魔術と魔法03
アドフルとエルトンが僕を迎えに来た。
僕は四人にさよならをいって別れた。
僕はカリーヌの屋敷の前で待っている騎士たちのもとに行った。
「お待たせしました」
僕がそういうと、エルトンの目線は僕の左手に注がれた。
「ウワサの再生の魔術ができたんですか?」
エルトンは驚きながらも僕の顔を見る。
「はい。まだ、実験段階ですけど」
「よく見せてくれませんか?」
エルトンは僕の左手を取った。
「よかったです。治ってよかったです」
エルトンは涙を一筋流した。
「申し訳ありません。騎士として失格です」
エルトンは涙を拭いた。
「いえ。喜ばれると嬉しいです」
「シオン様。おめでとうございます」
アドフルが頭を下げた。
「ありがとうございます」
僕は二人にも喜ばれて嬉しい限りだった。
その日の槍の稽古はできなかった。
僕の左手はまだ槍を握られない。その代わり、魔術は使える。なので、二人の対魔術の練習台になった。
「シオン。再生の魔術を覚えてくれ」
夕食の席で導師は疲れている顔でいった。
「完成していたんですか? まだ、実験中と思っていましたが?」
「それは心配ない。一応の完成はしている」
「それで、何か問題が出たんですか?」
「欠損を治して欲しいと頼まれるんだ」
「まだ、できたと知れ渡ってないでしょう?」
「それなんだが、知れ渡っている。私の軽率な行動が招いた」
導師は肩を落としていた。
「何か、失敗したんですか?」
「ああ。翻訳のためにうわさを流した。そのツケがきている」
導師は読めない本の翻訳のためにうわさを流して、翻訳できる人を探したようだ。そして、翻訳者を見つけて翻訳してもらった。だが、再生の魔術の話は有用性から知れ渡った。そんな時に実験で人や動物も含めて成功させている。そのため、被験者から話が漏れたようだ。その後は翻訳の時と同じようにうわさが流れたようだ。
「王や公爵から何件か依頼が来ている。それも、断れないのが……」
導師は疲れた顔をした。
「手伝いますが、申請して使い手を増やした方がいいと思いますよ?」
「それなら、申請している。だが、呪文は知っているように特殊だ。それに、魔力の消耗が激しい。そのため、使い手は限られている。だから、手伝ってもらいたい」
導師には疲れた目でいわれた。
「はい。わかりました。ところで、無詠唱でいいのでしょうか?」
仕事の内容では呪文を唱えないと、相手に不信感を持たれる。
「無詠唱はやめた方がいい。相手に何をしているのかわからないからな」
「わかりました。呪文を覚えますので、後で書斎に行きます」
導師は安心した顔になった。
僕は無詠唱で再生の魔術が使える。言葉を覚えるよりも感覚で覚えた方が早いのだ。
「悪いな。私一人では抱えきれなくて」
導師の手伝いは、今に始まった話ではない。仕事を振られてもそうかとしか思わない。
「僕は導師の手伝いも仕事に含まれているんですよ。疲れる前にいってください」
導師は嬉しそうに微笑んだ。しかし、疲れがにじんでいた。
三日ほど、僕と導師は王のもとに行ったり、公爵家を回った。
僕の担当はお抱えの騎士や使用人を相手にした。だが、貴族には導師が治していた。
幼い僕では不安があるのだろう。騎士でも、不安そうな顔をしていたのが印象的だった。
僕はカリーヌの家のテラスで一息ついていた。
相変わらず、ここはゆっくりと安らぎのある空気が流れていた。
「シオンも大変ね。でも、これからはいつも通りに来れるの?」
カリーヌにきかれた。
「はい。ピークは越えましたので。導師も休んでいます」
「そう。よかった」
カリーヌは安堵していた。
「ところで、新しい博打はどうなったんだ?」
アルノルトは目を輝かしていた。
「まだです。ここのところ忙しかったので、後回しになっています。ですが、近い内にお父様に呼ばれると思います」
「早くやりたい」
アルノルトは博打の現実を見せつけられても変わらない。本当にギャンブラーになる気なのかわからない。
「それより、再生の魔術だが、私には使えなかった。コツでもあるのか?」
エトヴィンの顔は曇っていた。
前に雑用係になった騎士の話をしていた。その人に試したのかもしれない。
「呪文が導く通りに魔力を流せばいいだけです。後は魔力量ですね。公級よりも魔力を使いますから」
僕は答えた。
「それって、帝級と同じということか?」
エトヴィンは苦い顔をした。
魔術が発動しなかったのは、魔力量と関係がありそうだ。
「階級はわかりませんけど、その以上かもしれません。僕もごっそり取られますから。なので、魔力回復のポーションが欠かせません」
エトヴィンは肩を落とした。
「私には無理か……。すまんが、私の家に来てくれないか? 空いた時間でいい。急がないから」
エトヴィンに真剣な目でいわれた。
「……はい。ですが、まだ、予約はあります。少し時間がかかっていですか?」
「それで構わない。ありがとう」
エトヴィンは安心したようだ。
「でも、あんなに高い巻物を買ったわね。買った人に、というか、シオンに教わればいいのに」
レティシアは少しあきれていた。
「親に我がままをいった。それに騎士になった後に、必要になるかもしれないから」
我がままをいったのを思い出したのか、エトヴィンは苦笑いをした。
「まあ、公爵家ですものね。あっても不思議ではないわね」
レティシアは目を伏せた。
「皆。近々、パーティーを開くわ。シオンの左手が戻った記念に。それと、ランプレヒト公爵の偉業を祝って。日時は決まったら伝えるわ」
カリーヌはいった。
「貴族のパーティーになるの?」
レティシアは少し不満そうだった。
「ううん。私たちの身近な人だけのパーティーよ。知らない人は呼ばないわ」
「そう、それなら参加するわ」
レティシアは相変わらす貴族の宴会は嫌なようだ。
だが、身内になると、公爵家ばかりだ。貴族の宴会と変わらない。
「オレらもいいのか?」
アルノルトはいった。
「もちろん。来なかったら怒るわ」
カリーヌは満面な笑みで答えた。
アドフルとエルトンに迎えに来てもらって、城にある騎士団の練習場に向かった。導師の仕事を手伝っていたので三日は開いている。
「何人ぐらい来る予定ですか?」
僕はエルトンにきいた。
アドフルは王直属の騎士団に入って日が浅い。なので、先輩であるエルトンの方が詳しかった。
「十人ぐらいになると思います。事前に五人と約束しているのですが、断れない人がいます。申し訳ありません」
僕は消費する魔力回復のポーションを数える。十人なら足りると計算した。
「それぐらいなら、ポーションは間に合います」
「断れず、申しわけありません」
エルトンはすまなそうな顔をした。
「まあ、予想はできていました。だから、問題ないですよ」
「そういっていただけると助かります」
エルトンにとっては本意ではない事態のようだ。
騎士団に顔を出せば治療を求められるとわかっていた。だから、エルトンに頼んで人数を決めていた。
最初にしては人数が絞られている。僕に不満はなかった。
「僕の左手の爪が生えるまで時間があります。稽古は後回しでいいですよ。しばらくは再生治療に時間が取られますから」
僕は当然というも、エルトンには不満のようだった。




