家族の初期化(リセット)
無事に断罪イベントを終えると、エルザは荷物の整理をするために公爵邸に向かった。
扉が開き、いつものように使用人たちが一列に並んでお辞儀をして迎え入れる中、その先に待ち構えていたように立つ人物にエルザは気付く。
父親のドロテア公爵と母親だ。
二人はエルザに冷ややかな視線を向けていた。
「エルザ! …何という無様な姿だ。王子殿下から聞いたぞ!聖女を虐げた挙げ句、婚約破棄されたそうだな!」
開口一番、公爵の怒声が響く。
エルザは顔色一つ変えず、データ照合と解析に入った。
[ターゲット:実父(ドロテア公爵)を検知]
[ステータス:激昂 / 投資失敗によるパニック]
[解析:私への愛情指数 0.01% / 王家との繋がりによる利益期待値 99.9%]
なるほど、と合点する。
ここにもバグが存在したとは。
エルザは無機質な声色で告げた。
「…事実関係を訂正します。虐げた事実は存在しません。今回の出来事はアルベルト王子とリアナ様による共謀の結果、私の社会的信用を失墜させるための不当な“婚約破棄”です」
「黙れ! 理由などどうでもいいのだ!お前が王妃になれなければ、我が家がこれまでお前に投資してきた教育費や社交費はどうなると思っている!? 全てが“損失”ではないか!」
アルベルト王子…以下、最適化して個体Aよりは知能指数は高いようだが、話が通じないのは同じなようだ。
激昂している父親の横で母親も扇子で口元を隠しながら、吐き捨てるように言う。
「本当に…可愛げがない子だとは思っていましたが、役に立たないのならただの“壊れた道具”と同じ。見ているだけで不快だわ」
[ログ:両親からのネガティブ・フィードバックを受信]
[判定:この家庭内における私の“存在価値”は、資産価値の喪失と共に消失したと断定]
エルザは表情も声色も何一つ変えることなく告げた。
「…承知しました。投資に対するリターンが出せないと判断されたのであれば、私はこの公爵家から離脱します」
「なんだと…?」
「北部のドロテア領。私は元よりそこへ移動します」
「ふん、あんな不毛な土地へ行くだと!? 勝手にするがいい! 二度とこの敷居を跨ぐな、この欠陥品め!」
父親が投げつけた花瓶がエルザの足元で砕け散ったが、彼女は眉一つ動かさない。
当たらないことが分かっていたからだ。
「…物理的な衝撃による交渉の終了を確認。これをもって、公爵家との全同期を解除します。…お父様、お母様。最後に一つだけアドバイスを」
エルザは扉に手をかけ、最後に一度だけ振り返る。
これを伝えるのは復讐心なのか、それとも家族だった者への情なのか。
エルザにはよく分からない。
ただ伝えないといけないと判断した。
「あなたたちが現在運用している資産運用ポートフォリオ、来月には暴落しますよ。私がお母様の代わりに行っていた修正のバックグラウンド処理が今この瞬間、すべて停止することになるのですから」
「な…なな、何を言っているの!?」
「さようなら…私のいない世界で非効率な破滅を楽しんでください」
エルザは一礼もせず屋敷を去る。
背後で「待て、どういう意味だ!」という父親の怒声と母親の「落ち着いて、あなた」と焦燥した声が聞こえたが、エルザにはもう何も関係がなかった。




