第二十八話 オナ中
別にオナ◯ー中毒ではないぞ。
田舎町本郷中学からは五〇人近い生徒が池野高校に来ている。
だから、そいつらが集まってグループを作るのが定番。
北中も東中もそれは同じ。
もちろん池野中学も大野中学もそうなる。
そのうちそれが派閥になる。
それがいいとも悪いとも思わないが、私の机を中心に人が集まるのはなぜだ?
私が派閥を作っているみたいじゃないか。
断じて違うぞ。
「メグた〜ん、あんこ来た?」
「うん、これー」
メグは、風呂敷に包んだタッパーを持ち上げた。
「おおお〜、これでアンパンができるのだ。」
私は、嬉しくて風呂敷を高く掲げた。
「おおげさねえ」
「いやいや菓子慶まんじゅうのあんここそ至高!この世の文化だよ。」
「言い過ぎだって、ふつうのあんこだよ。」
「私はコレ以上のあんこを知らないもの。」
「そりゃまあ田舎町にはおまんじゅう屋さんはうちだけだもの。」
「そう言うもんじゃないんだけど…」
私は、中京市でもおまんじゅうは一杯食べてる。その中でもいちばんは菓子慶まんじゅうだとおもっている。
「他府県に向けても、この菓子慶まんじゅうはアピールすべきだと思うし、ぜったいに買いに来ると思う。」
「そうかな?」
「そうだよ、メグたんの時代になったら、きっと売り出そうね。」
はるかな未来ではない現実を、私は見据えている。
これも計画のうちだ。
「あら朽木さん、おはよう。」
「あ、岡崎敬子さんだ、おはようございます。」
後頭部でまとめた髪は、ポニテなんだけど先端がマキマキで縦ロールになってる。
毎日アレは、時間がかかるだろうな。
「そんなに丁寧なご挨拶は不要でしたてよ。」
「いやいや東洋あられ本社のご令嬢に無礼はできませんよ。」
「あれはお祖父様の会社ですわよ。」
オジイサマときたか。
「立派なお祖父様で、うらやましいですわ。」
敬子は、ちょっと困ったような顔をした。
池野中学の派閥は、この岡崎敬子を中心に集まっている。
小さなグループの頂点になるのだろうか。
「そう言うのは、私あまり好きではありませんわ。」
高校一年生にして、この貫禄はどうだろう?
「そう?じゃあざっくばらんに行くことにする。」
「そうお願いできたら。」
「そうだね、でも・池野界隈では東洋あられに勤めているのは、池野町の人口の二割くらいになるんじゃない?工場は五カ所もあるし、やっぱりお嬢さまじゃないか?」
「ん〜」
「ま、それはいいさ、今朝はこのあんこが楽しみだったんだ。」
「あんこ?」
「ある意味、アラレとは対極に位置するものだな。」
「そうねえ。」
「菓子慶まんじゅうは、この地区を代表する文化だと思うよ。」
「東洋あられよりも?」
「対極だと言ったじゃん。東洋あられは、池野界隈を代表する文化だよ。」
「そうだとうれしいわ。」
東洋あられは、山間部にも三箇所に工場を持っている。
手広くやっているが、経営が健全かどうかはよくわからない。うわさでは負債が六百億円を超えると言われている。
遣りての初代が死んだらヤバいってのも、もっぱらの噂だ。
岡崎敬子が生きている間に没落劇があったらたまらんな。
まあ、彼女は悪役令嬢ではないので、そのへんで喜ぶやつはいないと思うが。
いないといいなあ。
わりと好きなんだよ、この子。
「そう言えば、その縦ロールは毎朝やってるの?」
「これ?私はあまり好きではないんですけど、母がどうしてもと言ってきかないんです。」
「ははあ、奥様は憧れていたと…」
「それならご自分でなさればよろしいのよ。」
「そりゃそーだ。」
「あ・予鈴だわ、それではまた、朽木さん。」
「…サヨでいいよ。」
「では私も、敬子で。」
「じゃあね、メグた〜んありがとう。」
「まいど。」
「あら、購入なさったの?」
「さすがにあんこが二キロでは、ただっちゅうわけにはいかんですよ。」
「まあ」
「あとで振り込んどくね。」
「りょうかい。」
池野中学っつっても、一枚岩じゃあないらしいから、足元すくわれるんじゃねえよ。
日頃から用心してないと、牙城が崩れるのは一瞬だからな。
こんど東洋あられも買い込んでおこう。
どうせロンは、なんでも食うからな。
知らない食感だと言って喜びそうだ。
私も好きだけど、むざぼり食うほどじゃない。
そこそこ、お茶のお供に二〜三枚あれば十分だけど。
海苔巻きは美味しいよね。
みりんも効いててさ。
ひょっとして、あのレシピは特許かもしれない。
とりあえず、私のSNSに載せておこう。
菓子慶まんじゅうも忘れるなよ。
先日のパンつくり教室もアップしておいた。
けっこう反響はあったね。
JCの作ったパンとかウケるかなあと思ったけど、思いのほかのびた。
顔だしNGだから、口から下しかでてないけどね。
メグたんの風呂敷を持って教室に戻るとみどりと数吉が寄ってきた。
