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窓際クランの決戦前夜

 ユーリはなんとかベットに縛り付けれれるのは勘弁してもらった。そんなことされたらぐっすり眠ることができない。結局、フィーとレイラは隣り合ったベッドをくっつけて眠り、衝立を挟んでユーリのベッドを置くことになった。

 ベッドの移動を終えて、ユーリは大きく息を吐いた。


「ふー。これでいいか?」

「・・・大丈夫」


 レイラのオッケーが出たので、ユーリはベッドへと倒れた。ユーリはもうヘトヘトだった。ユーリが目を閉じてもう寝ようとしていると、衝立の向こうから声が聞こえてきた。


「いい?そこから出たらぶん殴るからね!」

「はいはい(そこまでいうなら一緒に寝るとかいうなよ)」


 ユーリが小声で愚痴をつぶやくと、衝立の向こうから人が殺せそうな視線が飛んできた。


「なんか言った?」

「なんでもありません」


 ユーリはフィーからは見えないにもかかわらずベッドの上に正座しながらそう答えた。悲しいかな、ユーリはフィーに逆らうことはできないのだ。

 ユーリたちのそんなやりとりを見てレイラはクスクスと笑った。


「・・・二人は仲良し」

「な!?」


 フィーは顔を真っ赤にした。ユーリはベットにゴロンと寝転がりながら天井を見つめた。フィーと初めて会った日もこの医務室に運ばれたことを思い出した。あの時のフィーは、白の・・・。


「ユーリ?あなた今、何かいらないことを考えなかった?」

「そ、そんなことないぞ?」


 衝立で見ることさえできないのに、どうしてわかったのか?もし、この世界にスキル表記があれば、直感スキルみたいなものがついていたに違いない。

 フィーの攻めるような気配が薄らいだので、ユーリは気を取り直すように大きく息を吐いた。


「まぁ、もう二ヶ月以上一緒に生活してるんだし、当然といえば当然だな」

「まぁそうね。ユーリが来てから、もう二ヶ月になるのね」


 フィーがここ最近の出来事を思い出すようにしみじみとそう言った。

 本当にここ二ヶ月はいろいろなことがあった。


「・・・ユーリもフィーの扱いに慣れてきた」

「そうね。って!扱いって何よ!」

「ははは」


 衝立の向こうから聞こえてくる楽しげな話し声にユーリは笑い声が漏れた。

 つられるようにしてフィーとレイラも笑った。


 少しして、笑い声が止まると、静寂がやってきた。静寂の中、フィーの不安そうな声が聞こえた。


「あした、大丈夫かしら?」


 フィーにとってこのクランは実家みたいなものだ。生まれた時からここで生活している。レイラやユーリより、このクランに対する思い入れは強いだろう。不安になる気持ちはよくわかる。

 ユーリはできるだけ明るい口調で言った。


「まぁ、ここまでくれば、もう、なるようにしかならんさ」

「・・・そう」


 フィーはガバッと起き上がった。


「でも、明日うまくいかなかったら!」

「うまくいかなかったら、次の手を探すさ」


 ユーリが間髪入れずに答えたことで、フィーはあっけに取られたような顔をした。


「え?」

「『銀翼の梟』みたいに何かを研究してもいいし、三人でひたすらダンジョンに潜ってもいい。明日がダメでも俺は諦めるつもりはない」


 ユーリにとって、明日の新人戦は手段の一つでしかない。明日ダメでも次の手をさらにその次の手をとどんどんやっていくつもりでいた。フィーがあっけに取られていると、ユーリはにっといたずらっぽく笑った。


「そんなことよりさ!明日の打ち上げパーティどうするのよ?」

「はぁ?あんた今そんなこと考えてる場合じゃないでしょ?」


 唐突に変わった会話からはユーリのフィーに対する気遣いが感じられた。きっとフィーが張り詰めた気持ちでいることはずっと前から気づいていたのだろう。いつものように攻撃的なセリフを出して見たが、いつものような声が出せた自信がフィーにはなかった。


「・・・ケーキを焼く準備は朝しておく」

「レイラまで」


 レイラもユーリに乗っかるようにそんなセリフを言う。フィーは涙をこらえるので精一杯だった。


「明後日どっか遊びに行かないか?」

「・・・明後日は久しぶりの休みだからミミたちと買い物に行く。だからダメ」


 レイラは首を振りながらそう答えた。ユーリは納得したように「あー」と声を出した。


「先週の日曜日はダンジョンに潜ったもんな」

「・・・センシュウ?ニチヨウビ?」


 失敗したと思いながらユーリは頭をかいた。


「あぁ、俺の故郷の言葉で前の休日のことだ」

「・・・そう」


 そんなレイラとユーリのとりとめのない会話に、フィーの気を紛らわそうとする不器用な気遣いが感じられた。間に挟まれたフィーは嬉しくって、泣いてしまいそうだった。

 フィーは目の端に溜まった涙をぐっと拭った。


「私は賞金で武器を新調しに行くわ!」

「あれ?賞金なんて出るの?」


 ユーリはそんなことを言った。あれほど新人戦について調べていたのに、賞金のことを知らなかったらしい。

 フィーは呆れたように息を吐いた。


「当然でしょ?じゃないと誰も頑張らないわよ」

「・・・新人賞を取った人に賞金が出る」


 いっぱくためてレイラは勝ち誇ったように言った。


「・・・つまり、賞金は私のもの」


 フィーは驚きで大きく目を見開いた。


「あー!ずるいわ!三人で狙うんだからちゃんと三等分しなさいよ!」

「・・・ふふん。そんな決まりはない」


 レイラはプイッと壁側を向いた。

 フィーは後ろからレイラに襲いかかった。レイラは避けるでもなく受け止めた。


「・・・あん」


 ふにょんとかいう音が聞こえたような気がした。どうやら身長の割に大きなレイラの胸部装甲にフィーの手が触れたらしい。


「え、レイラおっきい。前より大きくなってない?」

「・・・あん。ちょ、フィー。きゃ。くすぐったい。やめて」


 フィーはレイラの胸部装甲を両手で掴んだ。レイラも抵抗はするが、軽戦士のフィーに魔導師のレイラが敵うはずもなく、良いようにされていた。


「おんなじ物を食べてるはずなのに、レイラばっかりずるい!」

「おいおい、明日は大事な新人戦なんだから程々にしてちゃんと寝ろよ」


 さっきまでの緊張感はどこへ行ってしまったのか、女子二人は楽しそうにきゃあきゃあ騒ぎ出した。

 ユーリはあまりにうるさいので衝立の方に向かって注意をした。しかし、効果はないようで、衝立の向こうからは艶めかしい声が聞こえてくる。


「・・・もういい加減に。きゃあ」

「ちょ、レイラ。きゃあ」


 そして、暴れすぎたため、ついたてが倒れてあられもない姿の二人がユーリの前に現れた。

 ユーリは一瞬みほれた後、はっと我に帰り、左手を突き出して弁明をした。


「まて。話せばわかる」

「「きゃあああああ」」


 フィーとレイラが投げたそれぞれの武器がユーリにクリーンヒットした。

 次にユーリが気づいた時、新人戦当日の朝が来ていた。理由はどうあれ、ユーリはこの日、ぐっすりと寝ることができた。

衝立から出てきたフィーとレイラの描写を細かく書いたのですが、ちょっとやばいかなと思って消しました。

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