3.聞こえてきたすすり泣き
◇
俺は今、『リア充』である!
真夜中の公園の中を、彼女と仲良く手をつなぎながら歩いているのだから、そう胸を張ってもおかしくない。
「ははは! 楽しいなぁ!」
先ほどまでの恐怖など、まるでなかったかのように明るくふるまう俺を見た佳鈴は、最初は不思議そうな顔をしていたが、すぐに屈託のない笑顔に変わった。
「ははは、裕輝は頼もしいね!」
「おう! 今の俺はなんにも怖くない!」
強がりでもなんでもなく、本心からそう思っていた。
幽霊でもなんでもこい!
俺が佳鈴を守るんだ!
まぎれもなく俺は『ヒーロー』なんだ。
……と、痛々しいほど調子に乗っていたわけだ。
しかし、それは突然聞こえてきたんだ――。
「ううっ……。ひっく、ひっく」
誰かがすすり泣く声……。
俺たちはピタリと足を止めて、顔を見合わせた。
「ね、ねえ、今聞こえたよね……?」
「ああ……」
佳鈴が顔を青くしている。
きっと俺の顔色は青を通り越して、灰のように真っ白になっているに違いない。
だが、それで終わらなかった。
――ガサガサッ!
「今、なにか音しなかった?」
確かになにかが地面を這うような音がしたような気がした。
その次の瞬間。
――ガサガサッ!
再び音がした。
しかも今回はすぐそばで!
「きゃっ!」
佳鈴が飛び跳ねて俺に抱きつく。
柔らかな彼女の感触に、思わず鼻の下が伸びてしまったのは内緒だ。
「下! 下になにかいる!」
佳鈴が青い顔をしながらそう言った。
「下……」
ゴクリと唾を飲み込みながら、俺は視線をゆっくりと下へ向けていった。
黒い木々から徐々に湿った土が視界に入っていく……。
そうしてついに地面だけが目に映ったその時だった――。
なんと白い服をきたナニかが、四つん這いになっていたのである!
「ううっ……。ひっく、ひっく……」
しかもすすり泣いているではないか!!
「ぎゃあああああ!!!」
「きゃあああああ!!!」
俺と佳鈴は同時に叫び声をあげて飛び跳ねた。
そして急いでナニかから背を向けた。
だが、そこに白い光に浮かび上がった女の顔が目の前に現れたのである。
「ぎゃあああああ!!!」
「きゃあああああ!!!」
再び森に響く俺たちの絶叫。
だが、同時に女の顔も大声をあげたのだった。
「で、で、出たあああああ!! 幽霊カップル!!」