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天使様、兄たちへの贈り物にダンジョンを奔走する

読んでいただきありがとうございます!更新日は火・金・日予定です♩

 ベルダ月(5月)の柔らかな風が、ロドエル魔導学院の窓を揺らしていた。

 先月の「春の野外演習」でのやらかしによる、一週間の草むしりの罰も無事に終わり、初等部2年の教室には、いつもの穏やかな日常が戻ってきている。


 しかし、レオンの頭の中は、授業内容よりも遥かに重要な「ミッション」のことでいっぱいだった。

(今月はアデル兄様のお誕生日だ。そして来月のソリュス月には、ユリウス兄様の13歳のお誕生日……いよいよ、お披露目パーティーが控えているんだよね)


 王国の貴族にとって、13歳は社交界への本格的なデビューとなる重要な節目である。特に、類稀なる才能と商才を発揮し始めている次兄ユリウスのお披露目ともなれば、各方面から注目が集まることは間違いない。


(いつも僕のことを心配して、お世話してくれている大好きな兄様たちだ。今年は、あっと驚くような『特別な手作りプレゼント』を用意したいな)

 レオンは、放課後の自室で、羊皮紙にカリカリと羽ペンを走らせていた。高価な宝石や仕立ての良い服などは、両親や親戚から山のように贈られるだろう。だからこそ、レオンは自分の手で、兄たちの役に立つ実用的なものを贈りたいと考えていた。


(和江おばあちゃんの記憶にある『携帯用扇風機』や『使い捨てカイロ』……あれを魔道具として再現できないかな?)

 王都の夏はジリジリと暑く、冬は凍てつくように寒い。兄たちが快適に学園生活を送れるよう、持ち運びが可能で、周囲の温度を快適に保つ「携帯型・快適温度維持魔道具」を作ろうと思いついたのだ。いわゆる『ポータブル冷温器』である。

 レオンの持つ魔法の知識、そして魔力陣の技術を応用すれば、小型の魔石に術式を組み込むことは可能だ。


(でも、問題は『土台』なんだよなぁ……)

 レオンは、うんうんと唸って考え込む。複数の属性の魔力を安定して循環させ、長期間機能させるためには、魔導伝導率の極めて高い良質な鉱石――例えば『ミスリル』のような素材がどうしても必要になる。しかし、ミスリルは非常に高価であり、子供のお小遣いで買えるような代物ではない。かといって、父マルクや母エレナにお金をねだれば、「手作り」の意義が薄れてしまう気がした。


「……よし、自分で採りに行こう!」

 レオンは、ポンと手を打った。和江おばあちゃんも言っていた。「欲しいものがないなら、自分で作るか、山に採りに行けばいい」と。


「ルチア、ちょっとお願いがあるんだけど」

 部屋で洗濯物を畳んでいたルチアが、パッと顔を上げた。

「はい、レオン様!何なりとお申し付けください!」

「明日のエイド曜(休日)、一緒に王都の近くにある初心者向けのダンジョンへ行ってくれないかな?どうしても欲しい鉱石があるんだ」

「えっ!?ダ、ダンジョンですか!?」

 ルチアは目を丸くした。ダンジョンといえば、冒険者たちが魔獣と戦いながらお宝を求める危険な場所だ。


「大丈夫だよ。王都のすぐ東にある『風穴の洞窟』は、冒険者ギルドが初心者向けに管理している浅いダンジョンだから。出てくるのもスライムや弱い魔獣ばかりだし、第一階層の浅いところなら安全だって、本に書いてあったよ」

 レオンの言葉に、ルチアは少しだけ迷ったが、すぐに力強く頷いた。

「分かりました!レオン様がお望みなら、たとえ火の中水の中、ダンジョンの中へでもお供いたします!私の『魔力圧縮パンチ』で、レオン様には指一本触れさせませんから!」


『ボクも行くー!』

 足元の影から、使い魔のモリィがひょっこりと白い頭を出して尻尾を振った。

「うん、モリィの『レーダー』があれば百人力だよ。アデル兄様やユリウス兄様には、絶対に内緒だからね。サプライズなんだから」


 こうして、レオン、ルチア、モリィの3人(2人と1匹)による、極秘の素材採取ミッションが幕を開けた。


 ◇


 翌日のエイド曜。レオンは、演習用の革鎧に身を包みレイピアを腰にさし、ルチアも動きやすい簡素なズボン姿に大ぶりのハンマーを背負っている。二人とも、いっぱしの小さな冒険者だ。


