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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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34/48

戦略級魔術師と養子08

 僕は一週間後に登城しなければならない。

 理由は男爵の爵位を受けることになったからだ。

「士爵になったばかりですよ。何で出世しているんですか?」

 ノーラは泣き言をいいながら、僕の服を作るために採寸していた。

「仕方ないだろう。戦略級魔術師だ。国にしばりつけなければ安心できない。そのための爵位だ」

「まだ、六歳ですよ。服を作っても、次に着れるかわかりません」

 ノーラには高い服を一回しか着ないのに不満のようだ。

「お下がりをもらってもいいが、男爵の叙任式だ。一生にあるかないかだ。贅沢をしても怒られんよ。そればかりか、下手な服を着ていたら笑われる。作るしかないのさ」

 導師はノーラをなぐさめていた。

「シオン君。今度、出世するのは十年後にしてください」

 無茶なノーラのお願いに、僕は苦笑いしかできなかった。

 僕が求めた地位ではない。あちらが押し付けた地位なのだ。嬉しくはなかった。


 叙任式では王が僕の肩に杖を当てた。

「我、汝を術士に任命す。謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、民を守る盾となれ」

 以前のように王は威厳ある声でいった。

「はい。誓います」

 そうして叙任式が終わった。

 だが、本番はこれからだった。

 祝宴で貴族にあいさつ回りをしなければならない。これは導師でも苦痛らしい。だが、今回も導師の後をついて回った。

 まだ、幼い僕は後見人の導師の保護下にあった。

 そのため、導師を通してから話しかけられなかった。

「やあ。久しぶりだね。おかげで事業が上手くいっている」

 ジスラン・ラ・ヴィアルドー公爵は元気そうだった。

 横にいるカリーヌはスカートの端を持って礼をした。

 僕も答えるように胸に手を当てて貴族の礼をした。

「それは良かったな。こちらはこのざまだ。居心地が悪い」

 導師は苦笑いをしていた。

 本心では喜んでいないようだ。

「それは仕方ないよ。この子は嫌でも目立つ。男爵だってなるべくしてなったと思うよ」

「そうか? ちょっと変わった子供なだけだろう?」

「その認識は改めた方がいい。この子はもっと大きなこともできるよ。それだけの知恵はある」

 ジスランが持ち上げるが僕にはむずがゆい。

 僕は前世の記憶でズルをしているだけだ。それに、戦略級魔術を最後に何も思いつかなかった。

 カリーヌは僕に微笑んだ。

 僕は顔が熱くなるのを感じた。

 何か恥ずかしい。

「カリーヌ。貴族のたしなみを教えてあげなさい。シオン君には何もわからないからね」

 ジスランはカリーヌにいった。

 カリーヌに手を掴まれて引っ張られた。

「友達を紹介するわ。久しぶりに宴に出てきたから」

 そういってテラス席に引っ張った。

 そこには逃げるかのように柵に身を乗り出していた女の子がいた。

「レティシア。貴族でない貴族を連れて来たわよ」

 レティシアと呼ばれた女の子は柵から身を引いた。

「……ここに居るのは。貴族だけよ。そうでなければ、いられない」

 刺々しい雰囲気をまとった女の子はいった。

「違うわよ。シオンは商家の生まれよ。それが出世して男爵になったの」

「この子が?」

「ええ。叙任式を見たでしょう?」

「でも、士爵が男爵になった。それだけよ」

「その前にも叙任式をしたのよ。その時の身分は奴隷よ」

「ウソ。奴隷が士爵に成れないわ」

「でも、なったわよ。ザンドラ・フォン・ランプレヒト公爵が保証してくれるわ」

「本当なの?」

 レティシアは僕の後ろを見た。

 背後を振り返ると、どこかで見た大人の女性が立っていた。

「本当よ。元は商家の子だけど、奴隷として売られたわ。そして、ランプレヒト公爵に買われた。その後、龍族に呼ばれた。それで、貴族の面子を守るために士爵の爵位を与えられたわ。龍族が呼んだのは平民だと、貴族の面子が潰れるからね。そして、今度は龍族ばかりでなく有翼族とも関わったの。その時に、戦略級魔術を使って悪い有翼族を退けた。今回は貴族として任命することで、戦略級魔術師を手放さないための叙任式よ」

「それだけ力があれば、貴族になる必要なんてないでしょう?」

 レティシアは怒っていた。

「人は一人で生きていけない。それに、この子に一人で生きていけというの? パンの焼き方も知らないのに」

 レティシアは僕を見ると、怒ったままそっぽを見た。

「シオン君に失礼よ。これは貴族でなく人として悪いのはわかっているでしょ?」

「……わかっているわよ」

 レティシアは僕を見る。

「ごめんなさい」

 レティシアはぼそりといった

「いえ、普通でないのはわかっていますので、気にしないでください。導師も宰相も今回の件では頭が痛いようですから」

「あら、本当? 宰相が胃が痛いといっていたのは本当みたいね」

 女性は笑っていた。

「こんにちは。アルメルおば様」

 カリーヌはドレスの端を持って貴族のあいさつをした。

「遅ればせながら、シオン・ブフマイヤーと申します。よろしくお願いします」

 僕も続いて胸に手を当てて貴族のあいさつをした。

「うん。二人とよくできているわ。文句はつけられないと思うわ」

「ありがとうございます」

 カリーヌはよろこんだ。

「お母様。それは私はできていないというの?」

 レティシアは不満そうだった。

「あら、あなたは貴族が嫌いなんでしょう? あいさつに興味があるの?」

 アルメルはいった。

「そうだったわね。お母様はここに居ないで貴族のつながりを大切にすれば?」

「あら。あなたはわかっていないわね。ここに居るのは、シオン君がいるからよ。今日の主役だからね。それに仲良くしたいわ。ランプレヒト公爵が後見人だからね」

「やっぱり貴族ね。ヘドが出るわ」

「それは自分にもいえることよ。貴族は才能ではなく血でなるもの。血統でしか本当の貴族には成れない。私から生まれたあなたは貴族から逃げられないのよ」

「それが嫌なのよ」

「恵まれているとわからないようね。我が子ながらがっかりさせてくれるわ。シオン君を見習って欲しいわね」

「何を見習うの?」

「覚悟ね。シオン君は自分の作った魔術で貴族をしなければならなかった。それは、貴族になることで、この国にケンカを売らないと宣言することになる。だから、大きな力を持ったから自由を捨てたの。それぐらい、察して欲しいわね」

 カリーヌと同じぐらいの歳であるのなら、九歳か十歳だろう。そんな年頃の女の子に理解しろというには無理だと思った。

「わかっているわよ」

「本当に?」

 アルメルは微笑んでいた。

 レティシアはフンと鼻を鳴らして庭を見た。

「今度、二人でいらして。この子とお茶をして欲しいの」

「もちろん。友達ですから」

 カリーヌは笑顔でいった。

「はい」

 僕はよいのかわからないがうなずいた。

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