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クラス転移した異世界で、俺だけハーレム冒険者  作者: 猫野 にくきゅう
第三章

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第78話 湖畔の洞窟、攻略前の準備

 ポリッツたちと交わした「お互いに一切干渉せず、時間を空けて移動する」という取り決めを守り、俺たちはその場で小一時間ほどの刻(とき)を潰してから足を進めた。


 立ち枯れた大木や深いぬかるみを迂回しながら湿地を進むと、先ほどゾモンの強力な火属性魔法『ファイヤーボール』によって爆砕された『グレイト・ツリーズタートル』の亡骸が目に入った。


 巨大な甲羅の中央は真っ黒に焼き焦げ、破断した割れ目からは内部の肉が炭化して不快な煙をくすぶらせている。


 傷のない状態で解体すれば、防具の素材や上質な食肉として金貨5~6枚分の値がついたはずだが、ここまで惨絶に痛んでは商品価値は激減している。

 それでも甲羅の無事な部分で銀貨数十枚にはなるだろうが、重量を考えると持っていく気にはなれなかった。


 【アイテムボックス】は非常に便利な収納能力だが、発動と維持には俺自身の魔力を消費するし、容量にも当然限度がある。


 これから初見のダンジョンを攻略するのだ。

 このような状態の悪い巨体を無理に詰め込んで、貴重な空間と魔力を圧迫する気にはなれなかった。


(攻撃魔法は圧倒的な破壊力と討伐速度を誇るが、解体素材や食用肉を傷つけずに回収するという点においては、決定的に不向きだな)


