01 転生した途端いきなり攻略キャラに会ってしまいました
真っ白な空間にたった一人でいる少女は、ある一冊の本を読んでいた。
「ふふっ、この子面白いなあ! よし、この子にきーめた!」
そう言って笑う彼女が開いているページには、一人の少女について書かれていた。
「――――それじゃあ、始めようか」
☆
ある日のこと、どうやら私は神様の間違えのせいで死んでしまったらしい。
そのため、神様はお詫びということで好きな世界に転生してくれると言ったので、私はお言葉に甘えて転生することにした。
だから言われた通り、転生したい風景を思い浮かべた……はずなのに……!
「ここどこだし!」
どうやら神様は、転生先を間違えたようです。
☆
『いっやー、ごめんねー! 転生途中にちょっと邪魔が入っちゃった!』
「その語尾に『テヘペロ』が付きそうな言い方止めてくれませんか? そしてここはどこです」
『あ、ちょっと待ってね』
神様はテレパシーで私にそう明るく謝り、この世界の情報を得るために一度テレパシーを切った。
その間私は近くのベンチに座り、ただ呆然と空を見上げていた。
しばらくそうしていると神様は何か情報を得ることができたのか、再びテレパシーを使った。
『えっとねー、まだ正確な情報が送られてないから詳しいことはわからないけど、どうやらここはゲームの世界みたいだね』
「なるほど、つまり私はゲームキャラの誰か……ということですか」
『うん、そうなるね。あとわかるとすれば……君が持っていた乙女ゲームの世界ってことくらいかな』
「私の持っていた、乙女ゲーム!?」
私はその単語を聞いて、思わずそう叫びながら立ち上がった。そして慌てて近くのトイレに駆け込む。
私の容姿をよく見ると、それは確かに私が持っていた乙女ゲームの制服であり、更には主人公によく似ていた。
私はそれを確認すると、ため息をつきながら壁に寄りかかった。
「まさかの主人公とか……最悪」
『ん? どうしたの? 普通ここは喜ぶところじゃない? だって、乙女ゲームの主人公なんでしょ?』
「神様は何も知らないからそう言えるんです!」
そう、神様は何も知らない。私が持っていた乙女ゲームが、どんなものかを。
「あの乙女ゲームの主人公は……どのルートでも最終的に、攻略キャラに殺されるんですよ!」
『……え? うええええっ!?』
「ひゃっ!?」
私の言葉を聞いて、神様はテレパシーでも伝わるくらい大きな声で叫んだ。
その声に驚いて私は思わず悲鳴をあげてしまったが、気を取り直して咳払いをする。
「あのですね、私が持っていた乙女ゲーム『はなとしおり』は攻略キャラが全員ヤンデレ属性……つまり愛情度を上げれば上げるほど、主人公の死亡フラグが立つんですよ!」
『あ、そうなんだ……というか、何故にそんなゲームを買ったの?』
「友達に勧められてやったんですよ……内容とか知ってたら借りませんて、絶対」
『だーよーねー!』
私はそんな神様の能天気な声を聞いて更に気分が鬱になった。
しかしそんなことを考えていても仕方ないと思った私は、僅かな記憶を辿ってこのゲームの設定を思い出した。
このゲームの主人公の名前は塙花汐莉。表の顔は明るく誰にでも優しい女の子だが、裏の顔は超エリートな警察官である。
一方、攻略キャラの裏の顔は主人公と正反対の超エリートな殺人犯であり、まだ誰も正体をしらないというほどであった。
そんな主人公達が通っているのは彪ヶ崎学園という学校であり、主人公達のように訳ありな人も少なくはない。
そこまで思い出して、私は再びため息をついた。
「……今思うと、すごい設定かもしれない」
『え? 何がー?』
「何でもないです! とにかく、学校に行かないと……! テレパシーは切ってくださいね!」
「あ、はーい」
そう言って神様がテレパシーを切ったのを確認し、私は三度目のため息をついた。
「すごい鬱だけど……仕方ないか。早く、行かなきゃ……!」
今がいつなのかとかは全く把握できていないし、もう既に愛情度が上がっていて死亡フラグがへし折れない、なんてことになっていてもおかしくはない。
そう思った私は、先程よりも鮮明に思い出してきた記憶を辿り、学校へ向かうことにした。
☆
やっとの思いで学校に着いた私は、深呼吸をしながら学校を見た。
「あ、れ……人影が、ない……? 今日は休日、なのかな?」
そう呟いて学校に入ってみようと思った私はゆっくりと校門を潜ろうと一歩踏み出した、その時だった。
「おい、何をしている?」
「ふにゃあっ!」
背後から突然誰かに話しかけられ、私は思わず猫のように叫んでしまった。
慌てて誰なのかを確認するために振り返ろうと顔を回したが、私は記憶のどこかで似たような光景を見たような気がした。
(…………まさか、ね?)
私は嫌な予感と共に勢いよく振り返り、そして目の前にいる人物を見て固まった。
そんな私を見て相手は首を傾げ、再度私に話しかけた。
しかし私にはそれに対処する余裕もなく、ただ己の記憶力のなさに後悔していた。
(そう、だ。このシチュエーション……いや、このイベントは……!)
そこまで考えて私は首を振り、塙花汐莉のお得意とされている笑みを浮かべ、口を開いた。
「はじめまして……生徒会長の孝賀日明先輩」
そこにいたのは、彪ヶ崎学園の生徒会長であり、この乙女ゲームの攻略キャラである――――孝賀日明だった。