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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第93話 1回飯抜いたら死ぬ

 大洞窟を後にする。ここにはもう用は無い。


 そもそもちょっと確認に来ただけだ。弁当まで持ってピクニック気分だ。それなのに、なんか死にかけた。




 俺の左手をペタがしっかり握っている。この家出幼児は俺からも逃げようとしたが、グリードベアとの遭遇戦そうぐうせん後なんだかウヤムヤになって、この通り元通り、に見える。だがウヤムヤは良くない。


「ペタ、ごめんな」


「ハルキ、ごめん」


 お互いに一言ずつだ。だけど言うか言わないかで全く違う。これでようやく本当に元通りだ。お母さんともこうやって仲直りすればいい。簡単だろう?まあ俺が言うべき事じゃないけど、そういう風に感じてくれればいい。年長者からの無言の教えだ。


「それと、やいたにく、ぜんぶたべてごめんな」


 はっはっは。それは許さんよお。顔には出さないけどな。今夜は精進しょうじん料理にしようか。肉抜きだったら精進料理って事でいいんだよな。豆腐すらないけど良いか。


 ペタがブルブルっと震えた。流石は野生児、勘が良いな。




 仲良し兄妹モドキに戻った俺達は、のんびりと森を歩いている。たとえここがモンスターパラダイスな上にグリードベアまで出てしまう地域になったとしても、俺達の周りは静かなもんだ。


 俺の右手には、骨を粉々にする程の蹴りと、大量の矢を浴びて結構ひどい事になったグリードベアの生首がぶら下がっているし、俺もペタも血まみれだ。傍目はためにはおぞましい光景かもな。猟奇りょうき殺人ならぬ猟奇りょうき殺クマ兄妹だ。それがニコニコしながら手を繋いで歩いている。少しでも知能の欠片がある奴なら寄って来ない。俺なら近付きたくない。ああ早く部屋に戻ってシャワーがしたい。


 サッパリしたら、暗くなるまでに一度狐族の村に行きたいと思っている。怪我をしたペタ軍団の男の子の様子見と治療だ。ペタも付いて来るかは本人に任せよう。


 それと、このグリードベアの生首をエジャにお届けだ。これもモンスター大発生の兆候として、まあ1つの証拠品になるだろう。




 本来、大森林の奥に生息するはずの強力なモンスターが、こんな短期間に2匹も出たんだ。こんなにポロポロ出るのが普通だったら、もうこの森には「魔の森」とでもいう称号が相応ふさわしい。帝国の地図に記載するべきだ。あと狐族の村も載せてやってくれ。


 いっそペタにライターの使い方を教えてやれば、この森の全てが火の海に沈むだろう。うん勿論、冗談だ。他の動物さん達が可愛そうだ。死んでもペタにライターの使い方は教えない。


 要は危ないのが森から出て来なけりゃいいんだ。何か理由がなければ、生態系が大きく変わる事なんてそうそうない。例えば餌不足とか、外来種が入り込んだとか。あ、俺も外来種だわ。関係ないよな?俺、悪くないよな?


 まあ俺以外の原因をエジャに見つけてもらいたい。ハッキリした原因が分かれば俺もターゲットが絞れる。グリードベア複数なんて相手にしたくない。




 そのグリードベアの首なし死体が、もう少し行ったら転がっている。あれはどうしよう。ホントなら村に持って行って皮をいでほしい。首と前足が1本ないが、それでも売れるかもしれない。完全版なら金貨50枚のシロモノだ。


 ただなあ、デカすぎるし重すぎるんだよ。頑張って引きずって行けたとしても、村に着いた頃にはすりきれて小さくなってるぞ。ああ、そしたら軽くなって運びやすくなるな。売れる部分もなくなるけどな。ってかそもそも、あの体重は運べません。


「そういや、お前どこに隠れてたんだ?」


 結局ペタが隠れていた場所は最後まで分からなかった。


「ハルキは、まだまだだなあ」


 ニヤニヤするペタ。


 コノヤロウ、人がイノシシやらオランウータンやら、この生首の大元やらと戦ってる時にじっとしてたくせに偉そうに。まあ最後ちょっと助けてもらったけど。ちょーっと。


「ハルキにワンチャンスだ!」


 ペタがテテテと走っていく。かくれんぼか。呑気のんきでいいね。まあ、またこんな感じになれて良かったわ。ペタとの関係性も俺の体も元に戻った。


 本来ならこの辺は危険地帯だが、グリードベアの体が転がってるから、まあモンスターは寄って来ないだろう。




 何で寄って来ないんだ?