 王都の東門から徒歩で一時間ほどの場所にある『風穴の洞窟』は、その名の通り、常に微かな風が吹き抜ける、比較的明るく乾燥したダンジョンだった。入り口付近には、薬草採取やスライム討伐に来た見習い冒険者たちの姿がちらほらと見える。


「わぁ……本当に洞窟の中に入っていくんですね」

 ルチアが、少し緊張した面持ちで周囲を見渡す。壁面には、ギルドが設置した魔導ランプが等間隔で灯っており、視界は十分に確保されていた。

「慎重に行こうね、ルチア。僕たちの目的は魔物討伐じゃなくて、鉱石の採取だから」

 レオンは、背嚢から小さなツルハシを取り出し、壁の岩肌を観察しながらゆっくりと進み始めた。


『クンクン……あ、レオン様!こっちの壁の奥から、なんだかピカピカした魔力の匂いがするよ!』

 先頭を歩いていたモリィが、ある通路の行き止まりの壁を前足でカリカリと引っ掻いた。世界樹の眷属であるモリィの嗅覚(魔力感知)は、そこらの一流の探索者を遥かに凌駕する。

「本当?さすがモリィだね。ちょっと掘ってみよう」

 レオンは、モリィが示した壁にツルハシを突き立てた。カーン、カーンと小気味良い音が響く。何度か叩いていると、ゴロッと握り拳ほどの石が崩れ落ちた。その断面から、青白い神秘的な光が漏れ出している。


「あっ!これ……ミスリルの原石の欠片だ!すごい、第一階層のこんな浅い場所で、しかもこんなに純度の高いものが見つかるなんて!」

 レオンは目を輝かせた。これほどの質と大きさなら、二つの魔道具を作るには十分すぎる量だ。

「やりましたね、レオン様!モリィちゃん、お手柄です!」

「わふっ!ご褒美、期待してるね!ケーキ、ホールで食べたいなー!」

 目的の品をあっさりと手に入れ、ホクホク顔の三人。これでミッションは完了。あとは安全に帰るだけ……だったのだが。


「よし、それじゃあ帰ろ――」

 レオンが背嚢に鉱石をしまおうとすると……


 ガラガラガラッ……!!


 レオンがツルハシで叩いた壁の奥から、不穏な崩落音が響いた。どうやら、壁の奥は薄い岩盤で隔てられた別の空洞に繋がっていたらしい。ミスリルが埋まっていた部分が崩れたことで、その奥の空間がポッカリと口を開けたのだ。


 そして、その穴の奥から、むせ返るような獣の悪臭と、低くしゃがれた複数の唸り声が漏れ出してきた。

「ギィィ……」

「ギャギャッ!」

「えっ……?」

 レオンたちが呆然と見つめる中、崩れた壁の穴から、緑色の醜悪な肌を持ち、粗末な棍棒や錆びたナイフを握りしめた小鬼――ゴブリンたちが、次々と姿を現したのだ。その数、ざっと見て二十匹以上。


 どうやら、彼らはダンジョンの正規のルートから外れた隠し部屋を、自分たちの巣にしていたらしい。

「ゴ、ゴブリンの群れ……!?なんでこんな浅い階層に、これほどの数が……!」

 ルチアが悲鳴に近い声を上げる。第一階層はスライムや巨大ネズミ程度の魔物しか出ない安全地帯のはずだ。しかし、この群れは明らかに異常だった。

(うわー、僕が壁を崩したせいで、隠れていたゴブリンたちを呼び覚ましてしまったんだ……!どうしてこうなった!)


