第3話 蹂躙
予定通りオーガと戦いに来たクロ達。
順調に殲滅が進む彼らはそのままの勢いでボスに向かおうとするが……。
2m~3mぐらいの人型で、頭に2つの角を持ったモンスターであるオーガが、次から次に襲ってくる。
人食いの森へと続く渓谷の入り口。
昨日決めた予定通り、朝から馬車でそこに乗りつけ、戦っているのだ。
まず、マユさんの魔法とティナの妖精さん達の攻撃で数を削り、近寄ってきた奴らをセリカが切り伏せる。
マユさんの魔法は一匹一匹確実に葬っていくし、妖精さん達は範囲攻撃で大ダメージを与えていく。
最後に弱った奴らをセリカが殲滅って感じだ。
それにしても、弱ってるとはいえ、オーガを殆ど一撃で倒しているなセリカ。
俺やレナさんの支援の為か、それとも鋼の剣のおかげなのか、その両方かもしれないが……。
俺たちはそんな感じで、飛んで火にいる夏の虫の如く、襲ってきた端から倒していく。
オーガ達は、決して弱い訳では無いはずだ。
人型のモンスターらしく剣やこんぼうで戦う前衛、弓や投石などで戦う後衛、比較的速度の速めのナイフなどを持った遊撃、なんて具合に役割分担をして連携して襲ってくる。
それに数も脅威のはずだ。渓谷の奥から、途切れる様子も見せずにどんどん増援が現れている。
知能は低いらしく、前衛が壁になって後衛が攻撃程度の初歩的な連携しかして来ないとか、魔法を使ってくる奴がいないとか、基本脳筋のモンスターだからとか、理由はあるかもしれないが、それでも一方的過ぎる。
曲がりなりにも、回復アイテムすら使うのだ。毒々しい緑色の液体をぶっかけてたあれって……薬系のアイテムでいいんだよな?
そんなオーガたちに対して、増援で数が増えるよりも俺達の殲滅速度の方が速いのだ。
もしかしたら、オーガが見掛け倒しのザコモンスターなのかと思ったりしたのだが、冒険者ギルドでは最低CランクPT以上でそれなりに強いという評価だったし、何よりもザコとは思えない経験値の量だった。
エルフの森での蟻の巣退治で数をこなして稼いでいた時に比べても相当な効率が出ている。
朝始めてまだ昼前だというのに、今居る中で一番レベルの高いティナはLv65→67に、2つあがっている。
他のメンバーも、俺Lv39→44、マユさんLv38→45、セリカLv48→52、レナさんLv37→41、ミルファさんLv39→43って感じで4~5、マユさんにいたっては7もあがっている。
極めつけは、タマとポチのちびっ子だ。
PTに入れて馬車の中で見学させているだけなのだが……。
なんと、もうLv20を突破している。はじめた時は2~3だったはずなので、20近くあがっている事になる。
あ、またあがった。二人とも今LV22→23になった。
「思ったより強くないよ~これならボスも楽勝だね~このままボスに行っちゃおうよ~」
殲滅を続けているティナがそんな事を言い出す。
まあ、ティナの言うのもわからないでは無い。
基本、ティナ、マユさん、セリカの三人で殲滅が終わって、馬車の前でレナさんと俺達を守っているミルファさんの前にたどり着けたオーガが2~3匹しかいないのだ。
そのオーガも満身創痍でミルファさんの一撃であっけなく絶命したしな。
「師匠、この剣はすばらしいです! 敵を簡単に切り裂けます」
セリカは、手にした炎の鋼の剣で、オーガの肩辺りから斜めに真っ二つにしている。
もしかしたら、オーガは火が弱点だったりするのかもしれない。
「これなら今すぐにでもBOSSと戦えます!」
セリカもボス戦に突入したがってるな。
マユさんの方を見ても、
「『マジックアロー』、あっちにも『マジックアロー』!」
一発一発、心臓やら頭やらを狙って打ち抜いている。
MPを消耗しすぎて疲れてる感じもしないな。
俺も、支援魔法なんかは使ってはいるけど、特に戦闘に支障が出るほどMPを消費していないしな。
やってやれなくは、無さそうなんだが……。
「マユさんはどうだ?」
「問題ありません!」
「行こうよ! 倒しちゃおうよ!」
「行きましょう師匠!」
戦っている3人は問題無さそうだな。
「レナさん達はどうだ?」
「まだここに来て何もしてませんし……」
