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しょっぱい能力で滅ぼせ異世界  作者: 池金啓太
十七話「課題は多く、しかし先行きは明るく」

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0667:自分を信じられる者

「若様、ここは?」


 和平たちは人手を求めてとある場所を訪れていた。その場所は見る者が見れば顔をそむける汚濁と嫌悪にまみれる場所でもある。


「スラム街だな。大きな街には大抵こういうところがあるもんだ」


 イルス王国の町は比較的安定した治安を保っているものの、その治世も完璧なものとは言えない。


 王政を絶対としているイルス王国の中にも当然権力の階層が存在しており、権力を有する者ほど豊かな生活を、持っていないほどに貧しい生活を強いられる。


 農民などはその最たるものだ。日々農業に勤しみ、日々を僅かなたくわえを作ることに費やし、そして税と称してそのほとんどを持っていかれる。


 そんな生活に嫌気がさし、町での成功を夢見て飛び出す若者は多い。


 そして町にやってきても何を成すこともできずスラムに身を寄せ、その日暮らしの生活を送るものが大半だ。


「たくさんある農村からやってきて、町ならまっとうな仕事があると信じて、自分にはそれができると思い込んで出てきた連中、あるいはこの街っていう仕組みの中に入ることができなかった、弾かれた奴らがこういうところにはいる。俺らからすればもってこいだ」


「……こう言っては何ですが……彼らはもっと別のところに行けば、真っ当に働くことができるのではないでしょうか?それこそ、農業などいくらでも人手が欲しいと思うのですが……」


「やる仕事と、やりたい仕事ってのはなかなかマッチしないもんだ。特にこういう場所にいる連中は、自分の力を正しく認識できていないやつらが多い。いや、正確には、認識できていなかった……っていったほうが正しいか」


 自分は村の者とは違う。ただ田畑を耕すだけの日々を送るような人間ではない。自分にはきっと何かができるはずなのだと自分の可能性を信じて飛び出した彼らの行く末に、彩られた成功の光は約束されていない。


 どこまでいっても凡人にすぎない者たちが、自らの力を過信した故に躓き、立つこともできずに泥沼にはまっていくのだ。


「どういう訳か、自分の力を過信してる奴ほどプライドが高くてな。自分が捨てた村とかそういう、まだ自分を迎え入れてくれる場所に戻りたがらないんだ。まだ自分は本気を出していないだけ、まだ運が巡って来てないだけって言い訳しながら、ズルズル後に引けなくなっていく」


 こんなはずではなかった。一度の失敗で自らに見切りをつけて早々に自らが育った村に戻ることができるような、そんな恥知らずな人間であればまだよかった。


 下手に自分の行動を省みて自尊心を刺激され、生まれ育った村に戻ることもできず、かといって新しい可能性を見出すことも、自らの力を正しく認識することもできずに自分はこんなものではないと言い訳をし続けるものがどれほどいるか。


 そういった光景は、町が大きければ大きいほどによく見える。


「綺麗なものとか、有名なものとか、凄い人を見て、自分もあぁなれるって、どういう訳かそういう人種は勘違いするんだ。そこにある過程とか苦労とかそういうの全部見ないで、綺麗な部分だけ見ようとする。そういう奴ほど成功者の積み上げた見えない努力の足元の段階で躓くんだよ」


 美しく大きく力強い街並みを見て、自分もその一部になれるのだと勘違いし、ただ綺麗に見えているものだけにあこがれた者たちが、美しさや大きさや力強さに打ちのめされて転がる路傍がある。


 彩られた美しい宝石にも、すべてを支える大きな土台にも、ありとあらゆるものに通じる力強い要石にもなれなかったただの石ころ。


「若様はそういった者たちはお嫌いですか?」


「いいや?夢を見て挑んで負ける。そういうことができるやつってのは貴重だ。良くも悪くもバカっていうのかね。俺の周りには変に賢い奴ばっかりだったから、そういうやつはいなくてな」


 和平はスラムの向こう側でうずくまっている者たちを見て少しだけ目を細めていた。


「バカなのは、悪口なのでは?」


「んー……俺的には悪口ではないんだよなぁ。自分の可能性を信じることができるのってさ、結構すごいことなんだよ。少なくともちょっとバカ程度じゃできない。本物の馬鹿じゃないとできない」


「…………やっぱり悪口では?」


「違うんだって。なんていうのかな……信じることができるっていうのは思い込むことができるってことだ。賢い奴は自分を客観的に見てできるかできないかを頭で判断するだろ?でもそういうバカは本気でそう思えるんだ。同じ人類なのに、それができる。できるはずないのに。それってすごくないか?」


「………………悪口……では?」


「違うんだって!なんていえばいいのかな……!こう……!賢くないが故に、突き進むことができる!自分の可能性に全部をかけて行動できるやつっていうのは、凄い奴なんだよ!能力が伴っていないだけで!」


