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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十七話「課題は多く、しかし先行きは明るく」

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0681:彼らこそ我が御敵

 和平たちが宿をとったその翌日、アルルゴウンに到着し本洗礼を終えた勇者たちはあたりを散策しているようだった。


 その足取りはアルル大橋の方に向かっているように見える。より正確に言えばその橋の架かる橋の近辺を視察しているようだった。


 国境の近辺の視察。今回本洗礼を受けるにあたり次代の王としてそのあたりもこなそうとしているのだろう。


 貴族との交流。本洗礼。国境の視察。三つの用事を一度に済ませるあたりなかなかに効率が良い。

 いや、逆に言えばそれだけ外に出てこなかったという事でもある。


 十歳の子供なのだから仕方がないのかもしれないが、一度にそれら全ての仕事をこなさなければいけないほどにいろいろと詰まっていたのだろう。


「このまま視察して終了か……なんとも悔しいな……帰り道になんか仕込んでおいたほうがいいかな」


 このまま街を観光、もとい視察して王都に戻るような形になるだろうか。それならばこの街で待っているよりもずっと、帰り道で何か仕込んでおいたほうが有意義な気がしてならなかった。


 だが、どういう訳か和平は勇者が見える位置から動こうとはしなかった。


「主殿、儂は別に構わんが、このように呆していても仕方がないのではないのか?あの小僧どもを見ていても仕方があるまい」


「まぁ、そうなんだけどさ……なんだろうな……ここにいたほうがいいような感じがするんだよ。なんていったらいいのかわからないんだけど」


 何かある。確証があるわけではないのだがこの場所にいたほうがいいと和平の中の何かが言っているのだ。


 勘が鋭い方ではないのだが、つい先日にも勇者に関する勘が働いていることもあって、この場に残ったほうがいいという考えが宿っていた。


「ワカ、必要なら偵察してくるが?」


「いや、ここにいてくれ。ここにいたほうがいいと思う。なんとなくだけど」


 ここまで抽象的というか、具体的な理屈を持たない和平も珍しかった。


 周りにいる面々もここまで説明ができない和平というものを見たことがなく、反論したいところだったがそれ以上何も言えない状態になってしまっていた。


「お前にしては珍しいな。どうしたというのだ?」


「いやなんかさ、すごいこう……もやっというか……妙というか……?俺も説明が上手くできない。何だろうな……ここにいなきゃいけないっていう感じがするんだよ」


「……ふむ……まぁ、たまにはこうしてゆっくりするのも悪くはないか」


 屋根の上でのんびり過ごしながらアルル大橋を眺めるというのもなかなか悪いものではない。


 今までずっと動きっぱなしだったからこういう日があってもいいだろうと、トゥーは和平の横に座り込んだ。


「ん?若様、あれを」


「あ?なんかあったか?」


「いえ……例の勇者が鳥に攫われました」


「……はぁ!?鳥?え?鳥!?」


 遠くから眺めていたために少し視線を外していた和平を他所に、それが起きた。


 巨大な鳥が勇者の小柄な体を掴んで飛び上がったのだ。


 一体何が起きたのか。和平にもさっぱりわからない。


 確かに橋の方を見ると、上空に飛び上がっている鳥と、その鳥に掴まれている小柄な人影が見える。


「うわ、マジだ。え?何がどうなってんの?」


「あれは若様の手引きではないのですか?」


「違う違う違う。あんなおっかないの触ろうとすら思わん。偶然か……?いや……偶然じゃないな」


 和平は橋のちょうど真ん中あたり。その方向に視線を向ける。


 そこに感じた違和感。いや、妙な感覚の正体をようやく理解した。


 虫たちを操り、その人物の正体を、本性を把握したのは一体どれくらい前のことだっただろうか。


 その人物が橋の上にいるのだ。


「俺以外にあぁ言う事をやるとしたら、敵じゃない奴らなんだろうな」


「というと……奴らの味方か?」


「味方っていう表現が正しいかどうかはわからないけどな。まだ会ったこともない奴らだろうから、敵になる可能性もまだまだある……けど……」


 和平は橋の奥の方、エカンダ皇国側にいるその存在を感じ取って冷や汗を垂らす。


 なぜ自分がこの場に残ろうと感じたのか、その答えがそこにいた。


「マジか……マジか……!?嘘だろ……?」


「どうしたワカ……?血の気が引いているぞ?」


 今まで和平のこんな表情は見たことがなかった。動揺よりも驚愕の方が勝っている。恐怖よりも困惑の方が勝っている。


 これは本当に偶然ではない。誰かがこの絵図を描いたのだ。それが誰なのか、和平の中ではすでに答えが出ていた。


「エカンダ皇国の勇者か……おっそろしいことしやがって……」


「どうかしたのか?何があった」


「ここに……勇者が三人そろってる」


 橋の向こう側からやってくるもう一人の人物。それはヒルデ協議国で見つけたもう一人の勇者だった。


 イルス王国。エカンダ皇国。ヒルデ協議国。この三つの国にいた勇者がこのアルル大橋に集まったことになる。


「三人の、勇者」


 距離があるとわかっていても、クーランは和平と勇者の間に立たずにはいられなかった。どのような状況であろうとどのような相手であろうと和平を守らなければならない。それこそがクーランの目的であるが故に。


