0709:加護の力
「殿下!中へお戻りください!ここは我々が!」
「僕がやったほうが早い!皆は馬車の護衛だけしていて!十秒後に魔法を発動する!全員馬車から離れないように!」
アルヴィストの王立学院までの旅は優雅なものとはかけ離れていた。
周りにいる護衛たちに襲い掛かる魔物たち。それらを倒そうと魔法を発動するアルヴィスト。
やっていることは討伐隊をやっていた時と何ら変わらなかった。
アルヴィストからすれば慣れた作業だった。護衛の人間には低威力の魔法程度であれば鎧が防いでくれる。
しかしアルヴィストの魔法はどういう訳か魔物には特別効きが良い。
その特性を利用して低威力で広範囲の魔法をあたりにまき散らす。それが魔物退治におけるアルヴィストの必勝法と言ってよかった。
もちろん、極力護衛たちを巻き込まないように操作することも忘れない。細かな魔法のコントロールができなければ護衛や彼らの乗る馬ごと攻撃に巻き込んでしまっているだろう。
しかし実際にはほとんど負傷者はいない。アルヴィストの広範囲に及ぶ魔法行使は、味方には当たらないように精密に操作されているのである。
「御見事でございます殿下。魔法の操作という部門において、殿下は既に私の教えを超えつつあるようですな」
「ジスカルにそういってもらえると自信がつくよ。とはいえ、まだ弱い魔法だからこうやって操れてるんだけどね」
「それを自覚できているというのがまた素晴らしいところでございます。あとは自らが操作しきれる魔法の出力を高めていけばいいだけの話。殿下の成長を目の当たりにできて、この老いぼれも、お恥ずかしながら感極まっております」
「もう、そんなに褒めないでよ照れるから。それにしても……こんな街の近くでも魔物が出るようになってるなんて……」
アルヴィストたちは既にいくつかの街を経由しているが、その道中でも何度か魔物に襲われていた。
街道を通っていても当然のように襲い掛かってくる魔物たち。討伐に精を出していた時と同じか、それ以上に魔物が活性化しているように感じられていた。
「弱いけど数が多かった。普通の商人たちだと対応が厳しいかもしれないね……このままだと、物流が滞る……」
「魔物の動きもそうですが、私からすれば殿下の魔法の方が気がかりですな……あの魔法……いいえ、今まで殿下が使っていたような魔法では、小型ではあれど魔物たちを殺すほどの威力は出せぬはず。しかも魔物にだけ効果が高いように感じられます。いったいどのようなことを?」
「それは……僕にもわからないんだ。どういう訳か、僕やシータの魔法や攻撃は魔物にはすごく高い効果を持ってるんだよ」
「ほう……?」
周りに魔物がいないことを確認してから馬車の中に戻っていたアルヴィストは自分の魔法が、そして自分自身が何かしらの力を得ているということは理解していた。
そしてそれが勇者にまつわることだろうという事も想像がついていた。
ただそれを説明することはできない。だからこそ、説明できないことで説明することにしていた。
「どういう理屈なのかはわからない。けど、僕とシータは、一種の神通力の効果が発動してるんじゃないかって結論付けた」
「神通力……ですか」
「うん。魔法と神通力の両方が使えるなんてのはちょっとおかしいかもだけど……僕自身その効果がどういう理屈なのかわかってない。魔法なのかどうかさえ。だから、わからないから、とりあえず神通力だという風に考えたんだ」
神通力は魔法とは理を画する力だ。どういう理屈なのか、恐らくこの世界では誰も説明できない力である。
理屈を説明できないが故に、説明できないことを説明する理由とするにはうってつけの力だった。
もっとも、アルヴィストとシータは、その体に宿る力と効果を神からの加護かなにかであると感じていた。
そう言う意味では、正しく神通力と言えるのかもわからない。
「御身にかかる不可思議な力……魔物を退ける力。それが、神通力……そしてミーザ嬢にも同様の力が」
「うん。けど実際のところはわからないんだ。確かめようにも、僕が使ってる魔法はジスカルから教えてもらったものばかりで、僕がいじったりしてるわけじゃない。改良も施してない。シータも同じだった。だから魔法じゃなくて、おかしいのは僕ら自身の方なんだと思うしかなかったんだ」
「……殿下のお体がおかしいなどと、そのようなことはおっしゃらないでください。殿下は何もおかしくございません」
「ありがとう、言い方が悪かったね。ともかく、何かしらの理由があるとしたら神通力くらいしか思いつかなかったんだ。どうしてなのかはわからないけど、それはそれで利用させてもらうさ」
魔物を倒しやすいというのは利点しかない。魔物からの攻撃を受けても基本的にダメージも負わない。
少々気持ち悪く思わないわけでもないが、それでもこの厳しい世界ではありがたい話だった。