「殆ど三人が殲滅していますから……」
「凄い~~ワン!」
「ニャン!」
レナさん、ミルファさん、ちびっ子二人も問題無さそうだ。
まあ、BOSS手前でちびっ子達は帰還してもらうんだけどな。
「じゃあ、少し進んでみるか?」
「「「おおおお~~~」」」
「「「はい!」」」
それから渓谷を進んでいく。
敵の群の中を突き進む事になり、入り口に居た頃と比べ敵の抵抗が激しくなったが……。
それでも、飛び道具類を風の妖精さん達がそらせてくれるのも大きかったのだろう。
変わらぬペースで殲滅していく。
ただ、殲滅していくといっても、敵陣を進む事になるので、後ろからの攻撃にも対応が必要になり、ミルファさんが馬車の後ろの敵と戦う事になった。
倒す事自体は特に問題ないんだけど、背後を取られてたり囲まれたりするのは、BOSS戦では面倒だな。
一度徹底的に殲滅してからBOSS戦に向かった方がいいのかもしれないな。
「なんか全然進まないよ!」
「一体一体は問題ないのですが、流石に数が多いです!」
オーガの群との戦いの為、進行速度が凄く遅くなっている。
「このペースだと、BOSSの居るあたりにつくころには日が落ちてそうだな」
一直線の渓谷ではあるが、岩が転がっていたり、両側の壁に穴が掘ってある場所などもあり完全には見通せない。
事実BOSSの姿もここからでは確認できていない。
まあ、オーガキングって言うくらいだから、特別大きな個体を探してるんだが……同じ大きさでステータスが高かったら群にまぎれてわからないな。
「ええええ~~~そんな~~~」
「ここでの野宿はさすがに……」
まあ、ティナはともかくとして、セリカの言う通り敵地のど真ん中で夜を過ごすのは避けたいな。
そうなってくると、問題は前進してBOSSを突破するか、引き返して明日に備えるかなんだが……。
「うう~~~、面倒だよ! 一気にドカーンと行くよ! セリカちゃん、マユちゃん少しお願い!」
我慢できなくなったティナがなにやら始めようとしてるみたいだな。
まあ、BOSSと今日戦うにしても明日戦うにしても、一気にBOSSまでたどり着ける手段があるなら見ておきたい。
多少……結構……ティナの高火力の攻撃には不安があるので、強力な防御用の魔法をいくつか準備はしておこう。
「わかりました」
「了解」
ティナが抜けた分、モンスターの圧力が増えてマユとセリカでは捌ききれなくなってくる。
俺も馬車の前に立ち、向かってくるモンスターを切り伏せていく。
戦闘していて時間感覚は少し自信はないが3分ほど経ったくらいだろうか?
「準備できたよ~みんなさがって~~~」
ティナが大きな声を上げる。
俺達は一斉にティナの後ろまで下がる。
「ティナさん、みんな下がりました」
マユさんがティナに声をかける。
それと同時に俺は、一応皆と馬車の周囲を覆う魔法の防壁を展開させる。
「じゃあ、いっくよ~みんな~~~やっちゃえ~~~~」
ティナの前方に横向きの竜巻のような物が現れたかと思うと、そこに炎を巻き込み、横向きの炎の竜巻が出来上がる。
当然、前方にいたオーガ達は、炎の渦に巻き込まれて焼き尽くされていく。
その炎の竜巻がどんどん伸びて行き、渓谷が真っ赤に染まる。
使った場所が場所だったので、炎の余波が馬車の方も襲う。
馬車の後ろから近づこうとしていたオーガ達を吹き飛ばしてたので相当な威力があったのだろう。
本当に、防壁を張っておいて良かった。
そして……。
ティナの攻撃も終わり、炎の竜巻が襲った跡には……真っ赤に焼け爛れた渓谷しか残っていなかった。
「す、すごいです……」
「すごい」
「ティナさんて……」
「すごいです」
マユさん、セリカ、レナさん、ミルファさんがこの光景に驚くのは解る。
妖精達の力の凄さに驚くのも……だけどな……。
「おお~~~すご~い」
ティナ! やった本人が驚いてどうする!
しばらく、その光景に見入っていると……。
「じゃあ、いこうよ! ボス戦」
「いきましょう師匠」
うん、それはいいんだがどうやってだ?
ティナが焼き尽くした渓谷は、赤い色から黒くはなっているけど、通ると火傷じゃすまない気がするぞ?
