最終話
「ごめんくださーい! 絹ちゃん居る?」
去年に引き続き、今年の夏も暑い。今日はお父様が車を出してくれたから助かるが、高校も三年生になったし、移動するためにも車の免許は欲しいものだ。
祖父母の家の中から、慌ただしい足音が玄関にまで聞こえ、頬も少し緩む。外は体が溶けそうなほど暑いが、こうした、元気が伝わってくる姿に癒やされる。
「すみません糸ねぇ! おまたせしまし……あっ、マカナもいたんですか」
「アハハ、荷物係だよ。ちょっと家にお邪魔するね。糸の作ったお惣菜を冷蔵庫に入れないといけないし」
お惣菜といっても、揚げた夏かぼちゃと油揚げを醤油で煮たものに、ゴーヤのピクルス。
二品とも、おじいちゃんとおばあちゃんの両方が好きな料理らしい。かぼちゃの揚げ煮は絹ちゃんも食べられると思うが、ゴーヤのピクルスのほうが……
箸休めとしては最適なのだけど、ゴーヤの苦さとピクルスの酸っぱさで癖があるので、マカナですら食べづらそうにしていた。
う〜ん、次作るときはごま油を入れたら中和できるか? それだと、味が変わり過ぎて、おじいちゃんとおばあちゃんの二人は納得してくれなそう。
う〜む……ゴーヤは奥が深い。
「こっちの袋には手作りのお菓子が入っているよ」
「いろいろとありがとうございます。おかしも糸ねぇの手づくり?」
「残念でした! アウの手作りになります」
爆速で冷蔵庫にお惣菜を入れ終えたマカナが玄関まで戻ってきた。
「えっ!? マカナが……おかし作ったの? バレーボールのほかにもできることがあるんだ……」
実はねマカナは、バレー以外で、繊細な力加減ができないだけで高スペックなんだよ。バレーに関しても、今年は県大会を優勝して、全国大会まで駒を進めたし。
「これでも全国大会に出場するチームのエースなので……いやー、作ってきたお菓子はアウの第二のふるさとの味、バター餅だよ。絹ちゃん……これでアウのことをお姉ちゃん呼びしても……いいんだよ?」
「えーー」
絹ちゃんは露骨に嫌そうな顔をマカナへする。じゃれあう二人の仲が良さそうで、なんだか私も嬉しくなってしまう。
前の私なら、マカナのことで絹ちゃんにも嫉妬していたかもしれないが、今は湧いてこない。私がマカナを信じて、マカナも私の信頼に応え続けているからね。
「マカナの他に、私とお菓子作りが得意な高校の同級生も、そのバター餅作りを手伝ってくれたから……味については大丈夫だよ」
麦島さんはお菓子作りの腕をメキメキと上達させており、その独創的な感覚で、味と見た目が華やかなお菓子を作りあげている。
キッカケは、日本式とハワイ式の二つバター餅を作り、当校の卒業生から頂いた陶器皿に上手く盛り付けできたときだろうね。
あの経験を基に、本人なりに自信がついたのだろう。それと、私にも外せなかった用事があって、ここ二ヶ月は麦島さんに同好会の活動を任せてしまっていた。
「それなら……だいじょうぶそう。マカナ、作ってくれてありがとう。たいかいもガンバってね」
「おうよ! 糸と一緒に頑張ってくるぜ」
「帰ってきたら、絹ちゃんへお土産を渡しにまた来るからね」
気付いたら……マカナと米沢さんの手によって、バレーボール部のマネージャーを臨時でさせられていることもある。
期間中、麦島さんに同好会の活動を任せてしまったのは申し訳ないが……おかげで、県予選は観客席よりも近い場所でマカナを応援できた。
さらに、バレー部から全国大会にも帯同して欲しいとお願いされ、堂々とマカナに付いていける。
「今日のところは……この辺でおいとまかな。お父様も車で待たせているし、行くための準備もしないと」
「準備しないといけものがいっぱいあるからね。試合に勝てば勝つほど、滞在する日数も増えていくし」
明日から、全国大会の会場に向けて旅立つ予定。
マカナ達が全力を尽くせるために、私もできる限りサポートをしてあげたい。
「それじゃ……ふたりとも、またね」
「またね」
手を振る絹ちゃんに、私達は手を振り返して祖父母の家を後にした。
お父様が運転する車の後部座席に並んで座る。車内は、冷房が効いているはずなのに、夏の暑さも厳しいけど……自然と、マカナと手を繋ぐ。
そのままマカナは、私の肩にもたれ掛かり、耳元に口を寄せる。私だけに聞こえるようにして——
「こんな日がいつまでも、当たり前のように続くからね」
「うん、私達は家族だもの」
今回の更新をもちまして、本作『幼馴染に愛を込めたお弁当を〜隠し味は私で絡めて〜』は最終話となります。
一度は、二ヶ月半以上も更新が途絶えてしまった本作ですが、ここまで読んで下った皆様のおかげで、最後まで書ききることができました。
もしよろしければ、感想も頂けると幸いです。
それでは、次の作品でも皆様とお会いできますように。
ありがとうございました。




