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4月ーーアイリス。新しい日常(前編)

アイリス視点

「…………ん、んん…………。あさ…………?」


カーテンの隙間から射し込む光を受けて、わたしは目を覚ます。


(…………んん…………今、何時…………?)


寝起きのボンヤリした頭のまま、わたしは枕元に置いている時計を手に取って、今の時間を確認する。


「…………7時半、か…………。……………………うん。起きよ…………」


独り言を呟きながら、のそのそとベッドから起き出す、わたし。


「…………ふぁー…………」


と、その途中に、わたしの口から大きな欠伸(あくひ)が漏れてしまった。


(…………いけない、いけない。こんな寝惚けた姿、シンさんには見せられない。しっかり目を覚まさなくちゃ)


そう思ったわたしは、お部屋の窓のカーテンを開いて、4月の暖かな朝日をたっぷりと浴びる。

窓の外の景色に目を向けると、シンさんがお庭で育てている、いろいろなハーブが目についた。

その中で一際(ひときわ)目を引くのは、ちょうど今の時期に白くて可憐な花が咲く、カモミール。

その隣にあるラベンダーは、現在はまだ薄紫色の(つぼみ)の状態。たしかシンさんは、5月頃に花が咲くって言っていたから、あともう少しかな…………。


「…………んんー! うん! 今日も、良いお天気!」


お庭のハーブを見ているうちに、だんだんと目が覚めてきた。

わたしは、最後に外の景色を見ながら思いっきり体を伸ばすと、窓際から離れて朝の準備を始めていく。


(まずは、パジャマを着替えなくちゃなんだけど…………うーん。今日は、どの服を着よう…………?)


シンさんのお(うち)で暮らし始めたばかりの時は、お洋服はまだ数着だけだったから悩む余地なんて無かったんだけど…………今は、タンスの引き出しいっぱいに、たくさんの可愛らしいお洋服が入っていて、どの服を着ようか悩んでしまう。


(シンさんの前では、かわいい格好で居たいからなぁ…………)


そう思うものの…………とはいえ、いつまでも悩んでいても仕方がない。速くリビングに行かないと、シンさんを待たせちゃう。

わたしは、シャツとスカートを1枚ずつフィーリングで選ぶと、パジャマを脱いで着替えていく。

…………と、その途中、わたしは壁に掛けられたカレンダーを見て、今日の日付を確認する。


(今日は、4月の24日…………またシンさんと一緒に暮らし始めてから、ちょうど1週間か…………)


この1週間の間にも、いろいろな事があった。

その中でも1番大きな変化は…………わたしがこうして、自分の部屋で1人で寝起きしている事だろう。

この家で暮らし始めたばかりの頃は、不安や寂しい気持ちが強くて、わたしは毎日、シンさんの部屋のシンさんのベッドで、シンさんと一緒に眠っていた。

だけど、シンさんと再び一緒に暮らし始めた、その夜ーー

わたしは、以前のようにシンさんと同じベッドで眠ろとしたんだけど…………それまでと違って、すぐ側でシンさんが眠っている事を意識した瞬間、何故だか無性に恥ずかしく感じてしまったんだ。


(結局、その夜はろくに眠れなくて、次の日からは自分のベッドで、1人で眠る事にしたんだよね…………)


きっと、シンさんが『血染めの髑髏(ブラッディスカル)』を倒してくれたおかげで、わたしの中の不安や寂しさが薄らいだんだと思うんだけど…………それにしても、不思議だ。

わたしはどうして、大好きなシンさんと一緒に眠るなんていう、絶好の甘えられる機会を自分から(のが)してしまったんだろう?


(とはいえ、またシンさんと一緒に眠るのは…………ムリムリッ! 絶対にムリッ!)


同じ布団で眠っている、シンさんの体温や息づかい。見た目は細いのに、意外と付いている筋肉の感触。

それらを思い出してしまい、わたしの頬っぺたが熱くなってしまう。


(と、とりあえず、その事は一旦忘れて、早く着替えよう! うん!)


わたしは、ブンブンと首を大きく振る事で熱くなった頬っぺたを冷ますと、着替える事に集中する。


(……………………うん! これで着替えは終わり! さて、次は…………)


着替えが終わる頃には、頬っぺたの熱も大分(だいぶ)落ち着いてきた。

わたしは、最後にクルッと自分の姿を見回して、着崩れ無くしっかり服を着ている事を確認すると…………机の上に置いてある宝物を手に取って、わたしは自分の部屋を後にする。


ーートントントン

ーージュウジュウジュウ


廊下に出ると、キッチンから包丁を刻む音や、フライパンで何かを焼いている音が聞こえてきた。

どうやら、わたしよりも早く起きたシンさんが、朝ごはんを作ってくれているようだ。


(…………えへへっ! 今日の朝ごはんは何かなー? まあ、シンさんが作ってくれる料理は、どれも美味しいんだけどねー)


これまで食べてきたシンさんの手料理の味を思い出していると…………お腹が、クーとなってしまった。

わたしは、恥ずかしい思いを感じつつも、シンさんが居るキッチンへ向かうーー前に、まずは洗面所へと足を運ぶ。


(…………うーん。やっぱり、今日も髪の毛が乱れちゃってるなぁ…………)


洗面所の鏡に映る自分の姿を見て、思わず溜め息を吐いてしまう、わたし。


(わたし、ちょとだけくせ毛だから…………寝起きは、いつも寝癖(ねぐせ)が酷いんだよねぇ…………。そのせいで、髪は肩にかかる位までしか伸ばせないし…………)


わたしだって女の子だから、長い髪の毛に憧れはあるけど…………まあ、仕方ないか。


(それよりも今は、この寝癖を直さなくちゃ!)


わたしは、ここまで持ってきた宝物をーーシンさんから誕生日にプレゼントしてもらった木櫛(きぐし)のセットを取り出すと、その内の1本を手に取って、洗面所の鏡を見ながら寝癖が付いた自分の銀髪をといていく。


(シンさんに、寝癖が付いただらしない姿を見せたくないからねぇー)


『ルル』の村で、お母さんと一緒に暮らしていた時は、そんな事は思わなかったし…………シンさんと一緒に暮らし始めたばかりの頃も、そんな事は考えもしなかった。

だけど、1週間前ーーシンさんともう1度一緒に暮らし始めてからは、寝癖が付いただらしない髪をシンさんに見せるのに、抵抗を感じるようになったんだ。

シンさんと一緒のベッドで眠れなくなったのと同じで、理由は自分でもよく分からないんだけど…………おかげで、シンさんから可愛いって褒めてもらえるし、まあ良いか。


(……………………うん! キレイになった!)


そんな事を考えている間に、寝癖が付いていた髪を整え終わった。

わたしは最後に顔を洗うと、洗面所を後にしてキッチンへと向かう。

そして、キッチンで朝ごはんの準備をするシンさんにーーううん。

お父さんに、朝の挨拶をするのだったーー


「おはよう! お父さん!」


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