 そう聞いたからそう信じていた。毛皮の臭いで寄って来ないってのは何となく分かる。強い獣がいると思えば確かに弱いのは近寄りたくないだろう。


 だが、あそこに転がってるのは毛皮というよりは肉と血の塊だ。死んでいるのがバレバレだ。じゃあ、あれはただのエサだ。


「ペタ!待て!」


 もうペタの姿は茂みの向こうに消えている。しまった。動物博士が聞いて呆れるぞ。常識じゃないか。死んだらどんな巨大な動物だって他の生物のかてでしかない。あの茂みの向こうはモンスターパラダイスでもおかしくない。


 背の高い草が頬を切るが構っていられない。一気に走り抜ける。




 何もいない。


 ペタも見当たらない。いや、それはいい。かくれんぼしてるんだろう。っていうかもう見つけた。そこの木の上にあるデカい鳥の巣の中だ。ゴソゴソ動いてる上に白い耳が少し出ている。弓も見えてる。どんだけ下手だ。


 問題はそこじゃない。何もいないんだ。いないじゃない、無いんだ。


 グリードベアの死体が無い。いや千切ちぎれた前足だけ残っている。


 どこに行ったのかは分かる。森の奥に血の跡が続いてる。自分でって行った?そんな訳がない。ゾンビか。確かにすげえ生命力だった。だけど首は俺の右手にぶら下がってる。流石にこれは置いて行かないだろう。


 じゃあなんで無い?答えは一つだ。他の何者かが引きずって行ったんだ。2トンの熊の死体を。


「ペタ!」


 返事がない。かくれんぼが続いてる。この光景を気にせずかくれんぼするとか凄いわ。大物だわ。単純に気にしてないんだろうな、ペタだからな。


 俺が色々と人間離れした事を、魔法使い族だから、で片付けるのと一緒だ。アイツがちょっと不思議な事をしても、ペタだからで片付く事に気付いた。


「ペタみーつけた」


「なんだってー!」


 ペタが木の上で跳び上がった。コイツ、見つかってなくてもコレで出て来る気がする。今度別のタイミングで試してみよう。今は移動が先だ。


「じゃあ次はペタが鬼だな。鬼ごっこだ。よーいドン!」


 ウチの部屋までのルートを思い出しながら走り出す。


「あっ、ずるいぞー!」


 ペタが騒ぎながら木を降りて来るのを横目で見つつ、倒れた大木を跳び越える。これは俺が持ち上げて動かした木だ。


 この木が何百キロあるかは知らないがグリードベアの死体よりは軽かった。あっちは目測だが2トンはあった。ペタが解体してる時に頼まれてひっくり返そうとしたが、かなりキツかったので止めた。その結果ペタは解体をあきらめて半ギレした。




 それを引きずってだが持ち去った奴がこの奥にいる。いや、動かすだけなら今の俺なら出来る。だが、この森の中を引きずって移動は出来ない。木もあれば石もある。起伏もある。


 確認するべきなのかもしれない。この目で見てエジャに報告するべきかもしれない。だがそいつが1匹だと言えるか?ただでさえグリードベアの2匹目が出たんだぞ。もうこの奥がどうなっているのか予想も出来ない。


 今は帰ろう。少しでも早くここを離れよう。ペタは……流石だ、付いて来てるな。


「ハハハハルキ!はやくないか!」


 ペタが俺に追いつけない。やっぱりな。森では最強のスピードをほこったペタより森、初心者の俺の方が速くなっている。


 森を移動する技術はペタの方が遥かに上だ。だが俺のスピードが単純に上がっている。力技でペタより速くなってしまった。少しスピードを落とそう。


「とったー!」


 ちょっと手を抜いた瞬間にペタのタッチが、いや蹴りが後頭部に入った。おい、お前の鬼ごっこは何か間違っていないか?


