ドラゴンスレイヤーと詠唱化08
午後からカリーヌの家にお邪魔していた。
いつものように玄関から入って、庭にあるテラス席に行く。
今日はカリーヌとレティシアの二人だけでなかった。カリーヌと同い年ぐらいの男が二人いた。
「シオン。いらっしゃい」
カリーヌはいつものように微笑んでいた。
「こいつが、ランプレヒト公のところのシオンか?」
貴族にしては服を着崩しているラフな男の子がいった。
「初めまして、シオン・フォン・ランプレヒトと申します。よろしくお願いします」
僕は右足を引き、右手を胸にして頭を下げた。
貴族の礼をすると、イスが動く音がした。
僕が頭を上げると、端正な顔立ちの美男が立ち上がっていた。
「初めまして。私はエトヴィン・ラ・ニーラントという。今回、無理を聞いてくれて助かる」
男は貴族の礼をした。
カリーヌがいっていた呪われた魔剣を抜いた男のようだ。だが、呪われている気配はなかった。
「堅いな。子供同士なんだから、そんなことするなよ」
「アルノルト。第一印象は大事だ。変な風に思われたら、払拭するのは困難だぞ」
「相変わらず、難しいことを考えているな。あっ。オレはアルノルト・ディ・ファイネンだ。よろしくな」
アルノルトは満面の笑みでいった。
「よろしくお願いします」
僕は笑顔で返した。
「それで、こいつは呪われているのか?」
アルノルトはエトヴィンを指した。
「見た感じ、呪われていません。念のため浄化の魔術で反応を見る予定です。すぐにしますか?」
僕はエトヴィンを見ながらいった。
「立ったついでだ。お願いする」
エトヴィンはいった。
「わかりました。……では、サンライト《陽光》」
僕は魔術名をいって、無詠唱で浄化の魔術を放つ。
光る粒がエトヴィンの頭から足の底まで光で染めた。
僕は手ごたえを感じなかった。
呪われていないようだ。
「浄化の魔術では反応ありません。呪いはないと思います。それでも、不安なら導師に相談しますが?」
「いや。必要ないだろう。呪いの魔剣は触っても問題ないと聞いている。アルノルトが心配し過ぎたんだ」
エトヴィンは友人のお節介に苦笑いをしたようだ。
エトヴィンは呪われていないのを確信しているようだ。だが、今回の依頼は友人を安心させるためのようだ。
「でも、あれは使い手を殺すんだろ? そんなのに触って大丈夫なのかよ?」
アルノルトは不満そうにいった。
「だから、何度もいっただろう。剣を振らなかったら傷つかないと」
エトヴィンはあきれていた。
「そうか。お前の親父さんにいったら、心配して魔剣を貸してくれたぞ。調べるといったから」
アルノルトは空間魔術がかかっている魔道具の袋から長方形の箱を出した。
「ちょっと。やめてよね。そんな危険なものを出さないでよ」
レティシアは責めるように目を細めた。
「でも、現物を見る方が早いだろ?」
アルノルトは非難の目も気にしないで、箱を開いてみせた。
そこには深い紺色の剣が収まっていた。魔剣というに相応しい厳つさがあった。
剣は呪われているといっていたが、その気配はない。おそらく、聖剣と一緒で魔力を流すと、何かしらの魔術が発生するのだろう。
「呪われているか?」
エトヴィンは僕にきいた。
「いえ。その気配はないです。使わなければ問題ないと思います。それと、忠告ですが、剣に魔力を流さないでください。たぶんそれで何かしらの攻撃が出ると思います」
「それなら、魔力を流してみるか」
アルノルトは剣に触ろうとした。
エトヴィンはその手を取ってやめさせた。
「この剣は巨大な攻撃と共に自分を傷つける。魔力を流すのなら、暴発して庭を焼き、持ち主を傷つけるんだ。死ぬ気か?」
「だが、試さないとわからないだろ?」
アルノルトはやめる気配がない。
「アルノルトさん。やめてくれませんか? 僕は犠牲になりたくありません。聖剣でも扱いは慎重なのです。魔剣ならそれ以上の危険があります。聖剣でも魔力を流すと、勝手に攻撃が発生するのです」
僕はアルノルトの危機感のなさが危ないと思った。
「その話だと、聖剣を触ったのか?」
エトヴィンはいった。
「はい。騎士団長の聖剣を握らせてもらいました。その時、魔力を吸われて攻撃が発生しました。その時は鞘を傷つけただけですが、危険なのは変わりありません」
僕が説明するとアルノルトとエトヴィンは顔を見合わせた。
「やめとくのが賢明だ」
「そうだな」
アルノルトはいそいそと魔剣をしまった。
「好奇心で死んだら笑えないわよ」
イスに座る二人にレティシアはいった。
「わかっているよ」
アルノルトは顔を赤くしながらいった。
「シオン。座って。今、紅茶を頼んだから」
カリーヌにいわれて、いつもの席に座った。
レティシアとアルノルトはいい合いをしている。仲はいいようだ。
「シオンは騎士団長と仲が良いのか?」
エトヴィンにきかれた。
「導師の威光で見せてもらいました。それに、今は騎士団の練習場に顔を出しているので、話すこともありますよ」
「騎士団の練習場に何しに行くんだ?」
「槍の稽古です。昔からしていまして、それで、色々あってお邪魔しています」
「騎士なら剣ではないのか?」
「僕は術士です。なので、槍術か棒術です」
エトヴィンは何か引っかかった顔をした。
「術士? それって準貴族のはず。何で、公爵家の子供が術士なんだ?」
「僕の生まれは商家です。色々あって導師に拾われました。そして、王に術士として拝命してもらいました。その後ですね。導師の養子になったのは。それで、色々あって子爵を授けられました」
僕が説明すると、エトヴィンは考え込んだ。
「初めて会ったのは術士の頃だったわねー」
カリーヌは微笑んだ。
僕は思わず笑顔になってうなずいた。
「それより、誰もツッコまないけど、あれは何だ?」
アルノルトは僕の頭を指さした。
「聖霊よ。今まで気づかなかったの?」
レティシアは冷めた目でいった。
「はあ? 聖霊? 何でここに居るんだ? 自然災害と一緒と聞いているぞ」
アルノルトは驚いていた。
「ウワサで聞かなかったの? ランプレヒト公爵のもとには二体の聖霊がいるって」
「それは聞いている。だが、あれが聖霊なのか? 人形にしか見えない」
アルノルトには理解がおよばないようだ。
「魔力をあげてみなさいよ。喜んで食べるから」
アルノルトは手から魔力を出して聖霊に近づけた。
『食べていいのー』
クーの嬉しそうな声が響いた。
『食べていいですけど、取り過ぎないでくださいね』
僕はクーに注意した。
注意しないと魔力を取り過ぎるからだ。
『わかったー』
クーは僕の頭から離れて、うれしそうにアルノルトの手から魔力を食べた。
アルノルトは全てを出すかのように魔力をクーに食べさせた。
よくわからないが意地になったらしい。聖霊の底なしのお腹と勝負をした。
結果は、もちろんアルノルトの完敗である。魔力切れを起こして力尽きている。今は魔力回復のポーションで飲んで回復を待っていた。




