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クラス転移した異世界で、俺だけハーレム冒険者  作者: 猫野 にくきゅう
第一章

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第23話 クラスの仕様検証と、大物狩りの報酬

 闇に包まれた寝室には、隣で眠るマリアの静かな寝息だけが規則正しく響いている。先ほどの熱を帯びた仕置きの余韻が微かに残る寝床で、俺の意識はひどく冴え渡っていた。

 

 天井の暗がりを見つめながら、空中に向かって意識を集中させ、自身のステータス画面(UI)を呼び出す。


 青白い半透明のウィンドウが無音で浮かび上がり、現在の俺の能力値を淡々と暗闇に映し出した。


 視線を滑らせると、そこには今日の戦闘と、先ほどのマリアとの行為を経て更新された最新の情報が並んでいる。

 俺の目は、レベルが5に上がった『剣士』の横に、ひっそりと新たに追加された『(戦士:Lv.1)』という表記に釘付けになっていた。


 ルークの言っていた「特定の防具を装備して戦う」という条件を満たしたことで解放された、新たな職業クラスの適性。


 俺は脳内でUIを操作し、システムに対してクラス変更のコマンドを試みた。


 すると、視界の中心に『クラスを入れ替えますか?』という無機質なシステムメッセージがポップアップする。


 迷わず「はい」を選択すると、ステータスの職業欄が『職業:戦士 Lv.1(剣士 Lv.5)』へと滑らかに切り替わった。

 その瞬間、自身の肉体から微かに溢れる魔力の質が変化し、筋肉の繊維が僅かに硬く引き締まるような奇妙な感覚が全身を駆け巡る。


 この異世界が、現実の血肉を伴いながらも完全に「ゲームシステム」の理に準拠して構築されているという事実を、俺は改めて肌で実感していた。


 ただ無作為に剣を振り回すだけの泥臭い現実だけではなく、最適解となる条件を満たせば確実にシステムが恩恵を与えてくれる。

 この殺伐とした世界において、その法則性がどれほど俺の合理的思考と噛み合っていることか。


 静かな高揚感を覚えながら、俺はさらに詳細な数値の分析へと意識を深く潜らせた。


 * * *


 クラスを変更したことによる最も大きな変化は、基礎ステータスに対する補正値の変動だ。

 俺はウィンドウに表示された各数値を一つ一つ細かく確認し、頭の中でシミュレーションを始める。


 『剣士』をメインクラスに設定した場合のボーナス補正は、筋力(+3)、技量(+5)だ。対して、今設定している『戦士』のボーナスは、筋力(+4)、耐久(+4)となっている。


