0673:たまには魔王らしく
「よしよし、沈静化は成功した。いやぁ今あいつはものすごく落ち着いてるよ。心穏やかになってるだろうよ」
「あれだけ叫んでいたのが嘘のようですね。あれも寄生虫の効果ですか?」
「そうそう。脳内で落ち着く物質を出してやった。いわゆるリラックスしてる時に出るやつ。それのおかげであら不思議。さっきまで泣きわめいていたあの子もぐっすり眠る一歩手前だ」
先ほどまでの絶叫と涙が嘘のように安心しきった顔をしている巨人を見てクーランは感心してしまう。
あれだけ大きな生き物にも効果があるのだ。きっとそれ以外の生き物に対しては絶大な効果を及ぼすのだろう。
「寄生虫の効果も大きいとは思いますが、あれほど大きさのものでも効果があるのなら、人に対しても効果があるのではないでしょうか?」
「んー……たぶん効果はあるんだと思うんだけど……人によってめっちゃかかりやすさが違うんだよなぁ。たぶん人間ならではだと思うんだけどさ、なんていうのか、効果にむらがあるんだよな。あいつみたいにあっさりかかってくれない」
「人間ならでは……意識や知性の有無が何かしらの意味を持っているという事でしょうか?」
「わからないんだよなぁ。ただ誰かと一緒にいる時よりも一人でいる時の方がかかりやすい感じがする……」
「孤独である方が寄生虫の効果を受けやすいという事ですか」
「孤独か……寄生虫にかかるときはね、誰にも邪魔されず、自由で、何というか、救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで……豊かで……」
「どうしたんですか若様?」
「…………いや、何でもない……そっか、みんなはこういう小ネタまでは拾いきれないか……ごめんごめん」
「申し訳ありません。若様の知識を基本的には与えられているものの、すべてではないのです……」
「オーナーの能力も万能じゃないってことか。まぁそれは仕方がないとしよう。実際俺の知識だって結構雑な部分があるしな」
ホムンクルスたちの知識は基本的に和平のものをベースにして与えられている。
魔王が和平の記憶を読み取ってそれらをホムンクルスたちに与えているのだ。
そのため和平が得ている知識が前提であるために、和平が知らない知識に関しては知らないことが多い。
だが今回のように和平が知っている知識をホムンクルスが知らないということもあり得る。
単純に魔王が記憶を読み損ねているというのもあり得る話だ。何せ与えなくても問題ないようなどうでもいい記憶と知識が元になっているのだから。
「しかし人間に効きにくいとなると使いにくいですね。若様的にはもっと人間を扇動できた方が楽になるでしょうが……」
「人間には長生きしてほしいからその方がありがたいんだけどな……寄生虫使うとどんどん情緒不安定になっていってダメになるんだよ」
寄生虫は脳内で特定の物質を分泌して影響を与えるが、生きるために多少脳に損傷を与える可能性もある。
そのため人間の感情を司る部分に多大な影響を与えてしまい、情緒不安定で精神的に危険な人間が出来上がる。
一人二人ならばまだいいのだが、それが十人二十人、さらにそれが増えるとなると暴動や騒動になりかねない。
扇動をするにもある程度落ち着いて行動してくれないことには大規模な移動などは危険なことになりかねない。
パンデミックとパニックを繰り返すようなことがあれば人間などあっという間に死んでしまうだろう。
人類の寿命は長くあってほしい和平からすれば、人間に寄生虫を植え付けるというのは少々抵抗感があった。
もちろん数人程度に植え付けるのは良いのだが、人間を操るには少々レベルが低い。特定の行動だけを繰り返す麻薬中毒者のようになるだけだ。
「寄生虫でうまく操れるのは動物や魔物が限度という事ですね。人間相手にはやはり難しいですか」
「やっぱ感情ぐちゃぐちゃな人間は無茶苦茶な行動とりやすいからな。突拍子がないっていうか、支離滅裂というか……操りにくいんだ」
特定の場所に向かうように調整しようとしても、不思議と全く別の場所に行ったり、いきなり喧嘩しだしたりと、まったく思った通りの行動をとってくれないのだ。
それに比べてあの亜巨人の楽なこと楽なこと。
思ったようにおとなしくなってくれるし、思った通りに動かすこともしやすいかもしれない。
このくらいのレベルの魔物が一番楽なのかもしれないと、和平は寄生虫を動かしながら亜巨人を移動させていく。
「さあ行け。行くのだ。街一つくらい滅ぼしてみせろ」
こうして魔物を操っている様はまさに魔王のように見える。しかしなんとも面倒な手段だなと情けなくなってくる。
亜巨人は寄生虫の導きに従って移動を始める。今いる場所から南東の方向へとふらふらと移動を始めていた。
その方向にはそれなりに大きな街があるはずだ。
その町一つに大きな被害を与えられればいいなと、和平は楽しみにしていた。
まさかそれが思わぬ結果をもたらすことになるなどと、この時和平は想像すらしていなかった。




