第94話 あれが魔力なんですね
「ぷはー!うまい!」
ペタが、俺特製のミックスフルーツジュースを腰に手を当てて飲み、どこかのおっちゃんみたいに喜びを表現する。
よしよし。ようやく風呂上がりのマナーが身に付いたな。この一連の動きはもちろん、俺が指導、監修した物だ。出来れば牛乳とバナナを導入して完璧なミックスフルーツジュースを作りたい。コーヒーもあればコーヒー牛乳もいいよな。
短パンジャージの穴から出た尻尾がブンブンと振られている。うむ完璧だ。モフモフ尻尾まで入ってこの動作は完成するんだなあ。地球人では真似出来ないのが残念でならない。
町のスラムで見た毛無し猫ニャのメイドさん達にやってほしいな。あ、ライオン姉さんもタンクトップとかだと似合うかもしれない。健康的な感じで良い。ってどっちも女性の風呂上りじゃないか。完全に犯罪だ。見る方法などない。ペタは、まだ保護者と同じ風呂に入れる年齢だから問題なし。
ちょっとこっちの星に来てから、趣味が動物寄りの変態っぽくなってきたのは認めざるをえない。大体この歳で女性にドキドキしない方が病気だと思う。だが手を出す勇気は無いし出されるのも怖い。だってみんな野獣だ。俺なんかコロコロ遊ばれそうだ。
でもまだ目の前でジュースのお代わりを要求する幼女に何かを感じる程ではない。変態っぽいだけで変態ではない。断じて。
幼女っていくつまで幼女なんだろう?
ジュースのお代わりを渡しながら思案する。
あと10日ぐらいで7歳になるペタは、幼女なのか少女なのか分からない。小学校とか入る歳だよなあ。幼女っていう言い方がどうも犯罪くさいんだよ。じゃあ少女なら良いのかと言われると、それもまた犯罪の臭いがする。
まあいいか。小難しい事は考えないのが俺の短所でもあり長所でもある。
俺は自分の体の異常さと、その危険性に気が付いた。気が付いたが、どうにもならないとも気が付いた。長所発揮だ。
じゃあ今まで通りだ。痛いのも嫌だし死にたくないし、モンスターとかと戦う時は怪我しないように頑張る。攻撃、即離脱。ヒットアンドアウェイ。これが俺の昔からの戦闘スタイルだ。
ちょっと今回は相手が悪かっただけだ。また妙なパワーアップをしてしまったが、もうこういう事が出来るだけ起きないようにするしかない。
その相手、俺と死闘を演じたグリードベアの生首は部屋の外にぽいっと置いてある。だって獣臭いし血まみれだし、部屋には入れたくない。なくなったら……まあ仕方ない。どうせ売れる訳でもなかろうし。
何も死にかけからの超回復に頼らなくても、毎日のトレーニングで十分強くなれる。ちょっとずつだが地球にいた頃より遥かに効率が良い。そして突然死のリスクも少ない。多分。
ついでに今の段階で、もうグリードベアを正面から倒せるぐらいの体になっていると思う。まあ、慣らし運転が必要だし慢心は命取りだ。身に染みた。今回は今までは学べなかった事を沢山経験出来た。体の強化より心構えが強化された気がする。
ジュースを飲み終わったペタがベッドにダイブした。
「ふかふかだ!うおお!」
コイツは何度ウチのベッドに寝ても毎回、幸せそうにゴロゴロ転がる。あの狐族の村のベッドとは名ばかりの木の台に比べりゃ、そりゃ柔らかさも反発力も別次元だ。ナンタラ加工をされたスプリングだかコイルだかがタップリ入ってるしな。下手すりゃ、お貴族様のベッドより寝心地が良いんじゃないか?比べた事は無いが。あ、ペタの大騒ぎが止まった。ほら寝た。
涎をたらしながら睡眠モードに入ったペタの顔の下にタオルを差し込む。こいつは枕を使わない。村にもなかったし、犬っぽく丸くなって寝るのが好きみたいだ。寝てる時はもうペットにしか見えん。くそう可愛い。変態じゃないぞ、動物が好きなだけだ。
さて寝たんならいいか。村には俺だけで行って来よう。まだ日は高い。歩いて行っても暗くなるまでに戻れるだろう。
ちゃんと銀バッジが胸に付いてるのを確認する。風呂前と風呂上がりと、出掛ける時と気が向いた時、確認している。ハッキリ言って病気だな。だって、なくしたら金貨だ。潰しても金貨だ。余計な金は払いたくないんだ。ちなみに財布の中もしょっちゅう確認する。まだ金貨は7枚ある。よしよし。黄金の輝き、へへへ。……病気だろうか。
部屋の電気を消して玄関のドアを開ける。
「ハハハハルキ様あああ!」
えー、なんでいるの?
