戦略級魔術師と養子10
魔術での騒ぎがあった後は一時間ほど魔術に使える自由な時間が与えられた。
それ以外は四六時中、家庭教師は側にいて貴族としての作法や礼儀を学んだ。
「ところで、ダンスのレッスンをしたいのですが、お相手になる方を呼んでもらえませんか?」
家庭教師のアデーレはいった。
「ノーラでは相手にならんな。シオンの身長が低すぎる。友人の娘に相手になってもらおう。今度、頼みに行く。その時までに一通り教えておいてくれ」
「わかりました」
アデーレは頭を下げると食事を再開した。
今は貴族である僕と導師の食後である。そして、同じ席で家庭教師の二人は同じ食事を食べていた。
導師の方針である。
導師と同じ料理を食べるのは変わらない。しかし、家庭教師は僕の食事のマナーを守っているか視線を離せない。そのため、僕と導師が食事が終わった後に同じ席で食べている。
家庭教師の二人には最初は受け入れなかった。
「もし、私の敵対する貴族の手の者なら、同じ食事を嫌がるだろう。その時は毒を入れたということだからな。だから、お前たちにも同じ食事をしてもらう。それに長い付き合いになるんだ。私の家の方針に従ってもらう」
導師の言葉に二人は従った。
貴族と同じ食事だ。不満はないだろう。導師は香辛料をケチらず使うようにいっている。だから、まずい料理はないはずだった。
家庭教師がついてからは時間が簡単に過ぎていく。それほど、濃密なスケジュールのようだ。
救われたのは、午後の時間である。この時間は無詠唱魔術を教えるためと、僕のダンスの練習のためにカリーヌの家に行く時だった。
カリーヌは貴族らしくゆったりしている。そのため、無詠唱魔術の勉強も僕のダンスの練習もカリーヌの機嫌しだいだった。
そのため、ゆっくりお茶をして休めるのだ。そして、練習も三十分すればいい方だ。
カリーヌはトランプのカードゲームにハマっていた。なので、僕のダンスの練習はおさらいでしかなかった。
「たまにはレティシアが相手をしてよ。悪いところを客観的に見れないわ」
カリーヌは練習の時間に必ずいるレティシアにいった。
「嫌よ。貴族らしいもの。私は遊びに来たのよ」
レティシアは嫌がった。
「その割には、シオンがいる時間だけは外さないわね」
「二人だけでカードゲームをするのはつまらないでしょう? 三人で遊びたいだけよ」
「まあ、いいわ。では、何から始める?」
カリーヌはメイドからトランプをもらった。
淡々と毎日が過ぎていく。僕はこのまま過ごしていいのかわからない。やるべきことがある気がする。だが、僕の力では無理なことばかりだ。
「シオン。養子の件は考えてくれたか?」
導師に書斎に呼ばれてきかれた。
「それなんですけど、養子になると何が変わるのですか?」
「そうだな。生活面では何も変わらない。ただ、立場が変わる。公爵の継承権はないが、公爵の養子ということで貴族たちの見る目が変わるだろう。それに私と敵対している貴族と戦わなければならない。まあ、それは後見人をしているから、それは変わらない。まあ、お互いの立場をはっきりさせたいだけだ」
導師は苦笑いをした。
「それなんですが、父の件があります。導師には悪い話だと思います」
「ああ。逃げて生きているのは確認した。もう、まっとうに生きるのをやめたのも確認したよ。だが、それでもお前を養子にする。手放したくないからな」
「もの好きなんですね」
僕は苦笑した。
「その歳でいう言葉ではないぞ。まあ、そんなお前だから選んだ。受けてくれるか?」
僕は考える。養子の件は受けても受けなくても関係は変わらない。導師の下から離れる気はないからだ。だが、導師は公的にも確かなつながりのある関係を求めている。僕が他の貴族に取り上げられる可能性もあるからだ。導師より上の貴族には刃向かえない。だから、養子にしたいのだろう。だが、僕には父という業がある。それは僕だけの問題だけでなく、導師が後ろ指を指される理由になる。だから、導師には良い話ではなかった。だが、それでも求めるのなら答えるだけだった。
「……はい。僕でよければ」
「ありがとう」
窓から陽光が差す中で、導師は今まで見せたことがない笑顔をしていた。




