窓際クランの新人戦
場所は変わって新人戦実況席。
ルナとアルフレッドの二人は水晶版の映像越しにダンジョンへと突入していく新人探索者たちを見守っていた。
やはり最初に注目するのは五階層に潜っているパーティだった。
「始まりました!新人戦!予想通り、五チームが五階層に向かったようですね」
「みんなバラバラの転移門に飛んだな」
事前の予定通り、他チームを妨害するために新人戦に参加したパーティはいないようだ。他のチームを妨害しようと思えば、同じ転移門から入って、行方を細かく知る必要がある。全員バラバラの転移門から入ったということはそういう妨害をするつもりはないということだろう。
妨害目的でなくても、事前に調べた場所が同じで偶然同じ転移門から入ることはあるのだが。
「三パーティは割と近めですね」
「そうだな。二大クランのパーティは両端の転移門を使ったようだな。これは毎年恒例で、クラン側からここでスタートするように指示が出てる」
ルナはアルフレッドの方を見た。
「そうなんですか?どうしてまた?」
「新人の実力をはかるためっていうのが一番大きい。ここでの結果を去年の結果と比べてるんだ」
それを聞いて、ルナは納得したようにうなづいた。
毎年同じなので、基本的に他の探索者はその場所を避けることになる。端っこのあまり人気のないエリアなので、地図なども手に入れにくいし、毎年挑戦していて地図などもかなり正確なものを持っている大手クランの独占エリアということだ。
「他三パーティは中央付近の転移門を使ったみたいだな」
二大クランの二パーティ以外のパーティは中央付近の転移門を使っているようだった。
アルティナを挟んで、両サイドにユーリたちのチームとミミたちのチームが突入している。まあ、転移門の間はかなり離れているので、二時間の期間中に出会うことはないだろう。
「中央付近は普段の探索で人気があるから地図も安価で手に入るし、人気が高いんだよな」
アルフレッドはウンウンとうなづきながらユーリたちとミミたちのパーティを見ていた。
「なるほど、おっと!ここでアルティナ様が最初の大型個体に遭遇!」
そんな話をしているうちに、アルティナが最初の大型個体の部屋へとたどり着いた。
部屋についたかと思うと目にも留まらぬスピードで大型個体へと近づき、一刀のもとにジャイアントシーホースを倒してしまった。
その様子をアルフレッドは満足そうに見ていた。
「一撃で沈めたな」
「すごい!凄すぎるー!!これは一位は決まったか!?」
実況席も織りあがっているが、大型の水晶板が設置されている大広間の盛り上がりは相当なものだった。アルティナの人気がすごいということと、その戦い方がすごいからだろう。
「まぁ、当然だな。しかし」
アルフレッドは満足そうにしつつも、さすが大手クランのクランマスターなだけはあり、別のパーティにも気を配っていた。ルナは眉をひそめるアルフレッドを訝しげに見た。
「?どうかしましたか?」
「いや、『紅の獅子』のパーティだが、あの先はモンスターハウスだったはず」
そこで、ルナもユーリたちのパーティを見た。大広間の水晶板の映像もユーリたちに切り替わったようだ。ルナが手元の資料とユーリたちの現在位置を照合すると、たしかにそのままっすぐ進めばビッククラブのモンスターハウスへと突っ込んでしまう。
「道を間違えたんですかね?」
「まあ、本番で道を間違えるっていうのはよくあることだ」
アルフレッドたちはユーリたちの様子を見守っていた。しかし、遠目にモンスターハウスが見える位置になってもユーリたちは足を止めない。
「まさか!モンスターハウスに突っ込むつもりなんじゃ」
たしかにモンスターハウスに突っ込めば多くのポイントを稼ぐことができる。しかし、階層に対して位階が十以上うえじゃないとモンスターハウスに太刀打ちするのは難しい。新人戦についているスタッフは位階が十五以上だからモンスターハウスは潰せるかもしれないが、新人たちの安全までは保証できない。
そして、モンスターハウスはどんどん近づいてくる。
「無茶だ!」
「スタッフ!止めて!」
アルフレッドとルナは聞こえないにもかかわらず大声をあげた。大広間からも悲鳴のような声が聞こえてきた。
誰もが悲惨な結果を予測して目を瞑る中、フィーが一人先行して、モンスターハウスの手前で立ち止まった。そして、小石を拾い、それを数匹のモンスターに向かって投げつけた。ぶつけられたモンスターとその周りの数匹のモンスターがフィーのことを認識し、フィーの方へと進み出した。
結局十匹ほどのモンスターがモンスターハウスから出てフィーの方へと向かってきた。
「な」
「な、なんということでしょう。モンスターハウスから数匹のモンスターだけを誘い出したーー!!」
アルフレッドもルナも予想外の展開に手をきつく握りしめ息を飲んだ。
第三者視点からお送りします。途中でちょくちょくユーリたちの視点を入れるのも考えたんですが、視点が切り替わりまくると読みにくかったので、実況席からのお届けとなりました。