 やっぱり悪口のように聞こえる和平の言だが、本人曰く自分の可能性を信じることができるものは別の才能があるのだとか。


 バカは才能。


 そういわれても悪口に聞こえるのは仕方のないことだろう。


 実際に悪口のように聞こえる、というか実際悪口を言っているようなものなのだ。

 バカという言葉を良い意味で聞こえるものは少ない。


 たとえそれが良い意味だったとしても、聞いている者からすればシンプルに悪口に聞こえてしまうだろう。


 バカという単語そのものが罵倒なのだからそれも無理のない話ではある。


「人間さ、どんな社会で生きてたって他人と比べられるだろ?良くも悪くも他人との衝突もあってさ、優劣が生まれてさ、その中で自分の能力が優れてるかどうかを比較するわけじゃん?その中でさ、こういうところに出てくる奴って、不思議と別に優れてるわけじゃないんだよ」


 それは人間社会の不思議とでも言うべきか。他の人間と比べて自分の能力が優れているのであれば自惚れるのも理解できる。


 しかしこういうところにやってきて、なおかつこういうところにい続ける者たちは、どういう訳かそこまで能力が高くないのにもかかわらず自尊心だけは高いという特殊な人間ばかりなのだ。


 しかしこういうところで生きることができるというところもあって決して能力がないわけではない。


 器用貧乏とでもいえばいいのか、万能とまではいかない中途半端な彼らはどこまで行っても中途半端な道を進み続けるのだ。


「自分が周りと比べて優れてるわけでもなくて、実績があるわけでもなくて、誰か仲間がいるわけでもなくて、それでも自分はまだやれるって思える連中なんだよ」


「……それは……偏にバカなのでは?」


「そうなんだよ!ふつうそこまで言ったらもうわかるだろ!?どん詰まりのどん詰まり。何をやってもダメで、うまくいった試しなんてないのにまだ気づけないんだ。そんなの才能だろ。普通気づくことを見ないで自分の見たいものだけを妄信できるんだ」


 妄信というものは言い方を変えれば視野狭窄で思い込みが激しいということもできる。妄信自体がそもそもあまり良い意味とは言えないが、和平にとってはここにいるものたちはある程度の評価をできる者たちだ。


 少なくともただ自分のやるべきことをこなす奴隷一歩手前の生活を送っている者よりもよほど評価できる。


「ではそういうものを集めると?」


「あぁ。まだ俺は終わってない。まだ俺はここから這い上がれる。そういうやつを見つけるつもりだ。無能な働き者でも使い方によっては一流になれるってところを見せてやる」


 軍隊では殺すしかないとまで言われる存在を一流にするなど和平にも無理だと思えるのだが、当の本人はうきうきした様子でスラム街に入っていく。


 ゴミと汚物と虫やネズミがあふれているその空間を和平は一切ためらうことなく突き進んでいく。


 そこにうずくまっている浮浪者たちは死んだ瞳をしている者も多く、人生に絶望している中年以上、むしろ初老程度といったものたちが多い。


 もはやどこに行くこともできない、このままこの路地裏で死ぬのを待つばかり。そんなものたちを傍目に和平は何人かの男たちを見つける。


 まだ若い。だが随分と痩せ細っている。


 満足に食事ができていないのだろうその体は筋肉も少なくなっており、まともに動くこともできなくなりつつあるようだった。


 しかしそれでも周りにいる初老の者たちよりはマシな体格をしている。


「クーラン、そいつとそいつ、あとそこのやつ」


「承知しました」


 その目を見た和平は迷うことなくその男たちをクーランに連れてこさせる。いきなり腕を掴まれ引きずられ始めた男たちは、当然驚いて抗議を始めていた。


「な、何だお前!や、やめろ!離せ!」


「んーと……?よしよし、お前俺より弱くなってるな。十分だ。ほいっと」


 和平はその男の頭に触れると魔物化の能力を発動する。


 年齢的には十代後半から二十代前半といったところだろうか。なんでこんなに若い人間がここまで痩せ細るほどにこの路地裏にいるのか理解が及ばない。


 しかし和平からすればどうでもいい話だ。都合のいい手駒になってもらえるのであればこれほど助かる話はない。


 和平に魔物化されてしまうほどに弱っている男は、魔物化が終わるとすぐに大人しくなっていた。


「そっちの奴も、ほい。ほいっと」


 合計で三人の男を魔物化した和平は、三人の様子を見て頷く。


 この世界で人間は山ほど魔物化してきた。だがそのほとんどが赤ん坊や子供、もう動けないような状態の老人だった。


 ここまで年齢的に若い人物を魔物化できたのは実は初めてなのではないかと少し感動すら覚えている。


 そして魔物化をする際に、その人物の能力や特性についても大まかにわかるのだが、これがびっくりするほどに平凡だ。


 何か特別な才能があるわけでもなく、何か特殊な能力があるわけでもなく、ただただ平凡で並の能力しか持ち合わせていない。


 いや、もしかしたら並み以下かもしれない。


 どういう訳でこんなところにいるのか不思議だった。


「よしよし、お前ら、名前は?」


「……アンジェロです」


「ジェリドゥです」


「トロンです」


 三人の名前を聞いたところで、和平はひとまずこの三人の身の上を聞くことにしていた。


 魔物化しているとはいっても人格などは一切操作していない。肉体的な部分の操作といえば、燃費を良くして長時間動けるようにしたくらいの内容だ。


 彼らの話を聞くのがまず第一。


 ここで魔物にしたものたちがどのような考えを持ってここにいたのか。先ほどの目の光の強さを和平は見逃さなかった。


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なるほどねアン、ドゥ、トロワか
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