「ギャァァァッ!!」

 人間の侵入者に気づいたゴブリンたちが、一斉に血走った目を向け、武器を振り上げて襲いかかってくる。

「ルチア、モリィ!下がって!」

(慌てちゃダメだ。相手は数が多い。まずは動きを止めて、各個撃破する!)

「清き流れよ、彼らの足元を滑らせよ!『グリース・フロア』!」

 レオンは、かつて誘拐犯たちを無力化した時と同じ、土と水の複合魔法を放った。ゴブリンたちの足元の岩肌が泥のようにぬかるみ、さらに水圧が彼らの足をすくう。


「ギョエッ!?」

「ギャウッ!」

 先頭を走っていたゴブリンたちが、次々と足を滑らせて折り重なるように転倒していく。

『僕の番だね!』

 モリィが、子犬サイズのまま、弾丸のようなスピードで飛び出した。巨大化すれば洞窟が崩れる危険があるため、彼はあえて小さな姿のまま、転んだゴブリンたちの顔面を強烈な肉球キックで次々と蹴り飛ばしていく。


「ギベェッ!」

「ガハッ!」

 モリィの神聖な魔力を帯びた一撃は、ゴブリンたちを確実に気絶させていく。

 しかし、後続のゴブリンたちが、ぬかるみを避けて壁を蹴り、ルチアの方へと飛びかかってきた。


「ルチア!」

「レオン様には……指一本、触れさせませんっ!!」

 ルチアは、恐怖で涙目になりながらも、両腕に極限まで魔力を圧縮させた。『グレイスフィールド式・三位一体魔力圧縮法』を日々の鍛錬で無意識に使いこなしている彼女の細腕には、今や鋼鉄の扉すら粉砕するほどの物理的破壊力が宿っている。


「やぁぁぁぁぁっ!!」

 飛びかかってきたゴブリンの顔面に向かって、ルチアの渾身のハンマーが炸裂した。

 ドォォォォォォォンッ!!

 まるで大砲を撃ち込んだかのような凄まじい爆音が洞窟に響き渡る。殴られたゴブリンは、文字通り弾け飛ぶように後方へ吹き飛び、後ろにいた三匹の仲間ごと壁に激突して、白目を剥いて崩れ落ちた。


「……ひぃぃぃっ!?」

 残ったゴブリンたちが、その規格外の怪力にドン引きし、一斉に後ずさる。

「今だ!風よ、束ねて吹き飛ばせ!『エア・バレット・乱』!」

 レオンが、風の弾丸を無数に生み出し、逃げ腰になったゴブリンたちに向かって一斉掃射を浴びせた。

「ギャアアアアッ!」

 風の弾丸はゴブリンたちの武器を弾き飛ばし、的確に急所を打って昏倒させていく。


 ものの数分。洞窟の通路には、完全に伸びきった二十匹以上のゴブリンが転がっていた。

「はぁ……はぁ……終わった……?」

「レオン様、お怪我はありませんか!?」

 ルチアが、ハンマーを軽々と持ち上げながらも、慌てて駆け寄ってくる。

「うん、大丈夫だよ。ルチアこそ、怪我してない?ハンマー…すごいだったね…」

「えへへ……無我夢中でした」

『レオン様ー、お腹すいたー』


 三人は、絶命したゴブリンたちの魔石を拾い、目的のミスリル鉱石を背嚢に詰め込み、足早にダンジョンを後にした。


 ◇


 学園に戻った数日後。レオンは、王都にあるグレイスフィールド家の別邸の地下研究室を借りて、一人で作業に没頭していた。母エレナがルチアの指導のために使っているこの部屋には、錬金術や魔道具製作のための機材が揃っている。


「よし、土台のミスリル加工は完璧だ」

 レオンの目の前には、薄くスライスされ、手のひらサイズに磨き上げられた二枚の銀色のプレートがあった。彼はそこに、領地の森で採取していた、小さな『風の魔石』と『火の魔石』を、極細の魔力線で緻密に組み込んでいく。