「どうしたの?風呂敷。」
「ああ、メグたんとこのあんこ仕入れてきたんだ。」
「おお、それで?」
「帰ったら、これでアンパンを焼く!」
「おお~、それ俺も食いたい。」
「あたしも焼く!」
「そう?じゃああとでウチくる?」
「わかった、みどりちゃんも呼ぶね。」
よぶんかい。
まあいいわ。
さやかはメールを打っている。
「朽木~変なもん振り回すんじゃねえよ。」
なんだ?コイツ。
「だれよあんた?」
「はあ?同じクラスなのに知らねーの?」
「知らん、さやか知ってる?」
「ああ、宗宮哲也だよ。」
「そうみや?」
「うん、建設会社のボンボン。」
哲也は、ちょっと細面のイケメンっぽいやつだ。
「ボンボン言うな!」
「そのぼんびんが何の用だよ、言っとくがこのあんこはやらんぞ。」
「いらんわそんなもん。」
「いらないのか?こんなうまいあんこは他では買えないぞ。」
「あんこ?」
「うるせえ、内輪の話だ。それで?ボンボンは私にモンクがあるのか?」
「あさから変なもん振り回しているから注意しただけだ。」
「はん!こちとら喜びの舞を舞っただけだ、用がないならあっち行け。」
私にしっしっと手を振られて激高する。
「な!なんだと!」
「うるせえドラコマルフォイ。ええとこボンボンは取り巻き連れてねえのかよ。」
「そんなもんねえよ。」
「あたしゃええとこのボンボンなんか、大嫌いなんだ。」
「さ、サヨちゃん、それは…」
数吉はあきれたように手を出す。
「ええとこのボンボンって、それだけで人格否定すんなし!」
哲也はアタマから火を噴きそうだ。
「じゃあ、どっかでいいとこ見せろ。そしたら見直してやる。」
「お前中心に世界が回ってるわけじゃねえぞ。」
「そりゃそうだ、人には人の人生ってな、それぞれが人生の主人公さ。」
「なんだよ、まともなこと言うな。」
「私は最初からまともだよ。」
「とてもそうは見えないわ。」
「ケンカ売ってくるやつには買ってやるもんだよ、三〇円でいいか?」
「やっす!めっさやっす!」
「まあな、JKになっても『いじめ』なんて低俗なことしやがったら、即ネンショウぶちこんでやる。」
「おい、なんだよそれは。」
「東中でも噂は届いてるだろう。」
私はにやりと笑って見せた。
「まさか…」
「知らんね。」
数吉が宗宮をあわてて引きはがした。
「宗宮、ちょっとこっちで話そう。」
「な、なんだよ。」
数吉は宗宮哲也を引っ張って、私の席の反対側に向かった。
「サヨは、中学三年の四月から十二月までいじめられてたんだ。」
「そうなのか?とてもそうは見えないけどな。」
「ああ、正月に裁判起こして勝ったんだよ。」
「はあ?」
「貧乏だったので、飯もまともに食えなくてな、給食もそいつらにぶちまけられて、毎日食えなかったんだ。」
「な!」
「そのうえ、なけなしの金も盗られてた。」
「ひでえ」
哲也は、冷や汗をたらしていた。
「だからな、いじめしそうなやつには敏感になってるんだ。」
数吉は説明がうまい。
「それだけじゃない、どこからか証拠を山ほど集めて、本当の裁判でぶちまけちゃった。」
「ごくり」
「だからな、俺たちはほかの生徒がサヨにちょっかい出さないように見張ってるんだ。」
哲也は、こくりとうなずいた。
「おまえんち、親父が太いから大丈夫とは思うけど、サヨの扱いには気を付けてくれ。破滅したいなら別だが。」
数吉は、真剣な顔をして言うもんだから、宗宮も真顔になる。
「だれも破滅なんかしたくねえよ。」
「だな、女の子が丸坊主になるなんて、考えたくないもんな。」
「女の子?」
哲也はサヨを見た。
「サヨじゃねえよ、小夜をいじめたやつが丸坊主にされたってこと。」
哲也は再度生唾を飲んだ。
「おまえが悪い奴じゃねえのはわかってるが、無茶すんじゃねえぞ。」
「ああ、理解したよ、ありがとう。」
「お前がアホじゃなくて良かったよ。」
「…」
「今の小夜なら、おまいんとこの会社ごとぶっつぶすノリでやるだろうからな。」
「なんだよ、物騒な女だな!」
「そうなんだよ、ぶっそうだからつっかかるな。」
「わかったよ。」
宗宮は真顔でうなずいた。
「たのまい。」
数吉はうなずいて戻ってきた。
「この野郎、ひとをバクダンみたいに言いやがって。」
「地雷女そのものだろうが。」
「いや~ん、カズキチがいぢめる~。」
私がブリッこな声を上げたら、教室内でざわっと殺気立った。
「朽木をいじめる?」
「サヨちゃんいじめた?」
「いじめてねえ!」
数吉は手を振って拒否した。
「こいつ~」
「ひとを地雷あつかいしやがって。」
「じゃあ、面倒起こすな。」
「私からつっかかったりしないよ。」
「そう願いたい。」
「アンパン食わしてやるから怒るなよ。」
「ちぇっ、あんこにゃ期待している。」
「ちくせう」