「ティナさん、セリカさん! このまま進んだら火傷します」
マユさんも同じことを思ったんだろう。二人を止める。
「そんなの問題ないよ! 水で冷やせばいいんだよ~」
なんてティナが軽い感じで、たぶん水の妖精に力を借りようとするのを見て慌てて止める。
「まて、ティナ! そんな事をしたらどうなるかわからんぞ?」
水蒸気爆発とか、そういうのが無くても、渓谷の壁がもろくなって崖崩れとかあまりいい予想が浮かばない。
「え!? 何かあるの!?」
うん、そこで目を輝かせるなティナ。
説明したらしたで面白そうとか言ってやりそうに思えるぞ……。
そんなやり取りをしてる時だった。
「ポチちゃん! タマちゃん! 大丈夫ですか!?」
レナさんが半分悲鳴交じりの声を上げる。
そういえば、ちびっ子達の反応が無かったな。
そう思いながら、馬車を覗き込むと……。
「ワ……ワゥ……」
「ニャ! ニャニャー」
苦痛にのた打ち回る事もできずに倒れてただ耐えているといった感じの二人が居た。
な、何かダメージでも食らったのかと慌てて俺は回復魔法を使う。
「『フル・ヒール』『リカバリー』『セイント・ヒーリング』」
これで、ダメージなんかは、完全に回復した筈だが……。
「ワゥゥ……」
「…………ニャぐぅ……」
弱弱しく苦痛に耐えてる様子は変わらない。
「一体どうしたんだ?」
「解りません、この子達が静かだなと思って中を覗いたら……」
レナさんが困惑した様子で答えてくる。
「ティナ、セリカ、マユさん。M&Mに急いで戻るぞ! ちびっ子達の様子がおかしい!」
渓谷の先の方を調べていた三人に声をかける。
「え!? 大丈夫!?」
「攻撃を受けたのですか?」
「大丈夫ですか?」
三人は急いで馬車まで戻ってきて、心配そうにちびっ子達を見つめる。
「わからん、回復魔法をかけても効果が無い。とにかくM&Mに戻るぞ!」
「うん」「はい」「了解です!」
こうして俺たちは、急遽M&Mまで戻る事になった。
M&Mに戻って直ぐ、原因不明のちびっ子達の様子をリーフさんに見てもらう。
あの場に居たメンバーは全員理由がわからなかったし、教会のヒーラーなんかよりは俺の回復魔法の方が強いだろう。
可能性があるとしたら何かの病気なのだが、街の医者なんかよりはよっぽど知識がありそうな気がしたのだ。
リーフさんに見せて解らなかったら医者の方に行ってみればいいしな。
ちなみにこの世界の医者というのは、ヒーラーなんかの区分けは、ざっくり言うと医者が病気で、ヒーラーが怪我だそうだ。
あと、治療法は、医者が薬がメインでヒーラーが回復魔法がメインらしい、あくまでメインで両方使う事もあるようだが……。
「大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろう」
俺とマユさんが、砦にあるリーフさんの樹の家の一室で待っている。
その部屋には他に、狐っ娘姉妹も隅の方に離れて待っている。
「…………」
「…………」
凄く不安げな様子だが、ちびっ子達を心配してるんだろう。俺やマユさんを怖がってるからってのも少しはあるだろうが……。
他のメンバーはM&Mの方で待機だ。
そうして、しばらく待っていると……。
扉を開けてリーフさんが出てくる。
「…………」
「…………」
狐っ娘姉妹がリーフさんに近寄って心配げな表情を向ける。
「二人とも心配は要りません。特に健康に問題はありませんよ」
「……(ほっ)」
「……(ほぅ~)」
直ぐに安心した表情を浮かべる狐っ娘姉妹。リーフさんは相当信頼されているようだな。
「健康に問題が無いなら何故あんな状況になったんだ?」
「そうです! 二人とも、凄く苦しんでいました」
俺たちは、直ぐには納得できずに疑問の声を上げる。
「たぶん、レベルアップが原因です」
リーフさんが、そのまま詳しい説明を始める。
簡単に言うと、あまりに急激なレベルアップをさせすぎて、体がついていかなくなったようだった。
う~ん、イメージ的には成長期に身長が急激に伸びすぎて、骨などが痛くなるのと同じような物なのかもしれない。
転職後に下がったレベルを一気に上げたりする時は起こる事は無いらしいが、初めての職業で急激に上げたりすると起こるらしい。
ちびっ子二人のレベルを見てみると、二人ともLv32になっていた。タマがLv3、ポチがLv2から始めたから……レベルが29~30上がった事になるのか。
伸びたステータスとか考えると確かに体が急に成長しすぎて痛くなってもおかしくは無いのかもしれない。
M&Mに戻ってその話を伝えると皆一様にほっとした表情を浮かべていた。
うん、大事にならなくて良かった。
その後、明日の朝、ちびっ子二人に異常が起こっていたりしない限り、予定通りBOSS戦に向かう事が決まった。
ちびっ子達は大丈夫だったし、そろそろ気持ちを切り替えて明日の準備をするか。
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「…………」
「…………」
ツンツン
ツンツン
「ニャぁぁあぁぁ!!」
「…………」
「…………」
ツンツンツン
ツンツンツン
「ワギャー!!!」
「……(元気そう)」
「……(うん、元気!)」
次回、BOSS戦に向かいます。
結果は……。




