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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十八話「進む先に何があろうとも」

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0683:遥か遠くへ行く彼女へ

「そう……ならばいいのです。ところで、城内に変わりはありませんか?」


「はい。皆変わりなく……いえ、一点だけ。シータが、およそ三カ月ほど前、西方に旅立ちました」


 シータが西方に旅立ったのは三カ月ほど前まで時間を遡る。


 長期の遠征を終え、アルヴィストたちが城に戻ってきた段階で、多くの兵士たちがその時が来たことを理解していた。


 今回の遠征はシータの足りていない知識の教育を行うためということもあってかなり長期なものになっていた。


 それこそ今まで行っていたような野営を主軸にしたものではなく、魔物が増えている地域に拠点を構えてそこから出立するような形を繰り返していたほどだ。


 その甲斐あって、多くの魔物を討伐できた。シータへの教育も多く施すことができた。


 もう、できることはすべてやった。そう思える程度には。


「良く戻った、アルヴィスト。此度の遠征は、だいぶ長引いたな」


「はい。かなり多くの魔物がいましたので、なかなか戻ることができず本当に申し訳ありません」


 全員で身なりを整えて、アルヴィストが代表してヴィルクリフ王への報告をする中で、今回の遠征が想定していたよりもずっと長期になったことに関してそれ以上触れるものは誰一人としていなかった。


 その理由がわかっているからだ。そしてそうするだけの理由があることも理解できていたからこそ、その視線が自然とここにはいない少女の方を追おうとする。


「此度の遠征にて多くの魔物を討伐したと、諸侯たちからも報告が上がっている。お前たちだけではなく、諸侯たちとも連携したと」


「はい。今後のことを考え、我々だけで倒すのではなく、その領地を任されている貴族たちにも協力していただきました。非常に助かりました」


 以前まではアルヴィストたちを中心とした部隊だけで魔物を討伐していたのだが、今回は長期遠征を最初から見越していたために、各地の貴族たちの部隊にも少し協力してもらったのだ。


 そのおかげで消耗は減らせたし、各地の貴族たちにも成果という意味で花を持たせることもできた。


 ほとんどの魔物をアルヴィストとシータが倒していたとはいえ、それでも貴族の兵士もその部隊に参加して魔物を討伐していたという事実は残る。


 各地の貴族は兵士たちが傷つかず成果だけを持ち帰ったということもあって、かなり満足げだったのを全員が覚えていた。


「今回は各諸侯に非常に助けられました。兵力だけではなく拠点や食料の提供。後日正式に礼をしたいと考えています」


「ふむ。であればそれはこちらで対応しておこう。それほどの成果であれば、こちらとしてもそれに報いなければならん」


「ありがとうございます陛下」


「もちろんお前にもだ。そしてお前と共に戦った全員にだ。我が民をよく守ってくれた。そしてよく戦ってくれた。これに報いるのは、絶対である」


 ヴィルクリフ王があえて、『兵士全員に』という言い方をしなかったことの意味をアルヴィストは理解していた。


 つまりは兵士たちだけではなく、シータにも褒賞を与えるという事だ。そしてそれを絶対であるとこの場で言い含めた。どのような背景があろうと、どのような事情があろうと、どのような手段を取ろうとそれを行うという王としての決定だ。


 これを覆せるものはこの国には存在していない。


 ヴィルクリフ王としてもシータに対して少しは思うところがあるのだろう。これから向かう先にどのような困難が待ち受けているかもわからない状態で、得られるものは多い方がいい。


 それがどのような褒美になるのかはわからない。贈り物という形ではないために金銭になる可能性もあるが、それがあるだけでかなり楽になるだろうことはよくわかる。


「アルヴィスト、少しの間休みを取りなさい。兵たちも疲れているだろう。あまり無理をさせることはない。せめて十日、休むことだ。良いな?」


「はい。お気遣いいただきありがとうございます。そのようにさせていただきます」


 十日。それが最後の猶予だ。


 十日間を使って準備をしろ。シータに対して別れを済ませろ。そう言っているのだ。


 最後の時間になるかもわからない。少なくとも西方に旅立ったら、シータとは二度と会えなくなるだろう。


 アルヴィストがこの国の王を目指す限り、シータがヒルデ協議国の再興を目指す限り、この二人が再び出会う可能性は限りなく低い。


 今生の別れ。


 そう言ってもいい程度には、再会の可能性は低い。


「陛下、一つ、よろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「…………兵たちに一言、お言葉をいただければ幸いです。褒賞だけでも十分かとは存じますが、陛下のお言葉を賜れれば、兵たちの士気も高まりましょう」


