戦略級魔術師と養子08
僕は一週間後に登城しなければならない。
理由は男爵の爵位を受けることになったからだ。
「士爵になったばかりですよ。何で出世しているんですか?」
ノーラは泣き言をいいながら、僕の服を作るために採寸していた。
「仕方ないだろう。戦略級魔術師だ。国にしばりつけなければ安心できない。そのための爵位だ」
「まだ、六歳ですよ。服を作っても、次に着れるかわかりません」
ノーラには高い服を一回しか着ないのに不満のようだ。
「お下がりをもらってもいいが、男爵の叙任式だ。一生にあるかないかだ。贅沢をしても怒られんよ。そればかりか、下手な服を着ていたら笑われる。作るしかないのさ」
導師はノーラをなぐさめていた。
「シオン君。今度、出世するのは十年後にしてください」
無茶なノーラのお願いに、僕は苦笑いしかできなかった。
僕が求めた地位ではない。あちらが押し付けた地位なのだ。嬉しくはなかった。
叙任式では王が僕の肩に杖を当てた。
「我、汝を術士に任命す。謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、民を守る盾となれ」
以前のように王は威厳ある声でいった。
「はい。誓います」
そうして叙任式が終わった。
だが、本番はこれからだった。
祝宴で貴族にあいさつ回りをしなければならない。これは導師でも苦痛らしい。だが、今回も導師の後をついて回った。
まだ、幼い僕は後見人の導師の保護下にあった。
そのため、導師を通してから話しかけられなかった。
「やあ。久しぶりだね。おかげで事業が上手くいっている」
ジスラン・ラ・ヴィアルドー公爵は元気そうだった。
横にいるカリーヌはスカートの端を持って礼をした。
僕も答えるように胸に手を当てて貴族の礼をした。
「それは良かったな。こちらはこのざまだ。居心地が悪い」
導師は苦笑いをしていた。
本心では喜んでいないようだ。
「それは仕方ないよ。この子は嫌でも目立つ。男爵だってなるべくしてなったと思うよ」
「そうか? ちょっと変わった子供なだけだろう?」
「その認識は改めた方がいい。この子はもっと大きなこともできるよ。それだけの知恵はある」
ジスランが持ち上げるが僕にはむずがゆい。
僕は前世の記憶でズルをしているだけだ。それに、戦略級魔術を最後に何も思いつかなかった。
カリーヌは僕に微笑んだ。
僕は顔が熱くなるのを感じた。
何か恥ずかしい。
「カリーヌ。貴族のたしなみを教えてあげなさい。シオン君には何もわからないからね」
ジスランはカリーヌにいった。
カリーヌに手を掴まれて引っ張られた。
「友達を紹介するわ。久しぶりに宴に出てきたから」
そういってテラス席に引っ張った。
そこには逃げるかのように柵に身を乗り出していた女の子がいた。
「レティシア。貴族でない貴族を連れて来たわよ」
レティシアと呼ばれた女の子は柵から身を引いた。
「……ここに居るのは。貴族だけよ。そうでなければ、いられない」
刺々しい雰囲気をまとった女の子はいった。
「違うわよ。シオンは商家の生まれよ。それが出世して男爵になったの」
「この子が?」
「ええ。叙任式を見たでしょう?」
「でも、士爵が男爵になった。それだけよ」
「その前にも叙任式をしたのよ。その時の身分は奴隷よ」
「ウソ。奴隷が士爵に成れないわ」
「でも、なったわよ。ザンドラ・フォン・ランプレヒト公爵が保証してくれるわ」
「本当なの?」
レティシアは僕の後ろを見た。
背後を振り返ると、どこかで見た大人の女性が立っていた。
「本当よ。元は商家の子だけど、奴隷として売られたわ。そして、ランプレヒト公爵に買われた。その後、龍族に呼ばれた。それで、貴族の面子を守るために士爵の爵位を与えられたわ。龍族が呼んだのは平民だと、貴族の面子が潰れるからね。そして、今度は龍族ばかりでなく有翼族とも関わったの。その時に、戦略級魔術を使って悪い有翼族を退けた。今回は貴族として任命することで、戦略級魔術師を手放さないための叙任式よ」
「それだけ力があれば、貴族になる必要なんてないでしょう?」
レティシアは怒っていた。
「人は一人で生きていけない。それに、この子に一人で生きていけというの? パンの焼き方も知らないのに」
レティシアは僕を見ると、怒ったままそっぽを見た。
「シオン君に失礼よ。これは貴族でなく人として悪いのはわかっているでしょ?」
「……わかっているわよ」
レティシアは僕を見る。
「ごめんなさい」
レティシアはぼそりといった
「いえ、普通でないのはわかっていますので、気にしないでください。導師も宰相も今回の件では頭が痛いようですから」
「あら、本当? 宰相が胃が痛いといっていたのは本当みたいね」
女性は笑っていた。
「こんにちは。アルメルおば様」
カリーヌはドレスの端を持って貴族のあいさつをした。
「遅ればせながら、シオン・ブフマイヤーと申します。よろしくお願いします」
僕も続いて胸に手を当てて貴族のあいさつをした。
「うん。二人とよくできているわ。文句はつけられないと思うわ」
「ありがとうございます」
カリーヌはよろこんだ。
「お母様。それは私はできていないというの?」
レティシアは不満そうだった。
「あら、あなたは貴族が嫌いなんでしょう? あいさつに興味があるの?」
アルメルはいった。
「そうだったわね。お母様はここに居ないで貴族のつながりを大切にすれば?」
「あら。あなたはわかっていないわね。ここに居るのは、シオン君がいるからよ。今日の主役だからね。それに仲良くしたいわ。ランプレヒト公爵が後見人だからね」
「やっぱり貴族ね。ヘドが出るわ」
「それは自分にもいえることよ。貴族は才能ではなく血でなるもの。血統でしか本当の貴族には成れない。私から生まれたあなたは貴族から逃げられないのよ」
「それが嫌なのよ」
「恵まれているとわからないようね。我が子ながらがっかりさせてくれるわ。シオン君を見習って欲しいわね」
「何を見習うの?」
「覚悟ね。シオン君は自分の作った魔術で貴族をしなければならなかった。それは、貴族になることで、この国にケンカを売らないと宣言することになる。だから、大きな力を持ったから自由を捨てたの。それぐらい、察して欲しいわね」
カリーヌと同じぐらいの歳であるのなら、九歳か十歳だろう。そんな年頃の女の子に理解しろというには無理だと思った。
「わかっているわよ」
「本当に?」
アルメルは微笑んでいた。
レティシアはフンと鼻を鳴らして庭を見た。
「今度、二人でいらして。この子とお茶をして欲しいの」
「もちろん。友達ですから」
カリーヌは笑顔でいった。
「はい」
僕はよいのかわからないがうなずいた。




