龍と人間爆弾08
僕は自分の部屋に帰るとベットに寝転んだ。だが、頭は冴えていて眠れそうになかった。
いつ爆発するかわからない核爆弾が街中にある。そう考えると、怖いだけだ。他人なら山奥へと廃棄するだろう。だが、導師は違った。わかっていて家に住ませている。
その胆力はすごいと思うが、それでいいのかと考える。だが、自分のすることは一つしかない。
魔力を飼いならし固体化するだけだ。それまで、修行を進めなければならない。
自然と瞑想状態に入る。そして、腹の魔力を体に回して練って凝集することに集中した。
二、三日経った頃、また王に呼ばれることになった。
隠し事がバレたと恐れたが違った。僕を『術士』という騎士に並ぶ士爵とするからだ。
術士は騎士と同じ階級で一番下の準貴族になる。準貴族になる理由は龍族との一件らしい。
龍族の長と話をする者が平民では貴族の誇りが傷つくらしい。それゆえ、準貴族として称号を与えるようだった。
家の中はあわただしくなった。
術士として叙任式に出席するためだ。そのためのローブや杖をそろえないとならないらしい。
ノーラに体を採寸された。式のために服を作るらしい。
騎士とは違って鎧はいらない。なので、ローブと杖は新しく叙任式用に導師に買ってもらった。
杖は変わっていて黑い棒だった。宝石も槍の穂先もついていない。質素なものだった。
だが、この杖に使われている金属はノクラヒロという精神感応金属である。普通の魔石付きの杖より魔術の力を増幅させる一品だった。
だが、見た目は金属の棒である。重いはずだが軽かった。中身は空洞らしい。しかし、剛性は強く鉄の棒より硬いらしい。
導師は本気で叙任式を望んでいるのかわからない。だが、杖に使われた金貨の数は普通ではない。金貨の入った小袋をそのまま渡しているのを見たからだ。
「シオン。ローブにドラゴンのうろこを使ったら貴族は驚くと思うか?」
導師はそんなことをいった。
導師のいたずら心はうずいているらしい。
「杖だけで十分です。わかる人にはわかるんですから」
「だけど、気付かない貴族は多いぞ。杖など持たないからな」
「だからって、ローブを鉄の鎧より硬くする必要はないです」
「うーん。面白いと思ったのだが……」
導師の遊び心をよそにノーラは忙しかった。
式典用の服装を特注で頼まなければならないからだ。なぜなら、六歳の式典用の服はないからだ。
ノーラの頑張りで式典に必要な服や道具は間に合った。
式典は城の謁見の間で厳かに進んだ。
王がひざをつけた僕の肩に持った杖を当てる。そして、決まり文句を並べる。
「我、汝を術士に任命す。謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、民を守る盾となれ」
王は威厳ある声でいった。
「はい。誓います」
僕はいった。
「うむ。その誓いを忘れずに励んでほしい」
王に杖を渡された。
杖を渡されると拍手が起こった。
王は自分の玉座に戻って座った。
僕は一礼して下がった。
宰相が前に出る。
「ここに一人の術士が誕生した。皆は彼を導いて欲しい」
再度、拍手が起きて式典は終わった。
式典が終わると祝宴が始まった。
貴族は祝宴を開く理由があると集まるようだ。
導師はグラスを持ちながら優雅に歩く。そして、他の貴族にあいさつして回った。
術士である僕は導師の後に付いて回って、偉い貴族にあいさつしていた。
導師には親しい貴族はいる。僕が思ったより数は多かった。
「この歳で術士か。息子がすねる理由がわかるよ」
導師と同じ年らしい聡明そうな男はいった。
導師とは知り合いらしい。導師に向ける目は、力強い上に優しさが混じっていた。
「こいつは特別だ。それに理由が理由だ。本当なら蹴ってもいい話だ」
導師は答えた。
「そういわない。この子が傷つくよ」
