窓際クランの決戦前日3
ユーリはリュウをクランハウスの外まで見送りに行った。
ユーリがロビーに戻ると、レイラが真剣な顔でリュウからもらったエントリーの一覧を見つめていた。
ユーリはレイラの隣の席に座ってレイラの持ってる一覧を覗き込んだ。
「レイラ。気になるクランはあるか?」
「・・・どこも予想通り。ただ、アルティナ様のところが」
エントリーの一覧はパーティごとに四角い枠で囲われていた。
そんな中で、アルティナの名前を指差しながらレイラは一覧をユーリに渡した。ユーリは受け取った一覧のアルティナの欄を確認した。
「アルともう一人だけか」
本来、新人は三人以上でパーティを組むことになっているが、新人戦では録画担当のギルド職員がパーティメンバーとして一緒に潜ることになるので、最低二人でいいことになっている。新人戦は新人にとって重要なイベントなので、普段より縛りが緩くなっているのだ。
新人戦は新人の登竜門の一つになっている。スタートは皆横並びのため、新人戦まではクラン内でパーティーを組むのがメジャーだが、ここからは自分たちでパーティを組み直す。そこで指標となるのがこの新人戦の結果だ。パーティ内の序列や報酬配分などにも影響することがあるらしい。
そのため、より多くのポイントを稼ぐため、新人戦だけパーティを二つに分けて行動するなんてこともある。
だから単身で戦うタイプのアルティナも、他のパーティメンバーがポイントをたくさん稼げるように二つに分けたと言うのも十分に考えられる。
「・・・ユーリの予想通り、足手まといを切り捨てたってことかな?」
「そんな気がするな」
だが、ユーリから見たアルティナの強さを考えれば、去年の最高ポイントを取りながら仲間に一定のポイントをとらせることは難しくなさそうだった。アルティナの性格を考えるとそうするのが当然とか言いそうな気もする。それをしなかったということはユーリたちを相当警戒しているのだろう。
ユーリは一覧を机の上に置くと、その一覧をフィーが手にとった。
「あの子が本気を出すなんてね」
「周りのポイントも考えて戦ってくれれば楽だったんだけどな。やっぱり一筋縄ではいかなさそうだな」
椅子の背も耐えにもたれかかり、天井を見つめながらユーリはそういった。
レイラは何も言わずに立ち上がり、キッチンへとつながる扉の方に歩いて行った。
「・・・私たちがやることは一緒」
「そうね。とりあえず腹ごしらえよね」
フィーは一覧を机の上に放り出してレイラの後を続こうとした。しかし、キッチンへとつながる扉の前でレイラはフィーを当せんぼするように立ちはだかった。
「・・・フィーはキッチンに来ちゃダメ」
「どうしてよ!?」
ユーリはフィーが放り出した一覧を暖炉へと投げ入れ、火をつけて処理した。そして、横目で最近よくみるようになった二人のやりとりをみて苦笑いをした。
「・・・まだ卵焼きの合格が出てない。昨日作ったダークマターの事、もう忘れた?」
「うっ」
フィーは横目で最近ずっと試食をさせられているユーリを見た。昨日のことを思い出したのか、ユーリは感情の伺えない空虚な瞳で燃えていく資料を見つめていた。
***
夕食はレイラとユーリで作り、フィーは盛り付けなどで貢献した。
レイラが下ごしらえした料理は美味しくて、ユーリは少し食べ過ぎてしまった。
夜。ユーリがトイレに起きると、書庫から光が漏れていた。扉を開くと、レイラが一人で本を読んでいた。扉が開く音が聞こえたのか、レイラは顔を上げてユーリの方を見た。
「レイラ。ねれないのか?」
レイラは持っていた本をゆっくりと閉じて、コクリとうなづいた。
「・・・ユーリも緊張して眠れないなんていう繊細な神経を持ってたなんて。意外」
ユーリは苦笑いを浮かべながら書庫に入り、後ろ手で扉を閉めた。
「悪かったな、朴念仁で。今も晩御飯を食べ過ぎてお手洗いに起きただけだよ」
レイラは一瞬目を見開いた後、クスクスと楽しそうに笑った。
「・・・ユーリらしい」
ユーリはレイラのとなりに椅子を前後逆に置いて座った。
「無理にでも寝た方がいいぞ?布団の中で目を瞑っているだけでもだいぶ違う」
「・・・うん」
よく見ると、本を持つレイラの手は少し震えていた。
「悪いな。きつい役割をお願いして」
レイラは首を振った。
「・・・辛くはない。むしろ、みんなの戦果を譲ってもらって申し訳ないくらい」
実は、新人戦は個人戦だ。最後にとどめを刺した探索者にだけポイントが入る。同じパーティを組んでいようが、とどめを一体も刺さなければ、1ポイントも入らない。
明日は全てのトドメをレイラが刺すことによって、ポイントをレイラに集める予定だ。新人王を取るためには他の方法は考えつかなかった。そのため、レイラにかかるプレッシャーは相当なものになっていると思う。
ユーリがレイラの手を取ろうと手を伸ばしていると、バン!と音を立てて扉が開いた。
「あんたたちこんな大事なときに何してんのよ!」
「・・・フィーもねれないの?」
攻撃態勢に入っていたフィーはどこか不安そうなレイラの言葉に事態を察したのか、振り上げた拳を下げた。
フィーが聞き分けがいいなんて、明日はせっかくの新人戦なのに雨が降るかもしれない。
「もってことはあなたたちもなの?」
どうやら、フィーも緊張してねれなかったため、レイラの気持ちがわかったからすぐに落ち着いたようだ。ユーリは何かを思いついたようにぽんと両手を打った
「二人で寝たらどうだ?一緒に人がいるだけでだいぶ違うもんだぞ?」
フィーは腕を組みながら訝しげにユーリの方を見た。
「ユーリはどうするのよ。まさか覗く気!?」
「いや、覗かねーよ!ってか、何を覗くんだよ!?」
ユーリは少女の寝顔を除いて喜ぶ変態趣味を有しているわけではない。
ユーリとフィーがそんな話をしていると、レイラは何かを思いついたように顔を上げた。
「・・・ユーリも一緒に寝る?」
「いや、だめだろ。フィーもなんとか言ってくれ」
ユーリは驚きで目を見張りながら立ち上がった。
「そうね、目の届くところに置いておいたほうがいいかもね。確か医務室には病人が暴れないように縛り付けられるベットがあったはずだし」
「へ?」
フィーはそう言ってユーリの右腕をホールドした。
「・・・明日は本番。ユーリもぐっすり寝られた方がいい」
レイラが反対の腕をホールドした。
「いや、ちょ」
「今日だけ特別なんだからね!手を触れたりしたらぶん殴るわよ!」
真っ赤な顔でフィーはそう言った。
反対を見ると、レイラも少し楽しそうに笑っていた。
「・・・もう決まったこと、諦めてついてくる」
「さぁさぁ。行くわよ!」
フィーとレイラはユーリを引きずりながら医務室へと向かった。




