バンガール
改めて、私の職位について説明するけど、私の所属は『未来推進課』で、私はその課長なのね。
その割に、これまで担当した仕事と言えば、過去の汚職とか、人間関係とか、『国際法人』なんか私が子供の頃くらいの柵が今頃になって炎上したりね。
全然、未来のことをやってない、と怒られそうな……いや、怒ってんのは、私なんだけどね。
たまには、その名が示すとおりの未来的な仕事をしないとダメだと思ってたわけね。
「ミサちゃ〜ん」
そしたら、人事課採用係長の和田 拓一(以下『タクピン)がすり寄ってきたわけね。
「お綺麗なミサちゃんに、ピッタリのお仕事があるの。
きっと、お気に召すことよ」
おお、そうか。
それは、苦しゅうないぞ。
近う寄って、詳しい話を聴かせてたもれ。
そういって出てきたのは、『ドラッグセンター』の配送をしている光月 あかりさんという女性社員に対して、インタビューをしてほしい、という依頼だった。
要するに、採用で使うためのパンフレット作成が目的で、輝いてる社員を選抜して、ネタにするというものだね。
社内の美的資産の活用で、コストもかからないという利点がある。
そんなことなんで、きっと光月さんは美人なんだろうと思う。
かつて、その対象になったことがある私がそうだったように………なんちて。
さて、タクピンに連れられて『ドラッグセンター』に到着。
『ドラッグセンター』は、製薬会社から委託された医薬品の配送を専門で引き受けているセンターで、納品先は主に薬局、ドラッグストア、病院など。
従業員数は約30名。
配置車両数は25両で、全て最大積載量が1トンのバン車両である。
トラックは無いのね。
売上は、年間で3億円ほど。
仕分業務には関わっておらず、納品先のシールが貼られた小型コンテナの形態で荷を受け取り、そのまま輸送車両に載せて、運ぶだけの仕事だよ。
コンテナの中は見えないから、いったい何を運んでいるのか全く知らされていないのね。
秘密だよ、秘密。
1回の配送で20箇所くらいの納品先を巡るんだけど、全体に容量が小さいので、車両も小型のバン車で済んでしまうのだよ。
この独特な要素が、普通の物流センターでは得られない大きなメリットへと繋がっているところがあるのだな。
それが何かは、この後に出てくるからね。
タクピンと一緒に事務所に入っていったら、さっそく金髪をポニーテールにした超美人が入口付近にいて、私たちを迎えてくれた。
紛れもなく、このヒトが光月あかりさん。
説明不要のわかりやすさだね。
「噂に聞いていたとおり、お綺麗ですね」
これは、私が言おうとしたセリフなんだけど、逆に私に対して、光月さんからそう言われちゃったのね。
キラキラ輝くメイクの光月さんから、職務上の配慮で、質素なメイクしか施していない私に対して、そんな風に言われのは、ちょっと恥ずかしいね。
この恥ずかしいは、「照れる」意味ではなく、「ちょっと情けない」意味のネガティブな方ね。
まあ、そんな細かいことは気にしないで、明るく振る舞っていこう。
「今日は、よろしくお願いしますね」
私とタクピン、そして光月さんは、センターの応接室に移動した。
タクピンの指示で、私と光月さんが向き合って座り、タクピンは録画用カメラを三脚に固定して、撮影の準備を始めた。
ここで、光月あかりさんのプロフィールを簡単に説明するね。
年齢は24歳。
2年前に有名大学を卒業し、新卒採用で市村から内定を出したんだけど、現場の仕事がしたいということで、想定していた総合職を選ばず、乗務員としての労働契約を締結した、という変わったヒトだ。
取得している運転免許が、『AT車限定』のいわゆる『普通免許』なので、小型の『バン車』をメインで使用する『ドラッグセンター』に配属となった。
総合職に就けたのに、なぜ一般職である乗務員を選んだのか?
この点は、インタビューで確認しよう。
「準備OK。始めてもらっても良くってよ」
タクピンの開始の声で、私は絵的に映えるのを意識したニッコリ笑顔に切り替えた。
光月さんも続いてくれた。
ノリが良いね。
こういうのに慣れてるのかな。
「私は、未来推進課の雨森 水咲と申します。
今日は、『ドラッグセンター』で話題のアイドル社員である光月あかりさんのインタビュアーを務めさせていただきます。
光月さん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀をする光月さん。
美人は、何をしても絵になるねえ。
「まず、数多く受けたであろう内定通知の中で、当社を選んだ理由を教えて下さい」
これが、私の第1問ね。
私が以前に社内インタビューで訊かれたのと同じ質問だよ。
光月さんは、私と違って、有名大学を卒業しているヒトなんで、当然、その賢さと美貌を兼ね備えているのなら、多くの会社から内定を得ていたはずだろうからね。
私もエゴいねえ。
「短期間で、お金を稼ぎたかったからです」
これが、光月さんの答え。
タクピンは、かなり驚いた様子だが、私と光月さんのインタビュー設定だから干渉はしてこない。
私には、光月さんがなぜそう答えたか、その気持が何となくわかるよ。
だから驚かなかった。
でも、ここは、私の個人的な受け入れを見せる場ではなく、タクピンのように驚いた素振りを見せるのが、一般的な反応というものだからね。
私も、それに合わせたよ。
「お金が稼げる仕事として、運送会社を選んだのですか?」
「そうです」
光月さんは、きっぱりと答えた。
「運送会社の運転手って、産業統計とかで、割と賃金が低い業種とされていますよね。
時間あたり賃金が、他の業種より2割程度低いと言われています。
お金を稼ぐなら、他の仕事の方が良いように思いますが」
と、まあ、こんな風に私は返したわけだけど、あくまでも『やらせ』だからね。
「それって、男のヒトの話ですよね。
女子の場合は、最初から理由なく下がられた給与で始まって、その後の上昇で差が出てくると思いますけど、それでもドライバーの時間給に追いつくのに何年もかかります。
それに『働き方改革』で、残業がしにくくなっているご時世で、当然に残業が前提になっている数少ない業種ですから。
20代前半女子で、いきなり年収400万円稼げる仕事なんて、そんなに無いですよ」
そのとおり!
私も、女子で、総合職に起用されて、そういう経験をしたからね。
乗務員の仕事をしようかな、って考えたこともあったよ。
でも、この仕事は、始まりが400万円でも、その後にずっと変わらないのが問題だ。
新米も、ベテランも、結局は、仕事内容がそんなに変わらないから。
だから、光月さんも、いつまでも乗務員をやるつもりはないのだろう。
私は笑顔で、
「野心があるんですね」
と、訊ねたら、光月さんはいたずらっぽく笑って、
「あります」
と、答えた。
タクピンは、私と光月さんのやり取りを、目をまん丸にして聞いていた。