「ふむ……」


 直接王として会うのは問題だが、言葉を届けるだけならば問題はないと判断したのだろう。ヴィルクリフ王は小さくうなずいてアルヴィストに応える。


 兵たちに向けて、いや、とある少女に向けて。ヴィルクリフは今の自分の立場から出せる言葉を伝えることにした。


「これから、多くの困難が待ち受けることとなるだろう。上手くいかないこともあろう。だが、決して諦めてはならん」


 それは王として、為政者としての言葉だった。これから向かう困難に立ち向かうようにという激励の言葉だ。


「だが、辛いときには、誰かに頼ることも覚えよ。其方には、頼ることができるものがいよう。独りで成せることには限りがある。其方は一人ではない。それを肝に銘じよ」


 その言葉は、王としてではない。人としての言葉であるように感じられた。


「以上だ。しかと伝えよ」


「ありがとうございます陛下。皆、喜ぶことでしょう」


 兵たちとは言わなかったことで、ヴィルクリフ王もアルヴィストが何をしようとしているのかを察したのだろう。それ以上言葉を綴ることはなかった。


「時にアルヴィスト、あと三カ月もすれば、メイレインも王都に戻ってくるだろう。討伐隊自体の休暇は最低十日と定めたが、どうだ?その時まで長期休暇という形にしてもよいのだぞ?」


 それはヴィルクリフ王なりの気遣いのつもりだろう。メイレインが戻ってくるまで、シータが休暇と称して城内にいる討伐隊と行動を共にしてもおかしくないように。


 せめて、最後にシータとメイレインを会わせてやりたいという、ある種の親心のようなものだ。


 シータがこの国にやってきてからもう六年以上が過ぎた。それを考えれば情が湧いてしまうのも無理のない話だ。


 アルヴィストとしてもシータを出立前にメイレインに会わせてやりたいという気持ちは当然ある。

 しかしここからは彼女の気持ち次第なのだ。


 三カ月という時間は、短いようで長い。恐らくあっという間に過ぎていくだろう。三カ月もあれば徒歩であったとしてもイルス王国からエカンダ皇国へ抜け、そのさらに先まで進むことも可能だ。


 旅の行程を考えれば、時間を惜しむ可能性もある。早く西へ行きたい。少しでも早く民を救いたい。そう考えているシータに必要以上の足止めをすることは果たして良いことかどうか、怪しい部分もある。


 ここから先は、シータが判断する他ない。


「皆に確認しておきます。少なくとも、姉上がお帰りの時までは王都にて休むことも可能であると」


「うむ。他に報告すべきことはあるか?」


「一点だけ。東方の領地にてある検証をするべきかと愚考いたします」


「検証?なんのだ?」


「……ルルアラナ教の信者数と、魔物の襲撃数の調査です」


 それはアルヴィストが気づいた違和感の種だった。今回の遠征においてもいくつかの村において、熱心なルルアラナ教の信者が多い場所があった。


 そしてその場所では驚くほど魔物の襲撃による被害が少なかったのだ。


 旅の神父フーシャが関わっているところもあれば、まったく無関係、あるいはほかの村の襲撃が減ったという噂を聞いてか、ルルアラナ教の聖印を保有している者が驚くほど多い村がいくつか増えていた。


 信徒の数か、あるいは割合か、どちらにせよそれらが魔物の襲撃に影響を及ぼしているのではないかとアルヴィストは考えていた。


 それを説明すると、ヴィルクリフ王は渋い顔をする。


「なるほど……魔物の襲撃とルルアラナ教の繋がりを確認すると……アルヴィスト、お前はルルアラナ教を…………疑っておるのか?」


 疑っているという言葉を出すのにヴィルクリフ王はかなり迷ったようだった。ルルアラナ教が魔物をけしかけているとさえとられかねない発言だ。それを口にしたのはアルヴィストを信じているからに他ならない。きっと自分の息子ならばこの言葉を否定してくれるだろうと。


 だからこそ、その信頼に応えるつもりでいた。


「いいえその逆です。もしかしたら、ルルアラナ教の教えが広まることで魔物の被害を減らせるのではないかと、そのように感じたのです」


「どういうことか?」


「以前にもお話ししましたが、村人全員がルルアラナ教信者であった村に関しては、魔物の被害が驚くほど少なかったと。もしかしたら、何かしらの神通力などを発動しているのではないかと思い至りました」


「神通力というと……我らが使う魔法とは別体系の力だったな?」


「仰る通りです。神通力かどうかは判断ができませんが、何を条件にして魔物が襲わなくなるのか、それを調べることが民を守ることに繋がると愚考いたします。そのために、まずは調査し検証するべきかと」


 自分で言っていながら、非常に危険なことを口にしているという自覚がアルヴィストにはあった。


 もし魔物が襲撃をしない理由がルルアラナ教にあったとして、民の被害を減らすためにはルルアラナ教をさらに布教しなければならない。国そのものが宗教を支援する、政治と宗教が密接に関わると碌なことにならないのをアルヴィストは元居た前世の歴史から知っている。


 しかしこの世界は魔物のいる世界だ。取れる手段は何でも取らないと危険にさらされるのはそこに住む人たちである。


 背に腹は代えられない。だがまだその前段階だ。まずはその因果関係を調べる。そこまでであれば、ルルアラナ教としてもそこまで悪い顔はしないはず。むしろ自分たちの宗教のおかげで魔物の襲撃が減っていると証明できれば、それを理由に布教もしやすくなるのだから。


「わかった。ルルアラナ教の信者と魔物の襲撃に関する調査を行おう。しかしこの案件は非常に重要な判断を求められる。いったんこの件はこちらで預かる。良いな?」


「はい。よろしくお願いいたします」


 宗教的な部分に関して適当なことをやると大変なことになるのはよくわかる。アルヴィストとしてもヴィルクリフ王が動いてくれることはむしろありがたかった。


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