 トゥーは和平の横に控えながら橋の上に揃おうとしている三人の姿を確認しようとしていた。


 三人の子供。まだ小さな体がそこにはある。大橋の上にいる三人の子供の姿を見つけ、トゥーは目を細める。


 あれが和平の敵。あれが勇者。


 トゥーはその姿を脳に焼き付けるべく上から下まですべて観察していた。それがいずれ必要になるだろうという確信があった。


 勇者を中心に人が集まってくる。護衛か何かだろうか。そしてその後、勇者たちは橋の隅の方へ移動し、川が見える場所へとやってきた。


 そこで、三人目が合流していた。


 丁度和平もよく見える形で三人が揃った。


 この世界における三人の勇者。


 和平は、何を思うわけでもなかった。


 体の奥から湧き上がるものがある。それは和平の思う楽しいという感情ではない。


 ようやく対戦相手に会うことができたという歓喜でもなく、強敵に出会えたことによる高揚でもない。


 あれを殺さなければいけないという、強迫観念にも似た殺意だ。


「そうか……この野郎……」


 和平は自分の体、胸の部分を押さえて苦笑する。


 勇者が近くにいる時に、どういう訳か和平が今まで持ち合わせていなかった妙な感覚が働いたり、このような不合理な抱きたくもない殺意を抱く理由に、和平はようやく気付くことができていた。


 魔王の権能。


 それは魔王の力の象徴でもある。いくらコピーとはいえ、和平の体に、魂に馴染んだその力。魔王の体から抽出された力の一部。


 その一部は和平の影響を受け最適になるような形でほんの僅かに変質していた。そして変質したが故に、和平との親和性が高くなったが故に、和平本体にも影響を及ぼすようになっているのだ。


 それはつまり、勇者への恐怖と、勇者への恨みと、勇者への殺意。


 何万回と勇者のせいで死んだ魔王の記憶と経験がそうさせるのだろう。勇者と関係のない和平にも影響を与えるほどに、魔王の抱く勇者への感情は大きいのだ。


 和平は大きく深呼吸をする。自分の体に、心に言い聞かせるように、魔王の力に諭すように心を落ち着ける。


「あれは勇者……魔王の敵。だけど、敵だけど、恨みはしない。殺したいわけでもない。この世界での、対戦相手」


「若様?大丈夫ですか?」


「ワカ、どうした?」


 胸元を押さえて何かを呟く和平の様子に、二人は困惑していた。


 勇者と邂逅したことで何かしらの影響があったとみるのが妥当だ。そしてその推察は当たっている。


 しかし和平は徐々に落ち着きつつあった。


「大丈夫。大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけだ」


 自分の中にある得体の知れない感情に動揺したくらいで、和平の肉体には何の変調もない。


 深呼吸を繰り返し、和平は自分の中でのたうち回る感情の源泉を理解した。


 自分は魔王の代行。魔王の力を有していても、魔王ではない。魔王になる必要はないのだ。魔王が抱く殺意や恨みを代行するつもりは毛頭ない。魔王そのものになるつもりだってありはしない。


 恐怖を覚えるなとは言わない。恐怖もまた必要な感情だ。


 恨みを抱くなとは言わない。恨みもまた必要な原動力だ。


 殺意を向けるなとは言わない。殺意もまた必要な動機だ。


 しかし過剰にそれらを持てば足かせとなる。


 過剰な恐怖は思考を一極化させる。


 過剰な恨みは行動を極端にさせる。


 過剰な殺意は作戦を単調にさせる。


 それ程に大きな感情はいらない。和平はそれらの感情をすべて巻き込んで、自身の中に収めていく。


 楽しい。


 この世界に来て楽しいという感情はより表に出た。元居た世界では決して本当の意味で表に出すことのできなかった和平の中の悪意に歪んだその感情は、この世界にやってきてようやく開花した。


 多くの人間を貶め、多くの人間の悲鳴と慟哭を聞いて、破滅に導くことが楽しくて仕方がない。


 その中に、恐怖も憎悪も殺意もないとは言わない。しかしそれが目的ではないのだ。


 この世界を滅ぼす。和平が最初に決めた、最初の目的。


 この世界の秩序全てを作り替える。そのために、邪魔な存在があの勇者たちだ。


 悪意の権化。


 そう称する他ない和平の本質は、未だ濁ることはない。むしろより純粋に、澄んだものになっている。


 和平は、笑う。


 アルル大橋の上に並んでいる三人の子供。三人の勇者。


 三人を見据えて、笑う。


「あいつらは『俺』の敵だ」


 この世界における和平の敵。魔王ではない、和平自身があの三人を『敵』と認識した。


 勇者と魔王代行。この世界の命運を決める人間たちはこの日、この場所で相対した。


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― 新着の感想 ―
あの勇者が一堂に会するシーンの裏で魔王代行まで近くにいたとは。 エカンダ勇者君、ヒルデ勇者ちゃん、君らの国がボロクソになった原因が近くで見てますよ!
いいですね~それでこそこの作品の主人公! こういう話は大好物です。
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