戦略級魔術師と養子06
『よく来た。時間がないからすぐに手に乗ってくれ』
龍は急かした。
だが、出された手は一つだった。
『保護者の席はないのか?』
導師は龍にコールの魔術を飛ばした。
『事情が入り組んでいる。保護者の席はない』
『シオンは子供だ。まだ、目を離せない』
『それでもだ。では、連れて行く』
『私も行くぞ』
導師はボードに乗った。
『私たちに任せて欲しい。種族間の問題に人族を入れたくない』
『シオンは人族だ。なら、私にも関係がある』
『私たちがこの子供を殺すかもしれない。人族が生きるために』
『なら、なおさらだ。連れていけ』
龍は沈黙した。そして、背後の仲間を見た。顔を向けられた龍はうなずいていた。
『わかった。連れて行く。だが、保護者だけだ。国の関係者には遠慮してもらう』
『なら、さっさと連れていけ。宰相の馬車が来ている』
龍は導師も連れて浮島へと飛んだ。
浮島は静かだった。静まり返っていると感じた。
導師は貴族らしく足音を立てて島の中央に歩く。僕もそれに習って進んでいった。
龍族の会合をした広間では先客がいた。
人族の女と姿は似ているが、背中から白い羽が生えていた。
有翼族だろう。本で知った天使のような絵と同じようなかっこうをしていた。
龍族は騒がしいが、有翼族は一人でその中にいた。
有翼族は振り返った。
『あら、遅かったわね。では、死んで』
有翼族の女は手を振るった。
それは魔術が日常であり当たり前に発生させている動きだった。
僕はそれにみほれた。防御も何も忘れて魔力の流れと動きにくぎ付けになった。
気付いたら、目の前に大きな火の弾が飛んでくる。避けることもできない。
しかし、導師が水の障壁ではばんだ。
『どういうことだ?』
導師はそこにいる皆にコールを飛ばした。
有翼族は広間に立っていた。
『その子供は爆弾でしかない。人族の存続のために消しに来ただけだ。感謝はされども、避難されるいわれはない』
『勝手に決めないで欲しいな。こいつは生きている。物のようにいうな』
『愛情は持っているようだ。しかし、他の人族が知ったら、忌み嫌われるのはわかっているだろう?』
『ああ。だが、こいつは生きようとしている。それを阻むなら、私は有翼族だろうが人族だろうが敵になる』
『ご立派。だから、私が汚れ仕事をしようとしているんだ。邪魔して欲しくないな』
『独善は悪だと習わなかったのか?』
導師は不快そうにいった。
『私が間違えているというのか?』
有翼族の女は攻撃的な顔をした。
『お前の話には一理ある。だが、感情が抜けている。それでは、人族は理解できない』
『私たちのエサのくせして生意気な』
有翼族は人族の感情の時に出るエネルギーを食べている。
嬉しいや愛おしい、感謝などのポジティブな感情は美味しいらしい。その反対の感情である、憎しみや恐れ、絶望を好む有翼族もいる。どちらにしても、人族に関わりがあった。
『ただのおやつだろ? 有翼族ならマナだけで生きていけるはずだ。お前たちのデザートのために死なす気はない』
導師はいった。
『なら、その子供と一緒に消えるか?』
『消える気もない。それに、こいつの問題は日に日に改善されている。今、手を出す方が危険だ。それぐらいわからないのか?』
『答えはわかった。その子供と一緒に消えろ』
有翼族の女は手を振るった。
振るった先には風の魔術である振動弾が何十発も出ていた。
僕はマネて手を振るう。そこにはブレイクブレットの弾が何十発も飛んでいた。
空中で魔術が衝突して、風が巻いて踊った。
その乱気流の中、有翼族の女は上に飛んだ。
『来たれ』
有翼族の女は叫んで、手のひらから光る魔術を頭上に飛ばした。
遠くの雲の上から翼の生えた人々が現れた。
『龍族の長よ。その子を殺すなら見逃そう。だが、殺さなければ滅んでもらう』
有翼族の女は宣言した。
僕は魔術を放つか考える。だが、いきなりの本番だ。上手くできるかわからない。それに、放とうとしているのは戦略級魔術。王都一つは消せるはずだ。
僕は導師を見る。
「何だ? 龍族が敵になったら逃げるぞ」
「はい。わかっています」
龍族は長老を中心に話し合っていた。
「……戦略兵器ができたら、怒りますか?」
僕は導師にきいた。
「今なら許す。というか、全力を出せ。全てを出さないと死ぬぞ」
「わかりました」
僕はズボンのポケットに手を入れた。そして、鉄の玉を握る。
二つ握ると転移の魔法で飛ばした。
エネルギーは質量と光の速さの二乗で表せる。もし、光の速さより速い速度で物体がぶつかった時、無限ともいえるエネルギーが放出されるはずだ。
その光速より速く物体をぶつける方法がある。転移の魔法だ。二つの物質をぶつかるように同時に転移した時、二つの物質は光よりも速くぶつかる。転移の魔法では物体を押しのけて現れる。二つが押しのけて現れるのを利用すれば莫大のエネルギー得られるはずだ。
それを証明するかのように、遠くの空には太陽のように光った。そして、ドスンと音をして爆風を起こす。その爆風はきのこ雲を作った。
有翼族は太陽が現れたかのような巨大な火球の中に消えていった。
実験は成功らしい。だが、今は戦っている最中だ。喜んでいるヒマはない。
『何をした!』
有翼族の女は怒鳴った。
『人族を下に見た罰だ。おぬしの傲慢が招いた結果だよ』
龍族の長老は穏やかにいった。
『認めん。認めんぞ。私、自らがほふってやる』
有翼族の女は僕に向かって手を振るった。
そこには大きな火球が現れた。
僕は有翼族の女に指を指す。すると、指先から太いプラズマが走った。プラズマの魔術だがオリジナルなので名前はない。
それは火の玉を消して有翼族の女に迫った。
しかし、攻撃は避けられたようだ。カウンターを避けるとは思いもしなかった。
『有翼族の女子よ。人族の力はわかっただろう。素直に退け』
龍族の長老はいった。
有翼族の女は苦々し気に僕を見ている。しかし、逃げることも戦うこともしなかった。
そこに落雷が落ちた。
いや、それは有翼族の男だった。雷をまとって現れたようだ。
有翼族の女は空から落ちてきた。その体は肩から切られて二つになっていた。