リカータさんが飛びついてきた。あ、全身モフモフ気持ちいい。
「はああ……本当に驚きました。心臓に悪いです」
俺特製ジュースを飲みながら、リカータさんが言っているのは、部屋の外にデンと置いてあるグリードベアの頭の事だ。そりゃビビるだろう。
ちなみに森の奥でわざわざ狩って来た事にしてある。わりかし近くで出会ったとバラすと、もう狐族の村に来てくれなくなりそうだ。
「それに、このお宅にも驚きです!もう何と言いますか……ファンタジーです!」
いや、喋るミーアキャットのリカータさんの方が、俺にとっちゃ本来ファンタジーなんだけどな。慣れって怖い。
クッションに座ったリカータさんは、ジュースの入ったグラスをなでなでしながらウットリしている。当然、冷蔵庫や作動真っ最中の洗濯乾燥機なんかも見られてしまった。
ってか、この人の目にはファンタジーというか、お金儲けの光しか見えない。ファンタジーな物を見る時の目は普通そんなにギラギラしない。売れる物は無いぞ。
本当は見せたくなかったんだけどなあ。わざわざ女性の足で森の小道を歩いて来られちゃ部屋に入れない訳にはいかない。
もちろん1人で来た訳じゃない。護衛のギルド員が4人付いて来ている。だがあいつらは部屋の外にいる。大人数だと狭いからっていうのと、周囲の見張りを頼んだ。何かあったらドアを叩いてもらう事になってる。
というのは建前だ。まず部屋の中を見せたくないのと、あとあいつらちょっと臭い。なんで村には川があるのに水浴びをしないんだ。習慣がない?知るか。そんな奴にはシャワーも貸したくない。シャワーの神様に失礼だ。グリードベアの頭と仲良くしとけ。でも水は出してやったぞ。優しいな俺。
あ、リカータさんはちゃんとキレイにしてるし、なんか良い香りもする。流石は女性社長だ。
「あと、その箱とあの板と、ああ、この長細いのは何ですか!」
だがリカータさんからの質問が止まらん。入れなきゃ良かったと後悔している。質問には適当に答える。動力は全て魔力です。普通の人には使えません。
「あれが魔力なんですね。綺麗……」
ベランダに見える地球を見ながら呟くリカータさん。うん、そういう事にしといた。そういやこの人、今日あたり帰ると思ってたんだけどな。
「リカータさん、なんでまだ村にいるんすか?」
「魔法使い族のお宅を訪問せずには帰れません!」
間髪入れずに答えが帰ってきた。この人は押しがすごい。ああ、護衛中から見たがってる雰囲気はあったわ。何か売って欲しいんだ。
「それに、石ヤドカリの輸送の準備もありますので、1日予定をずらしました」
おっと、やっぱり社長だ。そういうちゃんとした理由があるんだな。という事はウチはついでだな。疑ってゴメン。
「それでですね、ハルキ様。このグラスなんですが」
「売りません」
「じゃあ、あちらにあった大きい鏡を」
「駄目っす」
やっぱりリカータさんはブレなかった。
洗濯乾燥機が止まった。乾燥したてホカホカの服を引っ張り出しながら、興奮して食いついてくるリカータさんの追及をのらりくらりと躱していると、
「ハルキー、おなかすいた」
寝た子が起きた。ああ、もうそんな時間か。
「ペタちゃんおはよう」
「あれ、なんでおねえちゃんがいるんだ?うわきか?」
寝ぼけててもコイツもブレない。
村に向かって小道を歩く。リカータさん一行もいるから、かなり多い。だが護衛の傭兵ギルド員達は若干引き気味に離れている。
「すごいですねえ、初めて見ましたこれ。すごいですねえ」
リカータさんが大きな熊の頭を抱えてニコニコしているからだ。ちょっと女性としてどうなんだろう。もう乾いてるから血が付かないとはいえ、臭いもすごいぞ。正直、俺も引く。
「ペタがとどめをさしたんだ!」
まあペタの言う事は間違っていない。放っといても死んだと思うが、その場合俺も死んでいた可能性が高いのでペタに文句は無い。無いが、そこら辺はあえて触れない。
