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01.君と私の関係〈前編〉

 

「っ下りて来い!!」


 下から煩い声が聞こえる。

 せっかくいい気分で寝てたのにと不機嫌な顔を隠しもせず下を覗けば、案の定居た。自分と同じ学年を表す青で縁取られた校章。それを胸に縫い付けたローブを纏った少年が、仁王立ちになって目を吊り上げている。


「聞いているのか!?


 ―――――レティーセルナ=クライヴっ!!」


 此方に指を差し叫んでくる。面倒になって顔を引っ込めれば、一層煩くなった。


 だがそれも授業開始のチャイムが鳴れば、慌てて聞き慣れた捨て台詞を吐いて去っていく。その後ろ姿を屋根の上からそろりと顔を出して眺めた。


 グレイス=ファンド・アルデ・フィー。


 それが、彼の名前。

 私と同じクレメンタイン学園魔術学部3年生で、魔術を得意としたフィーの名を受け継ぐ家の一つファンド家の子供だ。そして、入学時から私が学年1位、グレイが学年2位と順位が変わった事がない。

 その所為なのか私に事ある毎に絡んでは戦えだの、勝負しろだの、挙句の果てには授業に出ろだのと人を睨みつけてばかりだ。


 ただ、他の人の評価は違うらしい。優等生に相応しい振る舞いで、誰に対しても優しく、容姿も良く、非常に有望株というのが友人から聞いたグレイの話だ。正直この話を聞いた時、一体誰の話をしているのか分からず、それ誰の事?と聞いた事さえあるほどだ。


 ぼんやりと物思いに耽っていれば、眺めていた筈の後ろ姿はもうないことに気づいて体をもとに戻す。


 授業、か。


 グレイが走り去った先、魔術具建屋の向こうのガラス窓で輝く建物が魔術学部の教室塔。そこでみんなが授業を受けている。

 元々学園には魔術、武術、普通の3つの学部があって、入学時に何処に入るか選ぶ。途中、編入も出来なくはないけれど、それを行う人は極僅かで大抵の者が退学なり卒業までそこで過ごすのが一般だったりする。


 そして、学園に入学して始めの2年間を初等部、次の2年間を中等部、最後の2年間を高等部と3つに分けて呼ばれ、その学ぶ内容も名に準じて高度さを増していく。ただ、身分関係なく入れるといったこともあって、学ぶスピードも、予め備えた知識も異なる子に同じ授業をするわけにはいかない。

 その為、始めの授業でクラス分けが行われる。ここで分けられたクラスは、多少変動はあれど基本的には6年間同じメンバーで過ごすのだ。


 が、


 学園に来て早3年目になるけれど、その一度たりとも私は授業の為に教室にいったことがない。



『そういえば、あの(・・)……』

『……かしら?』

『あはは………俺ら(・・)と違って……』

『しかも、妹の方は……』

『くすくすくす』



「……くだらない」


 授業なんて受けなくったて、いい。どうせ知ってることしかないし。

 それに別にサボっているわけではなく複数の授業を並行して取ることが可能なように、担当の教師から授業課程を習得済みと認められた生徒は実技を除いた授業免除制度というものがある。魔術学部の授業は全部取った上で全て授業免除されているし実技もちゃんと出てる。


 そう、私は悪いことはなにもしてなんかない。


 それなのに普段なら気にも留めないことなのに妙にささくれ立った気分になるのは、ここ数日の環境の変化の所為なのか。


 この学園では原則、中等部から卒業まで寮に入って学園で過ごすという決まりがある。勿論、家が遠く通えない人は初等部から寮を使っているがそれはほとんど稀で、基本的には中等部から寮に入る。

 別に寝る場所が変わっただけで寝れない程、打たれ弱くはないつもりだったけれど、ここ最近顔すら合わせていない片割れと離れた事が私が思っている以上に辛かったのだろうか。


「…セ、レセ」


 気付けばうとうととまどろんでいた私の体が揺すられる感覚にはっと目を開けると、見慣れた姿が目に飛び込んできた。顔の作りは瓜二つなのに自分とは違って、お母様から受け継いだ金色に輝く髪に、お父様から受け継いだ緑玉を嵌め込んだような瞳。


