃ。
その一心で俺は彼女の手を強く握った。
佳鈴は俺に大きな瞳を向けてくる。
俺はなんとかして彼女を励ますために笑顔を作ろうと試みた。
しかし昔っから「あんたは笑うのが下手ねぇ」と母ちゃんから言われてたほどだ。
あきらかにぎこちない笑みだったに違いない。
そして、腹に力を込めて言った。
「大丈夫。二人なら怖くないから」
佳鈴の目がみるみるうちに大きくなっていく。
暗がりの中でも、彼女の頬が桃色に染まっていくのが分かった。
そして、心の底から嬉しそうな笑顔で、
「うん!」
とうなずいてくれた。
その笑顔は真夜中の空の下の中にあっても、太陽のように輝いていたんだ――。
「……お二人さん。イチャイチャは終わってからにしてくれる?」
彩さんの冷水のような一言に俺たちは我に返った。
そうしてピタリと足を止めたシメジさんが、小さくつぶやいた。
「この先だ……。この先に『犯人』はいる」
ふと見れば大きな茂みがある。
――クウゥゥ……。クウゥゥ……。
確かに泣き声はそこから聞こえている。
俺たち4人は、ゴクリと唾を飲み込むと、真っ黒な茂みを正面にしたのだった。