 戦士の補正は、俺の現在の致命的な弱点である「耐久14」という低さをカバーし、正面からの物理的な殴り合いに特化させるものだ。


 もし俺が重い金属鎧を着込み、敵の攻撃を強固な盾で受け止めながら戦うプレイスタイルを望むなら、戦士は間違いなく最適解だろう。

 だが、今日のグレイト・ホーンラビットとの戦いを思い返せば、その選択が如何に愚かであるかは明白だ。


 あの丸太のような巨獣の突進を、いくら耐久を少し底上げしたところで完全に防ぎ切れるはずがない。


 俺の戦闘スタイルの真骨頂は、『疾風の剣』と『風のマント』の装備補正を乗せた圧倒的な機動力にある。


 敵の攻撃軌道を冷静に見極め、紙一重で間合いを外し、被弾することなく急所を斬り裂くヒット&アウェイ。

 その戦術を極めるためには、防御力よりも、剣を正確に操るための「技量」と、動きのキレを生み出す機動力が何より重要になる。


 戦士の耐久(+4)は確かに魅力的だが、技量補正(+5)が失われるデメリットの方が遥かに大きい。


 俺は自身の適性と戦術を極めて冷徹に比較考量し、メインクラスを再び『剣士』へと戻した。

 視界の表示が『職業:剣士 Lv.5(戦士 Lv.1)』へと戻り、張り詰めていた筋肉の硬直がスッと解けるのを感じる。


 自身の合理的な選択に、一切の迷いはない。


 ふと、隣で眠るマリアへと視線を向け、ついでに【鑑定】のスキルを発動させた。

 空中に浮かび上がった彼女のステータスには、【好感度:86】【隷属度:79】という、以前に見た時よりもさらに上昇した数値が刻まれている。


 俺が与えた快楽と絶対的な支配が、彼女の精神をより深く、より強固に俺へと縛り付けている確固たる証拠だ。


 自分に都合よく作り変えられていくその歪な愛情を確認し、俺は口角が微かに上がるのを自覚した。


 完璧な成果だ。

 俺は深い満足感とともにウィンドウを閉じ、心地よい眠りへと意識を手放した。


 * * *


 翌朝、オルト村はいつもと変わらない長閑な空気に包まれていた。


 爽やかな目覚めを迎えた俺は、マリアが用意した温かい朝食を手早く済ませると、昨日の獲物を換金するためにバドの店へと足を運んだ。


 店を兼ねた買取所に入ると、バドは既に俺が来るのを待っていたかのように、満面の笑みでカウンターの奥から身を乗り出してきた。


「おはようございます、トオル殿! 解体屋から話は聞いておりますよ。まさかあんな大物を一人で仕留めてこられるとは」


「ああ。素材の換金をお願いしたい」


 俺が淡々と告げると、バドは手元の古い羊皮紙に素早く計算を書き込み始めた。


「解体屋から届いた素材の質は、どれも一級品でした。まず、あの立派な角。武具や錬金の希少な素材になりますから、銀貨十枚。次に、傷の少ない上質な毛皮。これは防具職人が喉から手が出るほど欲しがる品でして、銀貨八枚」


 バドのペンが走る音と、小気味良い商人の声が薄暗い店内に響く。


「そして大量の肉。魔物の肉とはいえ、上位個体の肉は美味で栄養価も高い。宿場や大都市の料理屋に高く卸せますので、銀貨六枚。基本の買取合計は、銀貨二十四枚となりますが……」


 そこでバドは一度言葉を切り、禿げ上がった頭を撫でながら、さらに人の良さそうな笑みを深めた。


「オルト村の英雄殿からの直々の持ち込みです。私としても、最大限の色を付けさせていただきますよ。特別ボーナスとして銀貨六枚を上乗せし、合計で銀貨三十枚……つまり、金貨三枚で買い取らせていただきましょう」


 チャリン、と重厚な音を立てて、カウンターの上に眩く光る三枚の金貨が並べられた。


 * * *


 俺は脳内で現在の所持金と、これまでの収支を正確に計算する。

 先日、防具や探索道具一式を揃えるために銀貨十八枚という決して安くない出費をしたばかりだ。


 だが、たった一日の狩りで、その出費を完全に回収したばかりか、大幅な黒字を叩き出してしまった。


 強力な魔物を単独で討伐できる俺の戦闘力。


 素材を劣化させず、運搬コストもゼロにするチートスキル【アイテムボックス】。

 そして、村人の好感度を強制的に底上げし、取引を常に有利に進められる【オルト村の英雄】の称号。


 これらが完璧に噛み合ったことによる「稼ぎの良さ」は、俺の事前の想定を遥かに超えていた。


 俺は金貨三枚を無造作に『薄汚れた硬貨の袋』へと放り込み、アイテムボックスの虚空へと収納する。


「助かる。また大物を持ってきた時はよろしく頼む」


 バドの機嫌の良い見送りの声を聞きながら、俺は内心で密かにほくそ笑み、店を後にした。


 * * *


 潤沢な資金を得た俺は、その足で村の広場を抜け、再びオルト村の出入り口へと向かっていた。

 アイテムボックスの中には、昨日の出費で揃えた松明、ロープ、食料、解毒草などの探索道具一式が完璧に備わっている。


 準備はすべて整った。


 出がけに、俺は心配そうな顔をするマリアに対して「少し遠出をしてくる」とだけ告げてきた。

 彼女の依存心を適度に満たしつつも、俺の行動を完全に把握させるような隙は与えない。


 この異世界でどう生きるか――

 その主導権は、常に俺が握り続ける。


 視線の先には、村を覆う目に見えない女神の加護の境界線がある。

 そのさらに北西、鬱蒼とした森の奥深くに口を開ける『微睡みの洞窟』。


 次なる標的は、いよいよあの未知のダンジョンの内部だ。


 上位個体が跋扈する森を抜け、光の届かない地下空間へと足を踏み入れる。

 それは、死の危険が伴う未知の領域への侵入。


(マリアさんから聞いた話だと、『微睡の洞窟』に向かった冒険者の約半数が命を落とすらしい……)


 警戒心が、冷たい理性として俺の脳髄を締め付ける。


 だが、それ以上に俺の心を支配しているのは、クリア報酬として得られるという『ステータス増強アイテム』への強い渇望だ。この世界のシステム上、ステータス補正を与えてくれるアイテムは是が非でも欲しい。


 それを手に入れることができるのは、人生で一度きり、運を掴み取った者だけだ。

 自身の探求心と、確かな強さを求める本能に従い、俺は静かに境界線を越える。


 肌を刺すような魔力の気配と、野生の匂いが再び俺を包み込んだ。

 俺は『疾風の剣』の柄を確かめるように握り直すと、一切の迷いなく、北西の森の奥へと足を踏み出した。

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