「ルセ?」


 私の双子の兄でクライヴ家の二男、ルディーセキア=クライヴ・アルデ・ルーンだ。

 私たち双子はアルカドス国の光の守護家とさえ呼ばれるクライヴ家に生まれた。クライヴ家という家はどんな理由があるのかは分からないけれど天才、鬼才と呼ばれる人間が生まれる少し変わった家系で、例に洩れず私やルセも才能に恵まれているらしい。事実、学園では私は魔術学部で、ルセは武術学部で互いに学年一位をキープしている。


 そんな私たちだが、双子だというのに見た目が違えば性格も違うわけで。


「…なんだよ、じっとこっち見て」


 ただ双子であったとしても、私は私で、ルセはルセであることに変わりはなく、同じものではないのだからある意味よかったのかも知れない。ルセがこのことをどう思ってるかは知らないけれど、私は案外この関係を気に入っているのだ。


 でも、波打つ自分の髪とは違って真っ直ぐなルセの髪が偶に羨ましくなるのは、女の子として仕方がないことだと思うの。


「…そのキューティクルな髪はずるい」

「はぁ?何言ってんだよ……ほら、行くよ」


 ため息混じりに差し伸べられた手に反射的に掴まり体を起こしたが、何故起こされたのかわからない。

 何でといいたげに小首を傾げていると、やっぱり話聞いてなかったかと深く溜め息をつかれた。


「授業だよ、ほっといたらどうせ来ないからって先生に呼ぶように頼まれたんだよ」

「別に授業なんて殆ど出てないし、出なくたっていいじゃん」


 既に4年生までの筆記及び一部実技の授業免除を自分は当然、ルセも貰っているのだ。それなのに、どうやら授業を律義に受けているらしい。

 わかっていることに時間を取られるのって無駄だ。必要のない事をするのは効率が悪いし、それよりも図書館に行って文献の一つでも頭に入れるほうがよっぽど為になる。だから、授業に出る必要なんてない。

 それに……。いや、それはいいや。


「今日は筆記じゃなくて、特別に合同授業!これは出ろって言われただろ」

「えー?今日の2限目は筆記で授業免除な筈だよ」

「あーもう!合同授業の時間割合わせる為にそっちの筆記が実技になったんだよ!全員参加必須なのに首席がいないっておかしいだろ」


 首席だからいなきゃいけないとは思わないけど。

 そもそもそんな話聞いたっけと首を傾げていると、お前ねえとルセが呆きれたように首を振る。


「始業式で言ってただろう」

「寝てたもん」

「おい…」


 低い声で唸るルセの話を右から左に適当に聞き流しながら、実技なら仕方ないかと教練場へと足を運んだ。


「はぁ…先生連れて来ました」


 そう言って腰を折るルセの視線の先には、幼げな顔にツインテールとは似合わない剣を佩いた小さな少女と、纏うローブさえなければ剣士と見紛う程度にはがたいの良い長身の青年がいた。


「ルセ、御苦労様~」


 メラシー先生がひらひら手を振っている。その横でシリウス先生がいつもと変わらない厳しい顔で此方を見ていた。


 メラシー=カルーラ・アルデ・ミュー。

 シリウス=ツィンク・アルデ・フィー。


 二人とも学園の剣術と魔術の教師でありながら、剣術を得意としたミューの名を受け継ぐ家の一つカルーラ家と、魔術を得意としたフィーの名を受け継ぐ家の一つツィンク家の長女長男という立場でもある。

 また、カルーラ家とツィンク家は剣術、魔術の総本山的な家元でミューやフィーの本家とも呼ばれる。


 グレイもフィーの一員だが、ツィンク家はファンド家からして本家に当たるため、シリウスとグレイの関係は親戚というよりも主従や師弟に近いものかもしれないが詳しくは知らない。

 というのは、学園に通う前に私はツィンク家に、ルセはカルーラ家に魔術、剣術を教わりに通ったことがある。その時、シリウス先生とも会ったのだけれど、グレイとは会ったことはなかったのだ。


 フィーに名を連ねる家の子供で優秀な子たちは、ツィンク家でそれ相当の教育を受けるらしい。入学当時から学年2位をキープしているグレイは当然フィーの中でも優秀だと評価されていそうなのに、見かけたことすらなかった。

 なので、シリウス先生とグレイの関係や、本家と分家の関係性がどうなっているのかというのはわからなかったりする。


「(別に、知る必要なんてない筈なのに)」


 二人の関係がどうであったとしても私には関係のない訳で、そもそもグレイは私の事が嫌いで、ライバル視されてて、煩くて…


 でも、もやもやとするのはなんでだろう


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