「ペタあ、部屋に着くまでに俺に捕まったら、飯抜きだ!」


 後頭部をさすりながら最大級の脅しをかけてやった。


「ひいいいいい!ペタをころすきかあ!」


 そう叫びながら逃げ始めたペタ。いやいや。お前の蹴りはな、もう子供の威力じゃないんだよ。俺が普通の人族だったら首が折れてるぞ。殺す気かはこっちのセリフなんだよ?飯抜きで済むならカワイイもんだろうが。え、お前、1回飯抜いたら死ぬの?


 まあいい。これでペタは最速でウチの部屋を目指す。とにかくあの安全地帯に少しでも早く入るべきだ。ペタがピョンピョンと木の間をすり抜けて行く。捕まえる気は無い。捕まえるのは簡単だが今は付いて行くだけだ。






 死にかけたせいだ。


 全身が砕け、死にかけた。そして宇宙人の謎治療で更に死ぬほどの痛みを味わった。これだ。


 俺の体が明らかにグリードベア戦の前より強化されている。全身満遍(まんべん)なくだ。恐らく今ならそこらにある岩もパンチで砕ける。鉄柵もグニャッと曲げれるかもしれない。




 あの治療だ。治療される度に俺の体はおかしくなっている。それもダメージが大きい程、強化の幅がデカい。ようやくシステムの一端が見えた。




 俺の体が気持ち悪いぐらい強化されたのは3回だ。初めてグリードベアに殺されかかった時。ゴブリンの襲撃の後。そして今回だ。


 あの宇宙人は俺の膝を治した時に、確か自己治癒力がナントカだって言ってた。細かい所は忘れた。だけどそれがおかしな事になっている原因だ。


 自己治癒力って事は「超回復」だ。


 スポーツをやってる人なら誰でも知っている言葉だ。筋肉はトレーニングで痛めつけられると前より少し強くなるように回復する。そうやって人は少しずつ強くなる。これが「超回復」ってやつだ。


 それをどうやら無理矢理、超短時間で起こされている。


 ただ、トレーニングというレベルじゃない大怪我まで、その対象にされている。あの痛みは回復と強化が同時に起きる時の弊害へいがいみたいなもんか。


 毎日のトレーニングが妙に身になると思っていたのも、一瞬で超回復が起こっていたからだろう。そういえばこっちに来てから筋肉痛をほとんど感じない。前は毎日どこかが痛いのが当たり前だったのに。


 拳の強化もその辺か。骨折した部分は綺麗に治せば前より丈夫になる。


 ザックリとはそんなとこだろう。だけど納得できない部分も数え切れない程ある。リン酸カルシウムが主成分の拳が石より固くなるのはおかしいとか、なんで体型が変わらないのかとか、そんな事はまだいい。




 人体の構造の問題だ。例えば手足の筋肉だけがこんなに強化されれば、まず内臓がもたない。心臓が破裂するぞ。血管だって神経だって脳だってぶっ壊れる。


 けんや骨の問題もある。とにかく人の体ってのは全部で1つの完成品なんだ。急にどこかが強くなったりしたら他が絶対におかしくなる。


 ああ、中途半端に人体の構造を知ってるせいで気持ち悪い事だらけだ。


 でもそういう事なんだな。そういう改造をされたんだ。俺が考えても分かる話じゃないんだろうが宇宙人。これどうすんだ。地球に帰れても、もう普通に生きて行けねえよ。


 それに老化現象や病気とかはどうなる。ガンになったら治るのか?どんどんガン細胞が増殖するのか?ああもう分からない。次に、もしテレビに出て来たら聞きたいことが山ほどあるぞ。お前らに会いたいなんて初めて思ったわ。


 あ、でもどうせ聞いても分からないか。やっぱり会いたくない。撤回。とりあえず体を戻せ。あと地球に戻せ。





 先を行くペタの尻尾がフルフル揺れている。森で最強は俺になったな。まあ村ではだけど。もういつでもその尻尾を掴める。


 一つだけ分かった事がある。俺が手っ取り早く強くなる方法だ。死ぬ程の怪我をすればいい。死ななければ強くなる。死ぬ程の痛みと共にな。


 そして俺の体はどんどんおかしくなる。もう既に人の体じゃない。俺の知識では追いつけない。もしかしたら大事な何かを、寿命とかを削っているのかもしれない。いつ心臓が止まってもおかしくないと思う。




 駄目だ、この方法は使えない。それどころか今、急に死ぬかもしれない。




読んでくださってありがとうございます。


ようやく気付いたみたいです。にぶいです。

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