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ポンコツ女王の投資戦記  作者: 未知(いまだ・とも)


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7/10

番外編「遠き星に捧げる想い」

こちらは七夕の夜のために書いた番外編です。

物語の箸休めとして、お楽しみください。

七夕の夜空には、美しい天の川が流れている。


夜の庭園。

女王は織姫を思わせる薄衣をまとい、彦星の装束に身を包んだ軍師と、星空の下を歩いていた。


挿絵(By みてみん)


ベンチの横には鉢に植えられた笹が置かれ、枝に結ばれた短冊が、夜風に揺れてさらさらと音を立てている。


女王が横を見ると、軍師は空を仰いでいた。

モノクルに、星の光が映っている。


「星を見ているの?」


「はい。天の川の両岸の、ベガとアルタイルを探しておりました」


「ベガとアルタイル?」


「織女星と牽牛星——織姫と彦星でございますよ」


「一年に一度しか、会うことが許されないっていう恋人たちよね」


女王も星空を見上げ、はるか遠くの輝きに想いを馳せた。


「……ねえ、軍師」


「なんでしょう」


「軍師は、恋をしたことがある?」


その問いに、軍師はすぐには答えなかった。

ただ、遠い星を数えるように、しばらく夜空を見つめていた。


しばし、時が止まる。


「……恋、ですか」


「うん。……聞いちゃダメだった?」


「陛下は、今宵ばかりはずいぶん大胆でいらっしゃる」


「七夕の夜だもの、そんな話をしたっていいじゃない?」


女王が笑う。

軍師も、わずかに口元を緩めた。


「そうですね。それを恋と呼ぶかはさておき……

 昔、一人だけ、星のようなお方がおりました」


「星?」


女王は大きく瞬きをした。


「高く、遠く、この手では届かない。

 だけど、その光だけで私の進む道を変えてしまった……そんなお方でした」


「それは……好きだった、ということ?」


「さあ……。

 当時の私には、その想いに名前を与えることすら、許されませんでしたから」


軍師の声は穏やかだった。

けれど、月明かりの届かない水底のように、どこか翳りを帯びていた。


「そのお方の言葉ひとつで、私は自分の醜さも、弱さも、戦う理由さえも受け入れることができた。

 もしそれを恋と呼ぶなら……そうだったのかもしれません」


女王は一瞬、言葉を飲み込んだ。


「……その方は、今もいらっしゃるの?」


「いえ」


軍師は星を見上げた。


「もう、地上にはおられません」


「そっか……」


笹の葉が、さらさらと鳴る。


「でもね、私思うのよ」


「はい?」


「その星の方は、きっと幸せだわ」


「……なぜ、そう思われます?」


女王は軍師に振り向いて、微笑んだ。


「だって、今もそんなふうに覚えていてくれる人がいるんだもの」


軍師は一瞬驚いたような顔をして、そして優しい笑みを浮かべた。


「……そうであれば、よいのですが」


「軍師?」


「いえ。少し昔の話をしすぎました。

 ——おや、ご覧ください。あちらに、ひときわ明るい星が」


「もう。話を逸らしたでしょ!」


「戦略的撤退です」


「恋バナで撤退しないでちょうだい」


「恋ほど、撤退判断の難しい戦場はございません」


女王はくすくすと笑った。

そして、傍の笹にかけられた短冊を手に取った。


「……じゃあさ、軍師の願いごとは?」


女王が尋ねる。


「そうですね……」


軍師は少し考え、やがて優しい声で言った。


「今夜、この星空を見上げている方が、明日も笑っておられることを」


「それ、誰のこと?」


「さあ」


「また隠すのね」


「願いは秘めてこそ、星に届くものです」


「本当?」


「少なくとも、私はそう信じております」


女王は唇を尖らせた。

けれど、その横顔はどこか嬉しそうだった。


二人は並んで、天の川を見上げる。


一年に一度だけ会う恋人たちが、夜空の上で静かに瞬いていた。


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