19本あった鉄の矢は15本までは回収出来た。キッチリ脂や血を拭ってペタの矢筒に戻っている。残り4本は矢じりが潰れてしまったので駄目だ。それと俺の投げナイフも2本回収出来た。予備もあったので俺の投げナイフホルダーはフル充填だ。
大活躍してくれた高級ナイフは、ちゃんと手入れがしたい。エジャか狩人の誰かに色々教わろう。ペタでも良いが、そこは大人のプライドがアレなもんで。
「皮もあれば買い取りたかったです」
リカータさん、それは俺も売りたかったです。でも持って来れなかったどころか何者かに持って行かれました。言えないけどな。
「あんなの、ひとりじゃはがせない!」
ペタがプリプリ怒り出した。目を逸らす。ああそうだな。俺にその技術があればあの場で解体出来たわ多分。でも、うんキモチワルイ。だからいいよな。大金貰っても怖いし。金貨7枚。これぐらいが俺には丁度良い。ポーチに入るし。
そしてペタは村に行くと言うと普通に付いて来た。もう家出はやめたんだろうか。早いな。いや良い事なんだけど、ちょっと夜がさみしく……なんかないぞ。
「あ、そうだリカータさん。ウチの部屋の周りの地面見ました?」
ふと思いついて聞いてみる。
「え?あの丸いお庭ですか?ええ。とっても綺麗にお手入れされてますね」
リカータさんは帝国内のあちこちで商売をしている。拠点はあの町だが、新商品や高額商品なんかは自ら足を運んでいる。だから海までのルートなんかも教えてもらえた。
そんな地理に詳しいこの人なら、もしかしたら見た事があるかもしれない。
「そうっす。あの丸い庭なんですけど、ああいうのが不自然にある場所とか他に知りませんか?」
リカータさんは少し首を捻りながら考える。
「不自然に丸いお庭ですか……」
「庭じゃなくても、何か真ん丸だなーみたいな地形とか、洞窟でも良いです」
あの円形は宇宙人の作った【巣】の入り口を示すミステリーサークルだ。絶対にあちこちにあるはずなんだ。この辺みたいに森の中とかだと見つけにくいかもしれないが、人族が普通に暮らしているような所にもあると思う。
リカータさんがポンっと手を打って……いや、打ちそうな感じで言う。
「あ、真ん丸の湖があります。どうやって出来たのか誰も知らないんですよね」
手が打てなかったのはグリードベアの頭をまだ抱えているからだ。結構力持ちだなこの人。しかし湖か。そういうのもあるだろうな。可能性は高い。
「ちょっと、場所教えてもらっていいすか?ペタ、お姉ちゃんの荷物持ってあげてくれるか?」
「おうよ!ちょうだい!」
ペタがグリードベアの頭をリカータさんから奪った。少し寂しそうなリカータさん。持って帰りたかったんだろうか。もしかして毛有りの人族から見たらイケメンなんだろうか、このグリードベア。かなり穴だらけなんだが。
そして大きさ的に前が見えなくなってフラフラしているペタ。あ、ギルド員に「もっていいぞ」って押し付けた。すげえ嫌そうだぞそいつ。
スマホを取り出して、帝国全土の地図を表示しながらリカータさんに見せる。
「みえない!」ペタが肩に飛び乗って来た。リスか。
「ええっと、この赤丸がウチの家で、ここが狐族の村なんですけど、どこらへんですかね?」
「おおおお!村にまるがついてる!やった!」
ペタが嬉しそうだ。でも惜しい、これは村って意味じゃないんだ。
スマホの写真に加工が出来るのには昨日気付いたばかりだ。ウチの部屋と狐族の村、あと大洞窟に赤い丸をつけておいた。【巣】のある場所だ。まあ地図がいい加減だから適当なんだが。
リカータさんに画面を見せながら、アップにしたり移動させたりしながら聞く。おいペタ身を乗り出すな。リカータさんに見せてるんだから……
あれ、リカータさんがプルプルしてる。あヤバイ、目が光った。
「金貨2000枚で売って下さい!」
一生遊んで暮らせるわそれ。
読んでくださってありがとうございます。
ブレません。