 レオンは、ミスリルプレートの表面に、エリアスから教わった古代語のルーンを応用した「熱交換」と「送風」の魔法陣を刻み込む。

「熱を吸収して放出する……そして風で循環させる。起動の魔力は、持ち主の体温と微量の魔素で半永久的に稼働するエコ設計だ」


 彼の手元で、カチリと音を立てて二つの小さな魔道具が完成した。

 一つは、深い蒼色の革袋に包まれた、アデル用の魔道具。もう一つは、涼しげな銀色の装飾が施された、ユリウス用の魔道具。


 スイッチとなる魔石の突起を右に押し込むと、ブォン……と微かな稼働音と共に、プレートからキンキンに冷えた風が、左に押し込むと、ジンワリと温かい熱が放出され始めた。夏は冷風機として、冬は懐炉として使える、完璧な「ポータブル冷温器」だ。

「できた……!これなら、きっと兄様たちも喜んでくれるはずだ!」

 レオンは、完成したプレゼントを満足げに眺め、天使のような満面の笑みを浮かべた。


 ◇


 数日後。兄弟だけのささやかなお茶会を、初等部の貴族ラウンジで開き、アデルとユリウスを招待した。アデルの誕生日と、ユリウスの誕生日の前祝いだ。


「アデル兄様、ユリ兄様!少し早いですが、お誕生日おめでとうございます!」

 レオンが、二つの包みを誇らしげに差し出した。

「おお……レオン!私にプレゼントをくれるのか!」

 アデルが、感極まった様子で包みを受け取る。

「俺にも?へえ、なんだこれ。ただの金属板じゃないな」

 ユリウスも、興味深そうに装飾を見つめた。


「それは『ポータブル冷温器』です!右にスイッチを押すと、涼しい風が出て、左に押すと温かくなるんですよ。僕が、一生懸命作りました!」

「手作りだと……!?」

 アデルが震える手でスイッチを入れる。シュゥゥ……と、心地よい冷風がアデルの顔を撫でた。

「なんと……!この滑らかな魔力循環、そして一切の無駄がない術式構造!これが、我が天使の生み出した芸術品か!」

 アデルは、冷風を浴びながら感涙にむせび泣いている。


 一方のユリウスは、その構造を瞬時に分析し、目を見開いていた。

「おい、レオン。これ……土台に使われてるの、純度100%のミスリルじゃないか?しかも、こんな小さい風と火の魔石で、こんな極小の魔法陣で熱交換させてる……。なんだこのオーバースペックな魔道具は。」

「えっ?そうなの?でも、ダンジョンで拾った石と、昔、みんなで夏に領の森でとった魔石だよ?」

 レオンがきょとんとして答えると、二人の兄はピタリと動きを止めた。


「……ダンジョン?」

 アデルの声が、地を這うように低くなる。

「レオン。お前、まさか……私に黙って、危険なダンジョンへ潜ったのか……?」

「あ……」

 しまった。うっかり口を滑らせてしまった。

「……兄の知らぬところで、我が天使が魔獣の脅威に晒されていたとは……!護衛の騎士どもは何をしていたのだ! いや、そもそも私が常に側にいなかったことが最大の失態……!」

 アデルが、修羅の如きオーラを放ちながら、己を責め(そして周囲を呪い)始める。


「まあまあ、兄さん。レオンが無事だったんだし、こんな凄いもん作ってきたんだ。結果オーライだろ」

 ユリウスが、冷風機で涼みながらニヤニヤと笑う。

(それにしても……この技術、金になりそうだな。……また、儲けさせてもらうぜ、レオン!!)

「うゎゎ……アデル兄様、ごめんなさい!ルチアとモリィも一緒だったし、浅い階層だったから安全だったんです!」

 レオンの必死の弁明も、ブラコンを拗らせた兄の耳には届かない。

「安全なダンジョンなど、この世に存在しない!明日から、君の外出には私が必ず同行する!トイレの個室以外は、一秒たりとも離れんぞ!」

「えええええっ!?」


 レオンのプレゼントの完成は、兄たちの深い愛情(という名の過保護と欲望)をさらに加速させる結果となってしまった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

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