 俺は炭化臭の漂う死骸を一瞥しただけで通り過ぎ、先へと視線を向けた。


 * * *


 湿地帯をさらに一時間ほど進んだ頃、進行方向の低木の草むらがガサガサと不自然に大きく揺れた。


 次の瞬間、粘ついた泥を撒き散らしながら、体長1.5メートルを超える巨大なカエルの魔物――『ポイズン・トード』が姿を現した。

 湿地に潜むそいつは、不気味な黄色の眼で俺たちを捕らえ、喉の袋をグプグプと不吉に大きく膨らませる。


「ちょうどいい。『釣り餌』を調達しておくか」


 俺は『疾風の剣』を静かに抜き放ち、一歩を踏み出した。


 足元はぬめっとした不快な湿地だが、アキラが展開してくれている移動系の補助魔法『スムーズ』の膜が足裏を沈み込ませないように支えてくれる。

 さらに、装備している『大地のブーツ』の耐久力と足場安定の特性が完璧に噛み合い、まるで乾燥した平原を走るかのような確かな踏み込みを可能にしていた。


「シュルッ……!」


 トードが口を大きく開き、圧縮された黄緑色の毒液と、槍のごとき速度で伸びる長い舌を同時に放ってくる。


 俺は敏捷補正の乗った体捌きで毒液の軌道を最小限の動きでひらりと回避し、そのまま前方へ肉薄した。


 直後、空気を切り裂いて迫る粘着質な舌を、『疾風の剣』の鋭い一閃で根元から綺麗に切断する。


「ギャオォッ!?」


 舌を失い苦悶にのたうつポイズン・トードへ、俺はスピードを落とすことなく踏み込み、返す刀でその頭頂部へ剣を叩き込んだ。


 【斬撃付与】の乗った刃は、カエルの頑丈な頭蓋をあっけなく割断し、脳天を真っ二つに引き裂いた。


 巨大な体が泥の中に倒れ込み、激しく痙攣した後に動かなくなる。


 * *


「こいつの背中にある毒腺は抽出して売ることもできるが……今回はパスだ。狙いはこの太い脚の肉だな」


 カエルの肉は、先ほどダルム村の村長宅で食したようにクセがなく、引き締まった良質なタンパク源となる。

 さらに、これから向かう『白霧の洞窟』で狙う『桃脂ナマズ』の大好物であり、最高の『釣り餌』としても使用できるのだ。


 俺は『疾風の剣』で手際よく前脚と後脚の肉だけを綺麗に削ぎ落とし、【アイテムボックス】へ格納した。

 残りの内臓や背の毒部位に用はない。

 躊躇なく、泥の中へと破棄する。


 * * *


「お疲れ様、トオル君! あっという間に倒しちゃったね」


「凄いです!……全然危なげなくやっつけちゃいましたね。カッコよかったですよ、トオル君」


 後ろで見守っていたアキラとルミが、安堵の笑みを浮かべながら駆け寄ってきた。

 二人から送られる賞賛の言葉に俺は軽く頷き、ふと二人のかげに隠れるように立っていた少女――ランへと視線を向けた。


 ぼさぼさの若葉色の髪を揺らし、泥に汚れた薄い服を纏った少女は、言葉こそ発しなかったものの、俺の顔をじっと見つめながら、こくこくと小さく頷いていた。


 その瞳に宿っているのは怯えではなく、明確な信頼と感嘆の色だ。


 元の主人であったポリッツから捨てられ、心細かっただろうが――

 俺の強さを目の当たりにし、さらに連れのアキラとルミの生き生きとした様子を見て、彼女なりの安心感を得ているのだろう。


 俺に対する感情も、決して悪くないと実感できた。


 * *


 湿地帯をさらに慎重に進むこと一時間。

 徐々に木々の密度が減り、周囲を覆っていた薄い霧の向こう側に、広大な水面が静かに姿を現した。


 一面に広がる、鏡のように澄んだ巨大な湖。

 そしてその傍ら、岩山の根元にぽっかりと開いた、大人が二人並んで通れるほどの暗い洞穴。


 ――ここが、目的地である『白霧の洞窟』の入り口だった。


 湖全体が試練の女神によって生成されたダンジョン構造の一部であり、独特の神聖さと不気味さが漂っている。


(さて……ダンジョンのシステム構造だが)


 俺は洞窟の暗い開口部を見つめながら、頭の中で情報を整理した。


 試練の女神が建造したこのダンジョンは、進入するパーティごとに独立した『別空間(インスタンス)』が自動生成される仕様となっている。

 つまり、入り口こそ一つだが、中に足を踏み入れた瞬間に俺たち専用のダンジョン内部へと転送されるのだ。


 これによって、先行して進入したポリッツたちと内部で遭遇し、不快な利権争いに巻き込まれたりするリスクは完全にゼロとなる。

 完全に自分たちのペースで攻略に専念できるのは、精神的にも大きな安心材料だった。


 * * *


 空を見上げると、湿地の西側へ陽が傾き始め、空が茜色と濃紫色のグラデーションに染まりつつあった。


 これまではダンジョンの外でテントを張り、翌朝から探索を開始していたのだが、事前に得た情報によれば、この『白霧の洞窟』は極めて広大であり、何日もかけて内部を進む必要がある。


 外で一夜を明かすより、早々に内部へ進入し、開けた場所を確保して野営する方が時間を有効に使える。


 洞窟に入る前に、俺は自身のステータス画面を開き、職業の変更を行った。

 これまでの道中や先ほどのポイズン・トード討伐の経験値により、メイン職である『剣士』のレベルが「8」から「9」へと上昇していた。


 アキラのレベルに変更はなかったが、ルミのレベルが「3」から「4」へと上がっている。


 俺はこれから始まる暗闇での長期戦に備え、耐久力と防御力を強化するため、職業を『剣士』から『戦士』へと切り替えた。

 筋力と耐久に重点を置いたステータス補正が得られ、限定空間での戦闘に安定感が増す。


 続けて、新たにパーティー(同行者)となったランの鑑定を行う。


 ─────────────────────────────

 名前:ラン

 職業:荷物持ち レベル:3

 ─────────────────────────────

 HP:32 / 32 MP:10 / 10


 筋力:08 耐久:07

 敏捷:09 技量:08

 魔力:05 幸運:09


 ボーナスポイント:2

 ─────────────────────────────

 装備:奴隷の服

 ─────────────────────────────

 好感度:69

 隷属度:80

 ─────────────────────────────


(……好感度69、隷属度80、か)


 画面に表示された数値を見て、俺は密かに眉をひそめた。

 出逢って間もない幼い少女としては、異常と言っていいほどの高さだ。


 ポリッツから理不尽に棄てられ死を覚悟した極限状態で、俺が救い上げたことが、彼女の心に決定的な刻印を残したのだろう。

 荷物持ちとしてのステータスは控えめだが、この高い好感度と隷属度であれば、裏切りや余計な反抗を警戒する必要はないだろう。


「これから洞窟の中に入り、内部で適当な場所を見つけて野営する。広大なダンジョンだ、長丁場になるぞ」


 俺が静かに告げると、アキラとルミは互いに顔を見合わせ、引き締まった表情で頷いた。


「う、うん……! 洞窟の中でのキャンプなんて、ちょっとドキドキするね」


「そうだね、アキラちゃん。でも、気を引き締めて行こう」


 俺はアキラとルミの二人に松明を持たせ、火を点けさせた。

 オレンジ色の温かな炎が揺らめき、洞窟の入口周辺の暗がりを照らし出す。


 隊列は俺が先頭に立ち、松明を持ったアキラとルミが、一番小さなランを中央に挟み込む形をとった。

 俺が前衛を担当し、後方の警戒とランの保護を二人に任せる陣形だ。


「いくぞ」


 短く声をかけ、俺は腰の剣の柄に手をかけたまま、湿った冷気が吹き出してくる暗黒の洞窟へと足を踏み入れた。

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