0701:解決方法力業
「そうだテルン、ティフのことなんだけど」
「ん?あぁ、安心しろ。俺がいる間にもっと鍛えてやるぜ?そろそろ曲射を教えてやろうと思っててな」
「あ、違う。そうじゃなくてね……」
思ったよりテルンもノリノリで教えていることに驚くべきか呆れるべきか、アルヴィストとしては少し迷うところではあったが、今はそこよりも気がかりな部分があった。
「これからオーロックス商会のところに行くことになるでしょ?大きな仕事に就くまでの間、時々でいいから、ティフの様子を見に来てくれると嬉しいんだけど……」
「なんだそんなことか。ここまで鍛えたんだ。俺が立派な狩人に育て上げてやるから安心しろって」
「狩人にしてほしくはないんだけどなぁ……」
学院から帰ってきたときに妹がテルンに勝るとも劣らない狩人になっていたらどんな顔をしたらいいのかわからない。
もう既にかなり弓が達者だというのに、これ以上弓の扱いが上手くなってしまったら一体どうなるのか想像もできないのだ。
そのうち野山を駆け回って動物を狩ってきそうで戦々恐々としてしまう。
「俺がいる間はきっちり面倒見てやる。あんまり構いすぎてるとお前の姉貴に睨まれるかもしれねえけどな」
「ティヘリエラと遊んでくれるなら文句は言わないわ。それがどんな遊びでもね」
「お、予想外。てっきり王女らしい遊びをさせろとか言うもんだと思ってた」
「そこまで言うつもりはないわ。あの子だって……今の間くらい自由にさせてあげたいじゃない」
それはメイレイン自身が長い間そうしてきたように、ティヘリエラに対しても自由でいる時間を与えてやりたいと考えているのだ。
それがいつまで続くのかは彼女自身にもわからない。しかしいつかメイレインと同じように気づくはずなのだ。
我儘が終わる時が来るのだと。
「っていうかよ、一ついいか?前々からさ、ティフの奴には双子の姉弟がいるって聞いてたんだよ。けど俺そいつに会ったことないんだけど。本当にいるのか?」
「あー……んっと……イルに関しては……」
「イルクリスは少し心を病んでるのよ。前にちょっといろいろあってね」
「病んでる?病気か?」
「……うん。前に城下町で攫われたことがあってさ。それ以来男の人が怖いみたいで、ずっと部屋に引きこもってるんだ……僕もずっと会ってないし、声も聞けてないんだ」
イルクリスが部屋に引きこもってからもう何年も経つ。女性たちとは何とか会話もできるようになってきているが、相変わらず男性と会うことはできていない。
アルヴィストがイルクリスに最後にあったのは、あの人攫いの場所から助け出した時だった。
それ以来、弟がどれくらい成長したのか、どんな声になっているのか、それすらも知ることができないのだ。
「私はたまに話に行くわ。あの子も……本当は部屋から出なきゃいけないってことはわかってるのよ。それができないだけで」
「そりゃ難儀だなぁ……俺が無理矢理外に連れ出すのはダメか?」
「絶対にやめて。あの子の心の傷を広げるだけよ」
「そうか……んー……さすがに一度も会わないのはちょっと嫌な感じだわな。仕方がないとはいえ」
「あの子の部屋の裏、庭のところに出てくれたら、一目見ることくらいはできるかもね。ものすごく怖がられるかもしれないけど」
「それもなんかいやだな……本当に男が怖くなっちまってるんだな……相当重症な感じか……」
「テルンはさ、そういう人とかは見たことない?なんかこう……解決策ってないかな?もうずっとあんな調子で可哀そうで……」
「んー……俺の場合かなり力技になるぞ?昔虫が苦手な奴がいたんだけど、そいつは虫の巣に連れて行って直した。大量の虫を体中にくっつけて泣き叫んでもそのまま放置した。結果慣れた」
「テルンに任せたら絶対にダメね。お願いだからイルクリスに近づかないで」
「なんで聞かれたこと素直に答えただけなのにこんなに拒絶されなきゃいけないんだよ。俺が一体何した?」
「何かしそうだからやめてほしかったんじゃない?そのうち男の人の中に放り投げそうで嫌だよ」
ムキムキマッチョマンのあふれる場所にイルクリスを連れていくようなものだ。トラウマがさらに深いものになりかねない。
男性を苦手としているだけかもしれない状態が間違いなく男性恐怖症にレベルアップしてしまう。
そのようなことをさせるわけにはいかない。可愛い弟をそのような目に遭わせるわけにはいかなかった。
「まぁこういうのは切っ掛けがあればなんとかなるもんだと思うぜ?確かにビビってるのは仕方ないとしてよ、ちょっと無理矢理にでも男と接触させるのが一番いいんじゃねえか?最初は偶然でもいいからよ」
テルンの言い分もわからなくはない。アルヴィストもメイレインもどうしたものかと顔を見合わせてしまう。
二人としても今の状況が良いとは思っていないだけに悩ましいところだった。




