2.ピンチをチャンスにかえろ!
◇
その日の夜――。俺たちは学校で待ち合わせた後、歩いて『みなみ公園』に向かった。
――ピンチはチャンスだ。
誰が言ったのかは知れないが、まさに今の俺はそんな状況かもしれない。
よくよく考えてみれば、幽霊なんてこの世にいるわけなんてないんだ。
だ、だから、真夜中の公園にしたって、全然怖がる必要なんてない。
そ、そ、そ、それにここで『かっこいいところ』を佳鈴に見せれば、俺の株も上がるってもんだ。
いやぁ、これはチャンスだ。絶好のチャンスなんだよ、浦部裕輝!
今こそおまえの勇気を……。
「裕輝くん!」
「のわあああああ!!」
佳鈴が突然声をかけてきたものだから、思わず大声を出してしまった。
そんな俺を見て彼女は目を丸くしている。
「どうしたの?」
「ど、ど、どうしたの? じゃねえよ! それはこっちのセリフだっつーの!」
「へ? 私は単に公園についたから、声をかけただけだけど……」
「公園? ああ、そうだったのか。それならそうと言ってくれれば……」
ぶつぶつと文句を言う俺をよそに、佳鈴は公園の中へズンズンと進んでいく。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
自分でも情けない声を出しながら、俺は佳鈴の背中を追っていったのだった。
◇
みなみ公園は、ここらでは一番大きな公園で、野鳥を観察する森があったり、人工の川や池まである。
ぐるりと周囲を散策するのに、30分くらいはかかるのだ。
そんな公園の中央を俺たちは突っ切っていく。
果たして「すすり泣き」は本当に聞こえてくるのだろうか……。
今のところは、ほーほーというフクロウの鳴き声以外は何も聞こえてこない。
前を進むほど恐怖心はあおられて、ちょっとでも油断すれば膝がガクガク震えそうになってしまう。
しかし佳鈴はなんでもないように軽い足取りで進んでいるのだから、たまったものではない。
やっぱり彼女には俺なんか相応しくないんだ……。
そんな風に胸の内まで真っ暗になったところで、彼女は俺の方に振り返った。
「うーん。聞こえないね。すすり泣き」
「しょ、しょせんは、ただの噂だったんだよ。ということで今日はもう帰ろうか」
「もうちょっと奥にいってみましょ!」
もうちょっと奥とは、あのうっそうと茂る森の中でしょうか?
中学生が二人で夜中にあんなところに行ったら、先生に怒られると思います。
……などと口にできるはずもなく……。
「いこっ!」
という佳鈴の爽やかな声につられるように、うなずいてしまった。
はぁと彼女に聞こえないようにため息をつく。
だが次の瞬間だった。
――ムギュッ!
なんと彼女が俺の右手をつかんできたのだ。
「えっ?」
思わず目を丸くした俺に、佳鈴は上目づかいで俺の顔をのぞきこんできた。
「ダメ?」
か、かわいい……!
俺は何も答えられず、ただ首をブンブンと横に振ることしかできない。
だが彼女にとっては、それでじゅうぶんだったようだ。
「はは、よかったぁ! わたし、すっごく心細かったの!」
その言葉に俺ははっとした。
そうだったのか……。
一見すると何も怖がっていないように見えた彼女でも、内心は不安だったんだ。
彼女の手がじんわりと汗ばんでいることからも、それは明らかだった。
俺が彼女を守るんだ。
がらにもなく、強い使命感がわきあがり、自然と彼女の手を握る力が強くなる。
すると彼女は一瞬だけ目を丸くした後、すぐに目を細めて、まぶしい笑顔を作った。
そして突き抜けるような明るい調子で言ったのだった。
「二人で一緒なら幽霊なんて怖くないよね!」
と。
「うん!」
俺は力強く答えると、今度は彼女の背中を追いかけるのではなく、彼女を横にして進んでいったのだった。




