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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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10/32

異世界とコイルガン10

 家に帰り、夕食の席で闘技場の話をした。

 アナは小さく拍手をして喜んでいた。しかし、導師は難しい顔をしている。

「導師が反対なら断ります」

 導師は考えてる顔を上げて僕を見る。

「闘技場に出る意味はわかっているのか?」

 導師が静かにいった。

「わかりません。僕の予想では修業の成果を見たいだけかと思います」

「まだまだ、子供だな」

 導師はクスリと笑った。そして、言葉を続ける。

「あの闘技場は平民にとっては願ってもない出世の機会だ。魔獣相手に一人で戦えるとわかったら、貴族が側に置きたくなるからな。だから、アドフルは出世の機会をくれたんだよ」

「ですが、導師の元を離れる気はないですよ。あくまで、魔術師ですから」

 僕は不満な顔を作った。

「それはありがたいね。でも、私は私より上の貴族には逆らえない。手放す可能性もある」

「では、断ります」

 導師は黙って考え込んだ。

「……いや、出場しろ。それだけの力はあるはずだ。私が手放すとしても、その先ではここより好待遇であつかわれる。お前をしばる気はない」

「ですが、魔術の研究とかできなくなりますよね? それだと困るんですが……」

 僕には導師の屋敷は自由であり、魔術を研究するのに良い環境だった。

「この期におよんで、魔術の研究か。保身を考えるようになれ」

「そうですか? 僕はここで満足してますよ」

「まったく、困ったヤツだ……。だが、闘技場には出ろ。実戦を経験して来い。後のことは私が何とかしてやる」

 導師は顔を背けて、それ以上は何もいわなかった。


 アドフルに報告をすると闘技場の出場はすんなり決まった。

 次の休日に出場するらしい。

 闘技場は娯楽施設である。つわものが魔獣と戦うエキサイティングな娯楽だった。もちろん、博打も行われている。どちらが勝つのか、券を握りながら応援する。日頃のうっぷんを晴らす、娯楽の一つだった。

 僕は待機室で槍を持って部屋の隅で待機していた。呼ばれる順番はわかっている。

 控えている選手は一人一人消えていく。それは勝ったのか、負けたのかわからない。会場の歓声を聞いて想像するだけだった。

 僕の名前が呼ばれた。

「はい」

 そう答えて、伸びをする。

 待ち疲れたからだ。

「余裕があるな」

 係員と思える衛兵にいわれた。

「いつ何時でも、戦えるようにしておけと教わりましたから。今からでも、トップギアに入れられますよ」

「トップギア? 何をいっている。それより、来い。もうすぐ出番だ」

「はい」

 僕は衛兵の後に続いて行った。


 まず最初に僕は闘技場の中央に立たされる。魔獣は調教師に縛られて後からやってくるので待たなければならなかった。

「おい、まだ子供だぞ。あんなんで戦えるのか? 獲物は槍だし」

 観客の話し声が聞こえた。

 観客として参加したことがあるが、僕に対するヤジが聞こえるとは思いもしなかった。観客席にいた時は雑音に混ざったからだ。

 サッカー選手も同じ思いをしたのかと考えていると、鳥のような声が聞こえた。

 その方向を見ると、調教師に縛られた魔獣が通路に顔を出していた。

 見た目はグリフォンに似ている。僕より背が高く獅子の体、顔は鷹のような顔。頑強そうなワシ爪。変わっているは、尻尾が蛇だった。そして、肝心の羽はなかった。命名されていない魔獣のようだ。

「キエェー」

 格子の柵の向こうから魔獣が吠える。

 格子の柵が開くと、魔獣は拘束を解いて闘技場の中央まで駆けてきた。そして、ほえた。

 僕は臨戦体型に入っている。魔術はいつでも発動可能。槍は魔獣を指していた。

「キエェー」

 魔獣は再度、ほえた。

 咆哮ほうこうに体はビリビリと感じている。しかし恐怖はなかった。理由はわからない。ただ、相手が強いとは思えなかった。

「ブレイクブレット」

 僕は魔術を展開する。簡単な詠唱と共に水の玉を背後に二十ほど展開した。

「キエェー」

 魔獣は咆哮した。そして、駆け寄ってくる。

 僕はブレイクブレットを放った。

 放った弾は魔獣を蹂躙じゅうりんした。二十の水の玉は魔獣は躍らせるかのように弾けた。

 一発一発の水の弾の破裂に体をくねらせる。そして、突進力をなくし棒立ちになった。

「ブレイクブレット」

 僕は火の弾を発現させる。

 今度は一撃必殺の高火力の一つの火の弾だった。

 僕はそれを放った。その弾は魔獣の口に入る。そして、口の内部で破裂した。

 魔獣は静かになって倒れた。辺りから肉の焦げた匂いと血の匂いがする。そして、魔獣は死んだのか気配が消えていった。

「勝者。シオン!」

 審判らしき人が拡声器のような魔術で僕の勝利を宣言した。

 どうやら、僕は勝ったようだ。だが、実感がない。処理をした。そんな感覚だったからだ。だが、これが勝つということだろう。勝った先には、満足感はない。その代わり、開放感を感じた。

「やりましたよ。導師。勝ちましたよ」

 アナの声が歓声の中で聞こえた。

 だが、声をする方を見ても、導師たちは見つけられなかった。

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