「シオンなら問題ない。元から貴族になろうとは思っていないからな」
「まあ、この歳で貴族になろうとか考えないね。僕なんて家庭教師からどう逃げるか考えていたね」
男は笑った。
「まあ、貴族なんて、生まれた家で決まるものだ。選ぶ方が無理なのさ」
導師は苦笑いをした。
「否定はしないよ。平民と貴族。どうあがこうとも生まれという隔たりがある。だが、優秀かは別なんだよね」
「まあ、そういうヤツは召し上げればいいだけだ。貴族社会である時点であきらめている」
「本当にそうかい?」
「違うように見えるかね。これでも貴族社会に染まっていると思っているよ」
「なら、彼は召し上げたのかい?」
男は僕を見た。
「いや。勝手になった。本当は下男として普通の生活をして欲しかったよ」
導師はため息交じりにいった。
「可愛がっているようだね。でも、君らしくない。心変わりでもしたかい?」
「成長したといってくれ。私は冷徹な人間ではないと思っているよ」
「そうだね。前よりトゲがなくなった。話しやすくなったよ」
男は優し気に微笑んだ。
導師は男の微笑みに不快な顔をする。
「ふん。変わったのはわかるが、それほどではない。相変わらず他の貴族には嫌われているよ」
「まあ、貴族は能力より血統にしがみ付いているからね。君とは正反対だから気になるのさ。それに本当に嫌っているのなら無視をしている」
「そうだな。私を視界に入れない貴族はいる。だけど、お前も私と似たようなものだろう?」
「否定はしないよ。でも、貴族社会に染まる努力はしているよ」
「そんなことをいっている時点で染まっていない。普通の貴族ならそんなことを気にしないからな」
「まあ、そうだね。それより、この子を僕の娘の家庭教師にできないかい? 無詠唱魔法の先生として」
「本気か? 私の記憶ではシオンより年上だろう? それにお嬢様の相手をできるとは思えないよ」
「普通ならそうなんだけど、手のかかる子でね。無駄に頭が良くって手を焼いている」
「娘の自慢かい? それなら、お断りだ」
「いや、家庭教師が次々と辞めていくんだ。だから、年の近い子なら適任かと思ったんだ。助けると思って力を貸して欲しい」
「何を企んでいる?」
導師の声に力が入っていた。
男を警戒したようだ。
「ちょっとしたショック療法をしてもらおうと思っただけ。この子を見れば、自分が知っている世界が狭いと理解できると思ってね」
「シオンは貴族のあいさつどころか、コミュニケーションが苦手だ。お前の話では役に立つどころか逆に傷つく。だから、この話はなしだ」
「その子を箱入り娘にする気かい?」
「娘ではないが、外に出すのはかまわない。しかし、貴族相手には慎重にならざるを得ない。だから、もう少し貴族というものを知ってからにして欲しい」
「なら、遊び相手では、どうかな? 年下の男の子はいないから」
「息子はどうした? 確か、娘とは年の離れた兄がいただろう? それも双子が」
「ああ。でも、歳が離れているからか、娘に甘いんだ。二人して甘やかしている。なので、期待できない」
「そうか……。だが、貴族としての教育ができてからだな。まだ、目を離せない」
「なら、私の方で教育しよう。そうすれば君は研究に打ち込める」
「今は間に合っているよ。……だが、遊びに行くのもいいだろう。シオンには友達がいないからな」
「なら、決まりだ。近い内に二人で遊びに来てくれ」
「ああ。久しぶりだが遊びに行く」
「約束したぞ。では、私は他の貴族にもあいさつに行く。また、後で」
男はうれしそうに導師の下を離れた。
導師は僕を見た。
「お前は嫌か?」
先の話をしているようだ。
「友達になれるかわかりませんけど、問題ありません」
僕がいうと、導師は難しい顔をする。
「そういうところが問題なんだよな」
導師はボソッといった。




